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「私の頭の中にはこの三年間の出来事が何回も繰り返して起きている。だから、今後、何が起こるのか分かるって事よ」


 それはつまり、俺はこの三年間を永遠と繰り返している彼女には頭が上がらないということだ。


 ちょっと待てよ。という事は、時坂は今、何歳になるのだろうか?


 もし、千回以上も繰り返しているのが本当なら、今は千歳以上になっているということだ。


 しかし、彼女の外見を見てみるとどう見てもおかしい。十代の姿にしか見えないのだ。つまり、彼女の体は時が止まっているということになる。


「エンドレス、ループという事か……」


「話が早いわね。驚いたわ」


「まぁ、俺も似たような体験をしているからな……」


「何を言っているの、あなた……。そんな話、聞いたことが無いわ。どういうこと?」


 あれ? 何かがおかしい。今の言葉、聞き捨てならない。俺が似たような体験をしていることを聞いたことが無い? もしかすると、その俺は別の俺ということになるのか。だが、時坂の言い癖からするとそうなる。


「そんな話? どういうことだ?」


 本当にそうだ。俺が未来から来た人間ということを何千回も繰り返した俺は、そのことを口にしていなかったということになる。


「だから、私が知っているあなたは普通の何もとりえのない男子生徒という事よ。それ以上それ以下も知らない」


 突発的に何の脈絡もなく、ただのモブキャラとしてしか見ていなかったようだ。


 モブキャラといえば、アニメやドラマで映像の隅っこでなんとなく写っている人物の事を指す。だが、モブキャラにも意外と魅力的なところもあるわけで。


 俺はポケットに入れていた眼鏡を取り出すと、検索を始めた。



 第一検索ワード『桐谷総悟』

 第二検索ワード『X〇一四』

 第三検索ワード『時坂沙織』

 以上————



 そして、検索を開始する。多くの情報を処理するこの精密機械にかかればすぐだ。


 だが、そこに浮かび上がったのは『エラー』という三文字のみ。何かおかしな点があったのかと思ったが、それは違う。この時代の情報を取り出すことができないということだ。


 俺が頭を悩ませていると、時坂は目を大きくして驚いていた。


「あなた、その機械、一体何なの……。繰り返されてからあなたという存在を初めて見たわ。あなたは何千回のあなたとは別のあなたという事なの? え、ちょっと待って……。それって、おかしいじゃない……。何が起きているのよ」


 いつの間にやら時坂は床で蹲っていた。体が震えている。


「どういう事よ。おかしな話よ……」


 何を感じ取ったのか最後の方は聞こえなかったが、俺は彼女が何かに怯えていることは何となく分かった気がした。


 なぜか、俺が泣かしたかのようにこの場を見た人間はそう言うと思う。


「繰り返されしこの世界が時を刻むって事なの。だったら、この世界がどうなるか分からないわ。もし、そうだとしたら私はどうすれば……」


 本当にどうしたんだろうか。時坂は別人のように豹変している。その冷静さが失われて行っている。


 すごい汗を流しながらようやく立ち上がると、時坂の容姿はなぜかさっきより綺麗に見える。いや、それは錯覚だ。


「おい……」


 だが、これは声を掛けられる状況ではない。俺が今何をすべきかを考えた方がいい。言葉の限りを尽くして選ばなければならない。


「まあ、お前がこの閉じ込められた世界から脱出できないとするならば、俺も似たような体質かもしれないな。百年後の未来から来た俺は、この世界に飛ばされた。つまり、時坂が悩んでいるのと関係あるかもしれない……」


「百年後の未来が今と関係するとは思えないわ。そもそも、私の場合、この三年間が永遠に続く理由なんて分からないのよ。色々と試してはみたけれどね……」


「そんなの分かるわけねぇーだろ? 面倒くせぇ女だな」


 本当に面倒な女だが、それは俺も一緒だ。俺たち二人は自分の置かれている立場は違えど、他人事には思えない。時坂沙織という女は、臆病な少女なのかもしれない。


 まあ、美人であるが性格が残念だ。


 だが脅えを通り越して今や微笑を浮かべている。冷徹な態度を維持しながら冷静に事を運んでいくのだ。


「そうな。つまり、あなたが今まであなたじゃないってことは、私はこの世界から脱出できる可能性が出てきたという事ね」


 時坂はグッと拳を握り、目が輝いた。


「そうなれば、この解決は三年間じっくりと考えて、しっかりと対処していくべきね。つまり、今日、この瞬間からこの部は文芸部並びに超常現象部として活動するわよ」

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