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 そして、俺と彼女は誰一人友達がいないのをお互いに知っている。校内でも俺達と積極的に話そうとする生徒なんていない。


 それでも、この少女は手強すぎる。


「それにしてもお前、どうやったらそんなに偉そうな口調で言えるわけ? 生徒会長でもそんな権限持ってねぇーぞ」


 そうでも言わないと、俺の気が治まらない。


 このまま引き下がっていれば、いずれ俺の存在自体がクズ以下になるような気がした。クズは言い過ぎかな? それでもこの本は俺にとっては必要な物であるのだ。


 俺は今までの経験を生かして慎重に言葉を選ぶ。


「時坂。お前や周りの奴はそう言うかもしれないが、情報というものは時には役に立つ」


「そんな情報なんて意味ないわよ」


 時坂はフフッと微笑みながら俺の方を見るが、その目は冷たくて恐ろしい。


 この時代のクラスメイトもそうだが、人間を見れば見るほど、自分がどの程度の人間なのか思い知らされるほどよく分かってしまう。


「だって、それは過去のものにただ少しの最新のデータが組み込まれただけのものだもの。そんな無駄な事をしている暇があるなら。ネットのニュースで世間の事を知った方がいいわよ」


 それにしても俺が思うに時坂の日常的な会話はこの場以外聞いたことが無いな。教師に訊いてみたが、口数は少ない方らしい。


「要は効率のよさって事ね……」


 そう言われてしまうと、この世界での効率など裏技的な事を知っているのだろう。そう考えると、納得してしまう。


「伊達に三年間を繰り返していらっしゃる……」


 俺がため息交じりに言葉を口にすると、時坂が睨みつけてくる。


「そうよ。今までの三年間で何度も繰り返しをすれば、テストの解答も分かってしまうし、嫌なことからは避けて通れるものよ」


 そして、よく見てみるとうなじの滑らかな曲線が俺から見て、少しエロく感じる。これが浴衣姿になるとどうなってしまうのだろうか。


 その様子を見て俺は今更であるが、冷静さを忘れていたことに気がつく。すっかり彼女のペースに乗せられていた。


 あれを訊いてみるか……。


「一応、訊いてもいいか? 俺以外の不思議な力を持つ人間にあったことはあるのか?」


 俺がそう言うと、時坂は顎に手を当てながら考えだした。


「……それはないと思うわ。あなたが初めてだったから」


「他の土地や今までにあった中で誰一人としてなのか。使えねぇ……」


 記憶力が無さすぎる。


 まぁ、俺もそこまで記憶のいい頭ではないが、それなりの記憶は頭の中や電脳世界に残しているのだ。今では使い物にならないが……。


 記憶力テストやクイズ王なんか、俺の知らない訳の分からない単語を並べては正確に答えていたぞ! あの長い首都名なんて言ったっけ?


 そもそも俺が時坂に訊いたのが間違った。女子の関係がこの世で一番面倒なのだと知っていたのにも関わらず、俺は人間関係を侮ってしまった。いわゆる罠だったのかもしれない。罠だ、罠だ、罠だ!


 一息つき。


「まあ、俺もそこまで言える立場ではないが一応誤っておく。すまない……」


「何? その謝り方……。別に私は気にしていないけど、なんだかムカついたからもう一度、誠意をもって誤ってくれる?」


「あーそう、すまない」


 こちらをじっと見つめてくる時坂はそっぽ向き、


「くくく……。ふふふ……」


 口元を抑えながら笑っているようだ。


「あーあ、少し面白かったわ……」

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