10
「そうそう、始めは魔法を覚える前には魔力を高めるための瞑想をしなければならないんだよ。大気中に広がる微力の魔力を感じるんだよ」
さらりとまた難しい事を言うな、こいつ。
冷蔵庫から魔法の力で持ってこさせた缶ジュースをコップに注ぎ、長塚は俺たち二人に渡してくれた。
小さな魔法でも突を掴めばそこから少しずつ上達していくものだ。
そして、口の中にジュースを入れて、息を整えると時坂が口を開いた。
「さて、続きを始めましょうか。これくらいで弱音を吐く私じゃないわ」
「そうだな。俺もこいつだけには負けたくねぇ……」
「…………。まぁ、競い合うのはいい事だと思うよ」
「私はそんな事は思っていないわよ」
「あ、そう……」
つまらなそうに落胆する長塚。深いため息を漏らす。
「急いでやってもそんなにうまくならないよー。焦らずゆっくりねぇ……」
それを聞いて時坂がふぅとゆっくりと息を吐く。
「……さて、コツは掴んだわ」
「で、何をするんだ?」
そう生き生きとした目で言う時坂に俺は訊く。
「もう一度やってみるって事よ」
「そんなので大丈夫なのか?」
俺が思う限りでは反復は実に素晴らしい事ではある。
だが、反復しても先に進まない時がある。常に進化し続ける者、常にシンプル・ザ・ベストを貫く者。簡単に言えばこの二つである。進化し続けることはそれを基盤に応用や新たな事に手を出すことを意味し、シンプルはこれを重点的に強い意志で貫き通すことだと俺はそう解釈しているのだ。
「大丈夫よ。私は私のやり方で貫き通すもの……」
時坂がそう言って、集中し始める。
「桐谷君。魔法は人それぞれって言ったよね?ここだよ、ここ……」
「あ、ああ……」
「ここが弱いと魔法は答えてくれない。新しいのに手を出すのはいいけど、これはこれで結構魅力的なんだよね……」
長塚の言葉はもっともの事だった。
時坂はコップに集中しながら小さな魔法でゆっくりと宙に浮かせる。指とコップを繋ぐ魔法の光は、虹色に光っていた。
それはみるみる薄くなっていった。
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