第十二話 初めて迎える十五の夜、彼女は一緒にいてくれた。
訊きたいことは多分にあった。
「どうしたんだ? こんな所で」
でも、それしか言葉が見つからなかった。
「ママに怒られちゃったの……」
と、もちろん答えになってない。だけども、問い詰めるにはあまりにも
その中の、九棟の二階と一階の中間にある踊り場。つまり俺の家の玄関口までは目と鼻の先だ。そこでさっきまで、ミズッチが何らかの、少女漫画のヒロインになりきった感じで
それからスーパーの袋が二つだ。
右腕からぶら下がっている。この時ばかりは『初めてのおつかい』には、強引にしても当てはめようのない『熟練』というよりも、一足先の『主婦オーラ―』まで感じた。
で、
それでも、俺は言う。「ここでは何だから、
「うん」
それでも、ミズッチは通常通りに返事……だけども、玄関のドアをオープンにして導いてあげても、いつもみたいに『ケロッ』とはしなくて、しおらしいままだ。
それで思った。まさに迅速な対応だ。思ったことはすぐさま言葉になる。
「あのさ、怒ってる? 昨日の『壁ドン』」
と、そんな感じで、恐る恐る訊いてみた。
「未来君はどう思う?」
って、普通は怒ると思う。ミズッチは少し目が座っているようだ。
ついに野生の『タイガー』が目覚めるのか? 少々怖い気がした。
でも、負けるな!
今は二〇二号室。ミズッチと向かい合わせに立っている。つまりは玄関を上がり終えて家の中だ。それで舞台は、玄関すぐの俺の部屋を通り越して台所。テーブルの上にはスーパーの袋が二つ。もちろん買い物袋として利用されて品物入りだ。
「ちゃんと答えろよ! 俺にあんなことされて、泣いてたじゃないか……」って、ミズッチの胸倉を
そう。馬鹿みたいに涙が出てきて、そこでとうとう大泣きだ。
「うんうん……」
と、それでもミズッチは和やかな笑みを浮かべ、そっと俺を包み込んだ。小柄で、俺よりも子供にしか思えなかったミズッチが、ほんとは大きくて、ずっと大人に見えた。
で、いつの間にか、俺は膝を突きながらも、
と、思っていたら、
「ねえねえ未来君、思いっ切り泣いたら、お腹って空くんだね」
「へ?」
まさかの一言……。
あの大スクリーンに流れた『全米が涙した……』という字幕付きのCMに相当するくらいの、本音をぶつけた末に、大泣きまでした感動的なシーンが、ほんの束の間で、音を立てて崩れてしまった。……やっぱりまだ先生には昇格できず、ミズッチのままだ。
おかげで俺は、涙を拭くのも忘れてキョトンとしたまま、開いた口も塞がらない最高に間抜けな顔を
その反対側で、抜かりなく俺も見ていた。
この室内より外にいた時よりも雲泥の差。この家庭の
「お誕生日には豚汁だよ」と。
そこで俺は、(おい
「
……それからそうそう、ミズッチはいつも一人称が『わたし』だ。でもたまに『瑞希』って、名前に変わることがある。……って、そうじゃなくて、
「おいおい何勝手に決めてんだよ。そんなことしてて親父やお祖母ちゃんが帰って来たら
……まあ、ミズッチは二十五歳。お母さんのことを、まだ「ママ」と呼んでいても、もう立派な大人。社会人。それも先生で俺の担任。更に言うなら、俺のクラブの顧問でもある。というわけで
ジャーン! と、彼女が奏でる効果音。
それに合わせてスーパーの袋二つの内一つから取り出し、わざわざ広げて、
「パジャマだって持ってきてるんだから!」
……だった。それもハート柄のピンク色。
彼女は国語の先生。それ以前に同じ日本人。和製極まれりのはずだ。それでも会話が成り立たず、人の話も右から左で、多分だけど聞いてない。
……最近は、シナリオにも影響するほどだ。
それでも関係なく、すっかりミズッチのペースにハマり、俺の青春ありきの学園ものドラマは、想像とは異なる方向へ進展していくことだろう……。
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