第十一話 アドミナブル・アンド・サイ!(伏線)

 こんこん。

 がちゃり。



「おはようございます、センセイ!」


「おはよう。昨日は大変だったでしょ? でも、何だか元気いっぱいだね?」


「最後に、今日のテーマを仰ってたじゃないですか。だからです!」


「そっか。凛音ちゃんは興味ないかと思っちゃってたけど、ちゃんと女の子してるんだねー」



 今日の学習のテーマは。

 昨日の『ロボット物』の流れを引き継いで、こうなる訳だ。


 きゅきゅっ。




『魔法少女物』




「昨日はモロ男の子向けのテーマでしたけど、今日は世の女の子の憧れる、魔法少女シリーズについて学習していこうと思います。いいですね?」


「はい!」


「意外なことにですね……最初の変身ヒロイン作品というのは、この前勉強した赤塚不二夫の描いた『ひみつのアッコちゃん』なんですよ。ここ、かなり重要です」



 きゅきゅっ。

 まる、っと。



「これに影響を受けて広がったのが、『ぴえろ魔法少女シリーズ』です。あ、ちなみに『ぴえろ』というのは、制作した『スタジオぴえろ』から取っています」



 次々書いていく。



『魔法少女クリィミーマミ』、『魔法少女ペルシャ』、『魔法のスターマジカルエミ』、『魔法のアイドルパステルユーミ』、『魔法のステージファンシーララ』だ。これらの前に『魔法のプリンセスミンキーモモ』がある訳だが、これはあしプロダクション制作なのでちょっと離れたところに書いておく。てか、良く覚えてるな、俺。


「で……横山光輝――そうです、『三国志』を描いたあの人ですけど、彼が描いた『魔法使いサリー』の影響を受けて広がった作品の方を『東映魔女っ子シリーズ』と呼んでいます」



 だが、『シリーズ』とは銘打っても、こっちはファンの間でも見解はバラバラだ。


 俺の中での解釈としては、『魔法使いチャッピー』、『ミラクル少女リミットちゃん』、『キューティーハニー』、『魔女っ子メグちゃん』、『魔女っ子チックル』、『花の子ルンルン』、『魔法少女ララベル』で一通り、という感じである。ここは出題側も出しにくいところだから厳密にやらなくても大丈夫だろう。



「魔法少女が魔法少女たる原則は、ヒロインだけが他の誰にも使えない不思議な力が使える、ってことですね。これは生まれつきの先天的な力の場合と、超然的な神という存在や精霊などから力を授かる後天的な場合の二つに分かれています。ただし、『魔法少女』とは言いながらも必ずしも『力』イコール『魔法』とは限らないので、そのへんは少し注意が必要ですね」


「へえ。意外とちゃんとした定義が存在しているんですね」


「そうなんですよ。子供向けアニメと馬鹿にはできません。作っているのは大人ですから」



 俺自身、こうやって理論立てて他の誰かに説明するのは初めてのことなので、言ってる本人も他人に教えながら同時に、成程なあ、と感心していた。何だか変な構図である。



「『キューティーハニー』を除いたこれらのシリーズは、少女たちの日常を描いたホームコメディ要素が多かったんですけど、さらに年月を経ると、善と悪の構図を念頭に戦う要素が強くなったバトル・ヒロイン物に派生していきます。『美少女戦士セーラームーン』なんかがその代表例ですね」


「あ。それは聞いたことがあります! 悪と戦う五人組の美少女戦士!」


「そうそう。また出てきたね、五人で一チームってお約束が。ここまでの魔法少女は一人きりだったけど、この後は三人とか五人とか、複数編成が多くなってきますね」



 で、お約束と言えば、である。



「そこで出てきたお約束の一つは、『魔法少女』は何かのアイテムを使って変身するってことですね。これもまた……スポンサーである玩具メーカーからのいわゆる『決まり事』です」


「変身するためのアイテムというと……女の子らしいグッズでしょうか? コンパクトとかアクセサリーみたいな」


「正解! 良いですね!」



 さすがは『オタク・カルチャー』以外の成績は抜群な凛音お嬢様である。勘が良い。



「ちょうどターゲットとなる視聴者に合わせて登場人物も一〇代前半と設定しています。つまり、第二次性徴期にあたるお洒落やファッションに敏感な女の子が興味を持ちそうなグッズが変身アイテムになっている訳ですね」


「成程……きちんとしたマーケティングに基づいているんですねー」


「そうなんですよ。侮れません」



 きゅきゅっ。


 俺が次に描いたのは……あー、これ、似てないな。

『魔法騎士レイアース』のモコナのつもりだったんだけど。



「あとね、『魔法少女』には、彼女たちをサポートするマスコットが登場するんだ。ヒトの言葉を理解する生き物で、犬であったり猫であったり、はたまた精霊みたいな異世界の不思議な生き物だったりします。これもまた、感情が先走りがちな多感なお年頃の女の子たちにとっての助言役であり、ブレーキをかける『理性』を象徴してもいるんだよね。何故か男性が多い」


「だ……男性?」


「じ、じゃあ、男の子で」



 まあ、大概がそんなに野太い声じゃないもんな。


『ニニンがシノブ伝』の『音速丸』(CV:若本規夫)じゃあるまいし。

 待てーい!


 とにかく書く。書いた。『おジャ魔女どれみ』や『プリキュア・シリーズ』、『赤ずきんチャチャ』に『愛天使伝説ウェディングピーチ』に『魔法少女プリティサミー』エトセトラエトセトラ。思いつく限りの『魔法少女』のタイトルをひたすらに書き殴っていく。



 よし。

 これで大まかな説明はできたと思う。


 かなり書き込まれたホワイトボードを満足げに眺めつつ、凛音お嬢様の方へ振り返った。



「ここまでは何となく分かりましたか?」


「はい! とっても分かりやすかったです!」


「それは良かったです。……ここからがカオスなので」


「………………はい?」



 ひくり、と凛音お嬢様の顔が引きった。

 気持ちは分かるけど、こっからの説明、俺も困るんだよなあ……。



「ここまでが清く正しい『魔法少女』です。が……この後、大変カオスな事態が始まるのですよ。それを説明しなければなりません」


「はぁ」



 くるん。


 俺は完成されたホワイトボードを裏返してから、真っ白なそこにでかでかと書き出した。




 きゅきゅっ!




『中年男性』

『変身前は少女で変身後は俺』

『マッチョなボディビルダー』




 ばんっ!




「これも『魔法少女』です!」


「あはははは……御冗談を」


「それ、一番俺が思っている感想です。でも、いるんです! 彼らは!」



 若干UMA臭がする台詞だが、確かに『彼ら』は存在する。


 順に、『魔法☆中年おじまじょ5』に『魔法少女俺』、そして『魔法少女プリティ☆ベル』だ。確かに着想と発想は新しい。というか、新しすぎて時代をコンマ五秒で置いてけぼりである。なのに……中身はちゃんと『魔法少女』してるところがさらなる困惑を生み出す。



「さあ、覚えましょう! 覚えてください!」


「うっ……どうしても、ですか……?」


「どうしても、ですっ!」



 それも出来れば一回で。

 ごめんね、凛音ちゃん……でも俺、こいつらもう一回やるの嫌なんだ……。



 お笑い芸人にゲテモノ料理を喰わせるかのごとく、半泣き状態の凛音お嬢様に容赦なく無理矢理詰め込んで、無事(?)その日の学習を終えたのであった。




 ◆◆◆




【今日の一問】


 次は、魔法少女アニメ『プリキュア・シリーズ』について説明した文章です。()内にふさわしい語句を埋めて完成させなさい。


    タイトルは(   )と(   )という

    女子らしいイメージを合わせた造語である


    (私立中学校入試問題より抜粋)




【凛音ちゃんの回答】

『プリクラ』と『マニキュア』。

 年頃の女の子が興味を持ちそうなものを選んでみました。




【先生より】

 推理の仕方と方向性は合っていましたが、ターゲットの年齢層が少し高めでしたね。正解は『プリティ(可愛い)』と『キュア(癒し)』です。なお、変身後の名前は『キュア〇〇』となる決まりがあり、変身前の名前をカタカナに変えたり(例:桃園=ピーチ)、好きな物だったり(例:蜂蜜が好き=ハニー)します。そのバリエーションの多さから、ギネス認定もされたほどです。



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