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と、馬鹿みたいな想像をしていると、時坂はこちらを見て微笑みながら言った。
「まあ、人はこれから機会に操られていくのは明白に分かるわ。だって、その腐った眼と腐った心がそうじゃない」
「悪かったな! なりたくってなってんじゃねぇ!」
「ごめんなさい。未来の事情なんて私、知らなかったから……」
「それは関係ないだろ? どの時代でも人間は人間だ」
少しイラっと来ている俺の心に火が点いた。時坂は反省の色もしていなく、普通に平然とした態度をしている。
「それもそうね。人間の腐った心って歳を重ねても変わらないものだったわね」
「はいはい、そうですね。もう、その話はいいわ。後々、面倒だわ」
そう、適当な言葉を並べながら俺が言うと、時坂はその鋭い牙を収めた。
これ以上討論しても無駄だと思った。俺が自分でそう思っているだけで、彼女がやめるとは言っていない。言い終えると、次は時坂が口を開く。
「と、いう事でこの話も終わりにしましょう。それにしても、あなたは一体、どこに住んでいるの? 百年後の世界から来たのよね?」
左手で噛みを撫でながら、時坂は首を傾げて疑問に思っている。そして、にこやかに微笑んだ。
「この時代の両親はいないはずよ。そもそも戸籍とかどうしているの?」
「爺ちゃんと俺の体が入れ替わったからすべてが俺の名前に書き換えられていたんだよ」
「なんだか、おかしな話ね。人の体が入れ替わって、その時代にいるはずの人間を上書きして存在するなんて……」
「そんなのファンタジー小説や漫画ではお約束な話だろ?」
「それはそれ、これはこれよ」
「いや、現実に起こっているのだから関係ないわけがないだろ?」
「面倒くさっ……」
変な理屈を言ったのが悪かったのだろうか、俺を時坂は少し離れた位置に移動して睨みつけてくる。お前の方が面倒くせーっていうの!
それからは二人で色々とこの現象について本やネット上で隅から隅まで調べる。その間はものすごく静かだった。
その静かな空間の中で男女二人が黙ったままになると、これはこれで居心地が悪すぎる。
そして、この時代の古きスピーカーからチャイムの音が流れ出した。これは終わりを知らせる音である。
俺にとっては珍しい音である。
その音を聞いた後、時坂の手は止まった。そして、「はぁ……」と息を吐くと、椅子にぐったりとなった。そして、俺の方を見る。
どうやら帰宅する時刻を知らせたチャイムだったらしい。
俺はそのチャイムの音を未だに聞き分けていない。
それにこの学校のシステムもロクに覚えていないのだ。
そんな時代に飛ばされた俺が一つだけ言いたいことがある。
時代が違えど、人間は同じ生き物であり、そして、関わるだけで面倒だとそう思った。いや、思ったんじゃない。いつだってそうだ。
俺はこの体験をいつまでも覚えているだろう。死ぬまでこの記憶が脳裏から消えることが無いのだから————
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