第十話 第一回チキチキスパロボ大作戦
「おはようございます、センセイ!」
「おはよう、凛音ちゃん。早速始めようか」
昨日までで『黎明期』の最重要ポイント、『四大文明』を無事クリアしたので、今日からは別の角度から学習を進めることに決めていた。
ここからはとにかく物量が多い。
一人ずつ個人個人を追っていくと、とても
つまり、特定のジャンル、もっと言ってしまえば現代にまで面々と繋がる系譜を使って学習するのがもっとも効率が良かろうと俺は判断したのである。
「そこで、だ」
俺の合図とほぼ同時に、凛音お嬢様の部屋にエージェントさんたちの手によってホワイトボードが持ち込まれてきた。ホワイトボードとは言ったものの、この世界ではマーカーは必要ない。盤面の右側に並んだアイコンでペン種や色を選択し、直接指でなぞるように書いていけばいいとのこと。消す際も同様で、一括削除か部分的に削除するのかを選択できる。おまけにプリントアウトや携帯端末へ直接ダウンロードができる優れモノだ。
そこまでの事前説明を受けていた俺は、早速書き出す。
『ロボット物』
そこから二つ線を引き出してこう続けた。
『スーパーロボット系』
『リアルロボット系』
「今日はですね、ロボット物アニメや漫画について学習していきましょう。そこでまず覚えておいて欲しいのはこの二つの
「ええと……。あの、不勉強で済みません……」
「いいのいいの。では、それぞれ簡単に説明していきましょうか」
きゅきゅっ。
「ざっくりと言ってしまうと、構造や動力源の説明がきちんとできるものが『リアルロボット系』で、未知の材質とエネルギーで動くのが『スーパーロボット系』です。他にも、『リアルロボット系』はある程度量産ができて操縦者を選ばず、『スーパーロボット系』はオンリーワンの存在で選ばれし能力を持った者しか操縦できない、といった傾向が強いですね」
「成程! 分かりやすいです!」
「乱暴に言うと、一発でも当たると壊れちゃうのが『リアルロボット系』で、とにかく耐久性が高くて頑丈なのが『スーパーロボット系』って感じかな」
「だから『リアル』と『スーパー』という訳なのですね!」
「そういうこと。割と簡単でしょ?」
もっと細かく言えばキリがないのだが、ざっくり分かった気になってもらわないと理解も難しくなるので、ひとまず置いておこう。
「『スーパーロボット系』の代表選手は、永井豪の書いた『マジンガーZ』ですね。オープニング主題歌の中でも『スーパーロボット』って入っているくらいですから。こんな感じです」
きゅきゅっ。
おお、意外と似てるじゃん。
やるな、俺。
「全長一八メートル、総重量二〇トンの、いわゆる『巨大ロボットアニメ』の先駆けですね。当初のアイディアではバイクで操縦席に乗り込んでいたんですけど、こういう……ホバーパイルダーという名の飛行機に乗って、ロボットの頭部にドッキングして動かすんですね」
「あの……質問よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
凛音お嬢様は少し困ったように眉を
「どうして最初からロボットの方に搭乗しないのでしょうか? ちょっと不便です」
「うんうん。良い質問ですね。その疑問はもっともですが――」
きゅきゅっ。
俺はその答えに一番ふさわしいと思われるワードをでかでかと書き殴った。
『合体はロマン!』
「そう、理屈じゃないんですよ! まさにこれなんです!」
「……はぁ」
ま、無理もないか。
こんなんで納得する奴は男の子遺伝子を持っている奴くらいだし。
「確かにこれはかなり無茶がありましたけど、実際、『スーパーロボット系』は大抵こうなんですよね。三機合体とか、五機合体とか、とにかく『合体!』が男心をくすぐるポイントなんですよ」
「でも、その瞬間が一番無防備なのではないでしょうか……」
「そう! そこっ!」
俺は喜びのあまり、ばしばし!とホワイトボードを手のひらで叩きつけながら答える。
「そこもお約束なんですよね~! 戦いを繰り返すうちに敵も気が付くんです、あ、あの瞬間狙えば勝てるんじゃないか、と。その
「うーん……」
「あ、あとっ! 『スーパーロボット系』の主人公なら、必殺技の名前は全力で叫ぶ! これも大事なお約束です! ぜひ、覚えておいてくださいね!」
「はぁ……。まあ、何となく分かりました、センセイ」
凛音お嬢様に若干
「一方、『リアルロボット系』の代表選手と言えば、富野由悠季の『機動戦士ガンダム』ですね。全長一八メートルの本体重量四三.四トン。これが『RX―78―2ガンダム』です」
「……え? 先程の『巨大ロボット』の『マジンガーZ』と同じ大きさで、さらに重くなってないですか?」
「あー。気付いちゃいましたか」
この先の解説は、いわゆる『オトナの事情』って奴なので、あまり言いたくなかったんだけどなあ。しかし、生徒の疑問を解決するのが先生の義務なので仕方がない。
「元々はですね、ハインラインの書いたSF小説『宇宙の戦士』に発想のヒントを得ていたので全長は二.五メートルほどの想定だったんですけど、スポンサーの玩具会社がOKを出してくれなかったので、妥協点として『マジンガーZ』と同じにしたんです。この頃の『スーパーロボット系』の主流は、五〇から一〇〇メートルだったので、これでも小さい方なんですね」
そして俺はこうも書いた。
『赤青黄色』
「これも覚えておいて損はないです。これがいわゆる『ロボット三原色』という奴です」
「ロ……『ロボット工学三原則』なら存じ上げているのですが?」
それ、アシモフ先生ね。
「それとは全然意味合いが違う奴ですよ。当時、子供向けの玩具には、この三原色を使うのが常識、という考えが根強かったんです。なので、初期設定では白一色だったガンダムも、スポンサーの一声でこの三色になった、ということなんです。ま、おかげでその後のガンダム・シリーズもこのカラーを踏襲して、イメージが定着していくことになるんですけどね」
「ふむふむ……勉強になります!」
そんなあたりでさわりの説明を終え、俺は最初に書いた二つの『系統』から伸びる線を次々と書いていった。この流れ、学生時代の友人からメタルロックの系譜を説明してもらった時に似ている気がする。あれはあれで物凄かった。ジャーマン・メタルとかブリティッシュ・メタルとかデス・メタルまでは良いとして、恐竜・メタルとかバイキング・メタルって何だよ、と思ったものである。
うおおおお!
書き切れない!
とにかくスペースの許す限り俺は書き殴り続け、ようやく気が済んだところで代表的なロボットアニメを凛音お嬢様と一緒に夜更けまで視聴することにしたのだった。
◆◆◆
【今日の一問】
次は、永井豪の『マジンガーZ』が持つ必殺技に関する問題です。実際にある必殺技名で正しくないものを一つ選びなさい。
(ア)ロケットパンチ
(イ)ブレストハリケーン
(ウ)光子力ビーム
(私立小学校入試問題より抜粋)
【凛音ちゃんの回答】
(イ)。
どれもこれもあるような気がして決めきれませんでした。山勘です。
【先生より】
正解です。実際にある『ブレストファイヤー』と『ルストハリケーン』が混ざってしまっている必殺技名ですね。いかにもありそうですが、引っかけ問題でした。ちなみに『ロケットパンチ』は当時の子供には大流行で、先生もいろんな物を手に
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