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「……今から準備できるものはあるか?」


 今から準備できるものってなんだよ。どこかに旅行にでも行くつもりか?


「家に帰れば、すぐにできると思うけど……」


 なんとなく考えずに言ってみた。


「そうか……」


 潤爺ちゃんはこの病室を行ったり来たりして、何かを考えていた。その真剣な瞳は何かを成し遂げようとしている。一体、何をするんだ。


 もしかして、現実にできないタイムマシンとか出したりするとかないよな。昔、見たことのあるアニメでよく机の中から人が出入りしていたもんな……。


 潤爺ちゃんは決意を決めて、自分の私物のコートを羽織った。


「総悟、今すぐに準備しろ。病院を抜け出すぞ」


「はい?」


「家に帰って、自分にとって必要な物すべて持ってこの場所に来い! 絶対にだぞ! わしも病院を抜け出して先にその場所に待っている。後、その茶封筒も必ず持ってこい。決して今は開けるんじゃないぞ」


 渡された一枚の紙切れを見ると、神社の名前が書いてあった。



 一時間半後————


 指定された神社の階段を重たい荷物を持って登り、最後の段を上り終えるとそこには潤爺ちゃんが堂々と立っていた。


 隣には神主らしき人が立っている。


 一体何をしたいのか分からん……。俺を除霊でもしたいのか?


 だが、俺は人間であって幽霊ではない。


「さて、ここに来てもらったのはほかでもない。総悟、この陣の中に立て……」


 言われるままに荷物を持って、地面に描かれた陣の中央に立つ。


「それで一体何するつもりなんだ? 爺ちゃん……」


 神主が両手の人差し指と中指を立てて目をつぶる。


 どう見ても何かの儀式を始めるとしか思えない。それに入り混じった陣も怪しい。


「これからわしがまだ少年だったころの世界に行ってもらう。言っておくがこの時代に戻る方法はない。達者で……な」


 そう言い終わると陣が発動し、俺の肉体と意識はこの世界から跡形もなく消えた。



     ×     ×     ×



 X〇一四年、四月二十一日————


 約百年前の世界に飛ばされた俺は、この時代の高校一年生として高校生活を送っていた。この宮崎県立延岡西高校は南校舎、中央校舎、北校舎の三つに分かれており、そして、体育館がある。三つの校舎を渡り廊下が結んでいる。それにこの高校は、山を開拓して作られた高校であり、その歴史はまだ四十年と言われているらしい。


 百年前の高校は、百年後と違って人との関わりが多いように見られる。


 彼らは昼休みになるとほとんどの生徒が売店のパン争奪戦に向かう。一度行ってみたが、俺はこの小さなことでムキになるはなぜだろうと思う。


 元の世界に戻りてぇ。


 この時代の空気もある程度の街並みもこの短い期間でほとんど把握したが、未だに変える手段がない。今はこうして高校生活を送らなければならないのだ。


 俺はある場所へと向かっていた。この高校でやっていくには部活動というものに入らなければならないらしい。


 ————あそこにいくのか。


 そもそもこの世界はすべてが不便すぎる。交通手段や勉強の効率、教える教師のレベルの低さ。そして何よりもこの世界は未だに情報化社会が未だに衰えている。どうやったら百年後の便利な世界になるのだろうか。俺はそんな訳の分からない理論を考え続けている。この前、自分が飛ばされた所を訪れたが、結局のところ何も感じることはなかった。それどころか、その神社自体がこの世に存在しないのだ。


 俺が立ち止まったのは普通の部室の部屋である。


 扉は普通の開き扉である。


 俺は深々と溜息をついて、扉を開けた。


 部屋は普通に広く、中央に大きな長机と椅子がおいてある。壁一面には本棚が置いてあり、大量の本が並んでいた。簡単に言えば、図書の準備室と言った方がいい。


 そして、この部屋には人の気配がした。目の前に人がいる。一人の女子生徒だ。


 少女は、眼鏡をかけて本を読んでいた。


 この異名な空間で、本を読んでいる少女はどこか変わった雰囲気を漂わせていた。


 彼女は俺に気づくと、眼鏡を机の上に置き、本をその隣に置く。


「あなたは確か……」


「そうだ、この前もあったことがあるだろ? もう、忘れたのか?」


「さあ、それはどうかしら……」


 俺の言葉に、彼女は不満げな表情をする。


「ええと、どこかの不思議な頭のおかしい男子生徒?」


 首を傾げて彼女の微笑みが俺の体を凍らせる。

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