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「それが私にも分からないんだ……。気づいたらこっちの世界に来ていたことしか……」
この言葉には嘘をついているような要素は含まれていないようだ。だが、そのダルそうないい方は、何かこの世界を今にも破壊しそうな話し方だ。魔法使いならいつでもできそうだ。国家も相手してしまいそうで怖い。
長塚を改めて見ると、短い時間その場の雰囲気の沈黙が続き、そして、俺が口を開く。
「気づいたらこっちの世界って……。何の前触れもなくこっちに来たって事なのか?」
「そうだよ……。本当に困るんだよね……。向こうだったら魔法が使い放題なのに……」
どうやら俺の感は鋭かったらしく、長塚はいつか、本当に世界を滅ぼすかもしれないと八割がた思った。
残りの二割というのは、願いを込めての二割である。だが、その望みは高望みと言って、俺にはどうすることもできない。人類の運命はこの少女に託された。みたいなことを誰かが思っていたら俺に連絡してくれ。
長塚は呼び出したのはいいが、時間が長くなり出すと静かになり始める。
「ねぇ、この世界ってなんだかおかしいよね……。自然から魔力が感じられるんだよね」
窓の外を見ながら、長塚はそう言いだした。
「この世界に魔力を感じる?」
そんなファンタジーな世界になっているのか。
時坂は俺の疑問に思ったことと同じように首を傾げていた。
「私達にはそんな不思議な感覚を感じることはないのだけれど……」
その間隔を俺と時坂は本当に感じない。
「そうだな。俺も全く感じない。この世界の未来なら知っているけどな……」
欠伸をしながら長塚に俺は言う。確かに俺は未来の事しか知らない。
「たとえば、あそこに見える大きな木から微かな魔力を感じるの。私の魔法のほとんどは日常的に使うものばかりであって、人を殺すとかそう言った強力な魔法はそこまで扱えないからそこは心配しなくても大丈夫だよ、桐谷君」
そんな幸せな魔法は誰もが覚えてみたいものだ。
と、言うよりもなぜか俺が考えていたことまで指摘されてしまうと、なぜ、それが分かったのかと思ってしまう。だが、日常的な魔法というのは一体どんな風に活用するのだろうか。一秒で学校に登校できるとか、目の前に料理が出来てるとか、そんな夢の事だと嬉しい。
「だって、君の思考が私にそう言ったんだよ」
長塚は俺を見て、ふふふ、と笑って見せた。
その笑顔は全てがお見通しと言っているかのようで、また、その笑顔にドキッとした。シャンプーの香りがこっちまで漂ってくる。
本当に危険だ。やばい奴に出会ってしまったな……。
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