13

真剣な眼差しで見つめている時坂に俺が言うと、時坂は息を吹き返す。


「まあ、この空気のやり方を教えるから私が教えたとおりにやってみると、これと同じようにできるよ」


 そう言って空気を左指で鳴らすと消え、長塚はさっそく準備を始めた。


 服の袖をまくり、三角フラスコ、丸フラスコ、試験管にビーカーと理科の実験で使うような道具ばかりを揃え始めた。


 それは俺達が扱うよりも手際が良く、さっさといろいろな材料を混ぜていく。


 空気の材料となる窒素、二酸化炭素、酸素と他に小瓶に入った細かい粉を混ぜ合わせていく。


 それをガスバーナーにマッチの火で点けた青い炎を鉄の台の下に置き、その上に原料として作っておいた薬品を温め始めた。


 しばらくすると、いい香りが部屋中に充満してきた。


 ビーカーの中でブクブクと沸騰していく薬品はだんだんと出来上がっていった。


 そして、できた薬品は三角フラスコに注いでアルミホイルでかぶせて蓋をした。


 それを電子レンジに移して、二分ほど待つ。


 それから電子レンジから取り出すと、それは綺麗な星砂のような色をしていた。青色の輝く砂、それは素晴らしいものだった。


 そして、花瓶に注いでコルクで蓋をする。


 残りの薬品を掌に載せると、フッと顔が笑った。


「すげぇ‼ なんだよ、それ……」


 それが最初のコメントだった。


 彼女の掌を触ってみる。柔らかくて優しい感覚が指から伝わってくる。


「これは魔法の星砂。練習すればこれも作れるようになるよ」


 と、俺と時坂に少しずつ渡してくれた。


「へぇ……、これが星砂……。どうやって使うの?」


「それを空中に撒いてみてみるといいよ」


 長塚は実際に空気中に撒いてみせた。


「ほらね。オーロラみたいに輝いているでしょ。これが空気の色を現しているの。実際には目で見えない空気でも触らなくても目で見える」


「もうその残りをもらえればいいんじゃないのか?」


「ダメだよ。これを作ってみれば他にも違う星砂が作ることができるんだよ。私も手伝うからそこら辺は大丈夫だよ」


「そうなのか……。まぁ、俺も部屋の中で天体観測ができる星砂が欲しいからな……」


 そう言われると、本気を出さない俺でもやってみようと思う心が躍り出す。


 そして、俺はゆっくりと心の中で灯心を燃やす。


 そして、長塚の指導の下、俺たち二人は星砂つくりに挑戦してみる。手順は全く一緒であり、長塚は一人一人に指示をしながらゆっくりと進めていった。


 そして、ガスバーナーで温めた時まではうまくいったような気がしていた。


 しかし、急にビーカーの中で星砂が爆発した。


「あははは……。まぁ、始めのうちはこんなことが何回も起こるけど、これはこれで家の外に撒いておけば肥料となるから別に無駄にはならないんだよね」


「それに星砂って言っても、原料となるものはこっちの世界でも手に入るものなんだよ。この世界の人たちは知らずに生活しているようだけど……」


「そうだったのか……。俺は知らなかったが、時坂、この材料が売っている場所って知っているか? できれば安い店を教えてくれるとありがたいんだが……」


「まあ、この地域なら中央通りにあるスーパーが一番安いはずよ」


 時坂は深々と溜息を洩らしながら、体中に染みついた汗をハンドタオルで何度も拭き、邪魔そうな髪をまとめた。


 しかし、俺よりも時坂の方はいい所まで行っていた。電子レンジから取り出して中身を確認するまでは良かったのだが、やはり、色が変化していたのだ。


「くっ……。なかなか難しいわね」


 時坂は肩を落とした。

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