第3章  いつまでも魔法はうそをつかない

3-1

「それで、今日はなんで俺が呼ばれたんだ?」


「さぁ……」


「無視するなよ……」


 金曜日、いつもなら平日で学校があるのだが祭日のため、学校がお休みになっているのだ。


 だからなのか、今朝、時坂ときさかから急な電話がかかってきた。自分の家の電話番号なんて教えてもいなかったのになぜ知っていたのかが怖い。


 そして、呼び出された場所というのが俺の家から近場の駅にあるカフェテリアである。


 そこは勉強スペースや本屋、コンビニ、カフェがある。


 そして、俺は自分で買ったカフェオレを飲みながら目の前で本を読んでいる時坂を見た。


「それで、なぜ、ここに俺が呼ばれた理由を早く教えてはもらえないだろうか?」


 時坂もまたなぜか、苛々していた。俺のせいじゃないのに怒っているご様子。


「私だってあなたから呼ばれてきたのだけれど、電話がかかって来てね」


 時坂も俺から呼び出されたようである。


 すると入り口の向こうから扉が開いた。そこから同じくらいの若い少女が店内に入ってきて、俺達に気づくと、近づいてきた。


 肩までの茶髪にストレートヘアが、歩くたびにフワッと宙に浮く。堂々とした歩き方はその美しさを引き出させる。


 ……誰だ? あいつ。


「ねぇ、二人が時坂沙織ときさかさおりさんと桐谷総悟きりたにそうごでいいよね」


「俺は呼び捨てかよ……」


 初対面で呼び捨てって、どんな女なんだよ……。


 始めている少女だ。


 私服姿ではあるが、時坂と並ぶ美少女である。同じ高校なら普通、噂になるはずなのだが、俺はまるで知りもしない。ラフな格好をした服に短めのスカート、首にはネックレスを掛けていた。一方、時坂は足首より少し上まである長いスカートに青一色の大人びた服を着ていた。月と鼈みたいな感じだ。


 そして、紅一点の俺である。普通は女子に使うのだが、今回は俺であるのだ。


 だが、なんで彼女が俺達の名を知っているのか。そして、なんでこの場所を知っているのか。色々と疑問点がある。


 一体彼女は誰なのだろうか?


 ……こんなかわいい女子が俺たちに話しかけること自体あり得ることはない。俺の世界では女子に話しかけられるなんて一週間に五回から十回くらいだったような気がする。


「あなた誰?」


 まぁ、そうなるな……。


 もっともの言葉である。俺もそれが訊きたかったのだ。


 時坂は本当に少し怒っているようだが、実際、この場に来ているだけでそうではない。


「ああ、やはりそういう質問が来るか……」


 彼女は愛想笑いをしながらも、空いている両サイドの俺から見て右側の席に座り、膝の上にバックを置いた。


「私の名前は長塚美希ながつかみき


「長塚美希? 聞き覚えのない名前だわ」


 長塚美希は自己紹介すると表情を明るくする。時坂はその名前を知らないらしい。と、いう事は彼女の三年間で長塚美希という名は無かったということになるだろう。


「お前が知らないってことは、もしかして……」


「そうなるわ。さすがに同級生の名前くらいはすべて覚えているわよ」


「おいおい、マジかよ……」


「つまり、長塚美希という名は聞いたことが無かったと言うよりも、止まった時間が少しずつ動き始めたと言ってもいいわ。それで、今度はどういった体質の人なの? あなたが彼女から訊き出しなさいよ」

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