俺達の永遠に終わらない青春ラブコメは、終止符を打つには早すぎる。

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ

第1章  百年前の世界は百年後の世界と全く違う

1-1

 X一三〇年————


 病室で曾祖父の桐谷潤きりたにじゅんはベットに座りながら、窓の外を眺めていた。


 こうして二人で個人の病室にいると、自分の曾祖父がどんな偉大な人なのか分からなくなる。簡単に言えば、百歳を超えても未だにピンピンとしており、一体何をすればそこまで長生きすることができるのだろうか、と思っていた。


 今日は、なんで何も用事が無いのに呼び出されたのか分からない。


 なんで、俺だけ? 知るわけがない。


 潤爺ちゃんは、「はぁ……」と何か思いつめて溜息をついた。


「なぁ、総悟。今のこの世界はどうじゃ? 面白い事はあるか?」


「……まぁ、普通だな。今はITが進化して誰とでも話せるし、この眼鏡があれば後は生きていける」


「そうか……。今の子供たちは外で遊ぶよりもそういった機械に遊ばれる時代になったか……」


 潤爺ちゃんは溜息をつくと寂し気にそう言った。


 だが、そう言われれば百年前の世界の事について今まで生きてきて聞いたことが無かった。一体、どう世界だったのだろうか?


 そんな事を考えていると、茶封筒を渡された。


「昔がどういう世界だったか、知りたいか?」


「まぁ、知りたいかもな……」


「それは迷っている事じゃな」


「そんなに俺、顔に出ている? いや、本当にどうでもいいと思ったんだけど……」


 ニカッと潤爺ちゃんの口元から歯が見えた。


「総悟、本当に昔の時代の事を知りたくはないか? たぶん、これはお前のためにもなるはずじゃ」


 潤爺ちゃんが、俺の方をギロッと睨みつけてきた。白髪の少ない髪の毛、歳を取るごとに増えていくシワと、その眼光が何も言い返せずに威圧だけで俺を黙らせる。


「俺のためになる……。何か昔ばなしとかしてくれるのか? 爺ちゃんの時代ならこの眼鏡ですべて検索できる。管理者権限も持っているから……」


 いつも通りの冷静だった。何もかもその時代の事について知っており、ちょっとばかりは体験してみたいのかもしれない。


「その百年前の世界って、今あるこの世界にはないものがあるのか?」


「そうじゃ、そんなへとん知れんもの無くとも人とのつながりはあった……」


「へとん知れんものって……。これは一応、誰もが必要としている物なんだが……」


 鈍い音がした。


 枕だ。勢いよく総悟の後ろへと飛んでいき壁にぶつかる。なぜ、枕を投げられたのか分からなかった。


「そんな最新の器具なんて必要ない!」


 目が鋭く光った。


「は、はい。そ、そうですね」


 返事と意見の同意を同時に言い、真意を隠す。


 だが、潤爺ちゃんにはそれだけではごまかすことは出来ない。おそらく、この後は大体の予想ができる。俺は眼鏡をはずして、胸ポケットにしまうと、右手で右太ももを小さく何度も叩いた。


「わしは、この世界は好きではない」


 ……同感だな。俺もそう思う。


 確かにこの世界は便利で俺に取っても都合がよく、俺もその世界を大いに利用していた。様々なITを無限に増幅してきた。


 そして、俺の爺ちゃんはその世界を嫌っていた。昔に戻りたいと何度も聞かされたことか分からない。潤爺ちゃんの同級生は、皆、もうこの世にはいない。


 潤爺ちゃんはヨレヨレの患者服のズボンのポケットからチョコレートの墓を取り出すと、口を開け、中から小さなチョコレートの固まりを取り出す。手にのせたチョコレートを自分の口に入れて、噛み砕きながら俺を見た。


「総悟は学校をどう思っている?」


「ただの通過点」


「……親友と呼べる奴はおるか?」


 俺の事を心配してくれていることがよく分かる。


「いないな。学校はただ勉強のため、自分の将来のためにある場所しかみんな思っていないからな……」


「そうじゃったな……」


「そうだよ。俺は何もないけど……」


 俺がそう答えると、潤爺ちゃんはいきなり立ち上がった。


「じゃあ、将来のことは決めておらぬな! お前のこの先の未来は自分で閉ざしているんじゃな! それならそれでよい!」


 いきなり大声を出すなよ。耳が割れるだろ。


 潤爺ちゃんは、ニカッと笑いながら腕を組み、俺の目の前に立った。

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