第十四話 プリパルプレパルプリリンプッチ
唐突な思い付きで、コスプレしましょう!と言ったまでは良かったのだが、俺の記憶に唯一あるコスプレスタジオは国道17号を越えた向こう側だったので特区外となってしまい、既に様相が一変してしまっていた。手ぶらの俺たちには、ただ撮影ができるだけではなく豊富な衣装のレンタルと小物とメイクがセットになっていないとかなり厳しい。
そこでみこみこさんたちエージェントさんたちに近隣の同様のサービスを提供してくれる店舗を検索してもらうことにする。今はいつの間にか合流していた研究所のマークの入ったワゴンタイプの
「……お。ここならどうだ、宅郎?」
みこみこさんが大画面のノートパッドをひょいと差し出した。スマホの親分みたいなモデルだが、俺のいた当時とはかなり仕様が異なるらしい。何たってスクリーンは半透明の有機LEDで、柔軟性に富んでいる。
「あー。いいっすね。利用者の写真も載ってますし、これだけ小物を揃えてるのは凄いです」
「では、早速アポを入れよう。なあに、一週間前までに事前申込とあるが、我々なら楽勝だ」
あのー。
こういうところで権力使われてもすっごく無駄な気がするんですけど。
手際良く
「よし。オッケーだ。三名の予約を入れた。すぐに行けるぞ」
「……って、俺もっすか!?」
「当たり前だろう? 美少女と美女だけにコスプレさせて、ぐふぐふさせる訳にはいかん」
ぐふぐふさせてもらいたかったです。
しかも、一人は女装で、と余計な注文を入れてくれているらしい。
マジでやめて……。
ま、でも、女体化、って考えると、オタクの夢ってことでアリかもしれん。
いらぬ性癖に目覚めなければ良いのだが……大丈夫かな、俺。
変な汗を背中に
にこやかに出迎えてくれたスタッフに誘導されるままに店内に入ると、細かい書類の手続きの方はエージェントさんにお任せして、俺たち三人はいち早くコスプレ衣装満載のクローゼットスペースへと案内された。
「うわぁ……凄い! 綺麗で可愛い衣装が、凄いたくさんありますね、センセイっ!」
「おっと。これは圧巻だね……」
広さは二十畳くらいあるだろうか。そのドでかい空間に、これでもか!とハンガーに掛けられた衣装の吊るされた上下二段になったラックがひしめき合っている。それぞれのコスプレ衣装は汚れ防止のためか、一つ一つビニールのカバーで丁寧に覆われていた。
一応聞いてみると、最終的には撮影用の衣装を一つに絞らないといけないのだけれど、決定前の試着に関しては何着でも制限はないのだそうだ。自前の携帯端末なんかで写メを撮るのもOKらしい。おう、着放題じゃないか。サービス良いね。
「これは、アレですよね!? 『新世紀エヴァンゲリオン』に出てくる惣流・アスカ・ラングレーのプラグスーツ! あぁっ!? こっちには地元『ラブライブ!』の音ノ木坂学院の制服がありますっ!」
「うーん、勉強の成果が出てるね。パッと見ただけで分かるなんて、なかなか凄いじゃない」
プラグスーツの方はかなり特徴があるが、学園物の制服はホント分かりづらい。
それでも『ハルヒ』だけは何故か即座に分かるから不思議なものだ。あれがいかに記号化された完成系の一つである証拠なのか、だと思ったりする。
「ううむ。これは迷うな……おい宅郎、私に何を着せたいと思う?」
「いやいやいや。そこで聞いちゃ駄目です、みこみこさん。これも俺攻略の選択肢ですよ」
「むむ。成程な、それも一理ある。しかし……ありすぎて逆に選べない……」
「かといって、『合わせ』にするのも
「あの、センセイ! 『合わせ』というのは何でしょうか?」
いい質問だ。
このところ自発的に質問をしてくるようになった凛音お嬢様に答えてあげる。
「『合わせ』って言うのはね、『コス合わせ』の略で、コスプレする仲間同士で、同じ一つの作品で揃えることだよ。大人数でキャラを割り振って合わせをすると、没入感が違うらしい」
「な、成程ですっ! でもでも、今回合わせはなし、それぞれが着たい物を選ぶ、ですね!」
「うん。その方が面白そうだからね。お、それ選んだの!?みたいな意外性が、さ」
「あ。何か、その感じ、分かりますっ!」
それからは各人にそれぞれサポート役のエージェントが一名付き添い、別行動をとって内緒でコス衣装を選ぶことになった。何せこの衣装スペースだけでも相当な広さなので、他のメンバーの思考と行動はほとんど
「ううむ……」
とは言うものの、俺だけ女装しなきゃいけないらしいので非常に困っていた。
自分が好きな作品と、なりたい姿、いや、辛うじてなっても大丈夫そうな姿とは、かなりニュアンスが違う。付き添いの男性エージェントさんもすっかり弱り果てた様子で、それに輪をかけてオタク知識はそこまで豊富って訳でもないらしく、ほい、ほい、と流れ作業的に次々にトンデモナイ衣装を手渡してくるのだが、いちいちそれに首を振って突き返すのに疲れてしまっていた。
どうして俺に『まど☆マギ』の鹿目まどかの衣装が着れると思ったのか。
もしかしてそっち系の人で、俺に着て欲しいのか。
それでも俺のために考えてくれたんだろうからと、一応スーツの上から衣装を当ててその姿を見せる。ほら、汚いまどかにしかならんじゃないか。情けない気分になり泣き笑いの表情で首を傾げ、ね?と同意を得ようとしたところ、何を勘違いしたのかサムズアップをされた。
こんなの絶対おかしいよ!
否定の意味を込めて、ぶんぶん!と強めに首を振り突き返すと、今度は別の衣装が来た。
……おい。
『シュタゲ』まではいいとして、なんでまゆしぃなんだよ!
岡部でいいだろ!
あ、女性キャラじゃないと駄目なのか。
つっても、ルカ子だと巫女服になっちまうし……。
だが、男だ。
あと、いちいち真っ白な歯を見せて笑うのと、サムズアップはやめて!
誤解しかしないからね!
◆◆◆
【今日の一問】
次は、シャフト制作のアニメ『まどか☆マギカ』の有名な台詞の一部です。( )内にふさわしい語句を埋めなさい。
僕と契約して、( )よ!
(私立高等学校入試問題より抜粋)
【凛音ちゃんの回答】
『生命保険に入って』。
ちょっとだけ迷いました。
【先生より】
もっと迷ってください。生々しすぎます……。『まどか☆マギカ』はれっきとした『魔法少女』アニメで、二時間枠のサスペンス・ドラマなどではありませんよ。正解は『魔法少女になって』です。なお、凛音ちゃんは万が一どちらを迫られても、必ず断ってください。これは先生との約束です。
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