8

 少し雨でぬれて髪の毛が乾いていくのを感じ、ふっと笑ってしまう。


「あのね、桐谷君……」


「ああ?」


 しおれた髪を整え直しながらしている俺に長塚は声をかけた。俺は威嚇っぽく返事をしてしまう。


「魔法は時には魔に陥る時があるから気を付けてね」


「魔に落ちる時はどうすればいいんだ? 何かされるのか?」


「されるよ……」


 それを聞いて長塚は面白がって微笑んだ。


「さて、本番に入るよ!」


 ハンガーにかけてあった白衣を着て、袖をまくり、地球儀みたいな球体を載せた道具を持ってくる。球体は綺麗な光を帯びた水色の水晶である。そこには自分の顔がみっともなく映っており、情けない。


 これは魔法水晶と言うらしい。


 これに手をかざし、魔力適性を調べる。


 簡単に述べれば、適性検査みたいなことをする。


 そして、それをクリアすれば何の魔法が自分の使えるのかも解り、いよいよ次のステップへと階段を登る。


 ふと時坂の方を見ると、彼女は青い顔をして額を押さえている。魔法の深さを知らない俺ですらなんとなく分かってしまうのだ。だが、長塚にしてみれば安易な事だろう。


「さてと……」


 そう言って長塚は古い書物を取り出した。


「古い書物か。それにはどんなことが書かれてあるんだ? 何かの呪文なのか?」


「はぁ? 違うよ。これはまぁ……安易なマニュアル説明書みたいなものだよ」


 長塚はその書物を読みながら俺の質問に答える。すると、数ページほど文章を数十秒で読み終えると、書物を閉じていた。


「早すぎるだろ‼」


「いや、これくらいは普通だよ。魔法というのは読めば読むほど難しくなっていくもの。だけど、今の段階はものすごい簡単なんだよ」


「理解できねぇ……」


 そう言って、次にまた新たな道具を取り出して、神を机の上に出し、筆を執って何かを書き始めた。


 結論から述べると、長塚には魔法の基本的な考え方については理解している。足りないものを足りているもので補い、平等にしている。


 長塚はその器用さを大いに生かして、未だに魔法水晶に手をかざしている俺達に次の指示を送る気配が無い。腕の方がつりそうだ。筋肉がちぎれる感覚。


 そして、やっと指示が出て腕が解放されたころには、全ての情報がもう揃っている頃だった。そして、彼女が書いた紙を渡される。


「疲れた……」


 長塚は息を切らせた状態で、天井を見つめている。


「お疲れ様……。それにしても適性を調べるだけでこれだけの順序が多いなんて初めて知ったわ……」


 時坂が呟く。手首をゆっくりと何週も回しながら長塚の書いた言葉を呼んでいた。

 長塚は机に置いていたコーヒーを飲んでいる。

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