こたえあわせ

 ――それで、よかったのかこれで。

 事情説明した後に一旦家を追い出された俺は、逢坂さんに借りていた車を返すついでにとある場所に来ていた。少し郊外にある山だ。

 ――異界はもう少し先にあるの。

 頭の中に響く声に誘導されてその道を行く。


 その異界へと入ると、シェードが現れる。しかし以前のように統率がとれておらず、まるで獣のように縄張りに入るものに攻撃をするような様子であった。俺の後ろから現れたピンク髪の少女が手をかざした次の瞬間に光り輝いて、シェードを消し飛ばす。

「まったく、何ですかこれは」

 ――まさか生み出したシェードが力を手に入れて野生化していたとは思わなんだ。

 脳内にチェルノボルグの声が響く。

「というか、今私が外出てますが、交代してくださいよ」

 ――我と汝の時間は同じでなければならない。そういう縛りであろう?

「それもそうですが、表に出る時間を何かに使うつもりですよね。あと勇者様は私に休んでろって言ったじゃないですかーやだー!」

 そう言うと同時に、野生化したシェードの仲間なのか群れが現れる。それは人型だけではなく、様々な形をしたのっぺら坊であった。

「野生化して多様化してませんかね?」

「ダーウィンの進化論がこんなところで有効とは、学校教育って馬鹿にならんな」

「あ、私あまりこちらの世界については知らないですが、それぐらいは知ってますよ。それ思考放棄ですよね」

 アニマが呆れながらも指をぱちんとならすと黒いオーラに包まれる。するとそこには先程までのピンク髪の少女はおらず、褐色の妖艶の美女が現れる。

「我自身が生み出したものであるがゆえに、我がどうにかするのが道理とはいうが、面倒ではあるの」

 ――ちゃんと自分でやってください!

 頭の中に元女神アニマの声が今度は響いた。





 結局俺は、チェルノボルグと女神アニマを一つにするという選択をとった。それは遙ちゃんのこともあったが、地球で異能が使えるということが一部に知られたということもあり保険が欲しかったのだ。遙ちゃんの容態の安定化と、その中にある女神の欠片も引き抜いて、構成されたのがこの可変式女神様だ。一応皆には内緒だ。

 ――何か不穏なこと考えていませんか?

 とはいえ、普段は魔法で彼女らは隠れている。そして契約のラインが繋がってるために脳内に直接会話とか思念が流れたり流れ込んだり流れ込まなかったりとうるさくなっていた。

 ――我はファーストフードなるものを食べてみたいの。

 ――ファーストフードは地球文明の産物みたいですね。その叡智は一度は味わってみたいです。

 脳内の井戸端会議を放っておきながら、チェルノボルグの尻拭いをしている。これは今後の日課となるだろう。


 そしてもう一つ問題がまだ残っていた。

 車のエンジン音が響く。シェードを始末しおえたチェルノボルグが、またアニマへと変化したかと思うと、俺の服を思いっきり引っ張るために身体がのけぞる。噴射音と共にロケットランチャーが俺の横を掠める。飛んでいった弾頭は直進して爆発。

「ありゃ、やっぱり勇者様はお恨みお買い上げしてるのでは?」

「どっちかというと逆恨みだよなぁ」

 発射元を見れば、その視線の先にあるのはリーブラ社のエンブレムが入った装甲車だ。こちらが異界入りするのを張っていたのだろうか。その車の人員は見覚えのある銀の人型だった。

 ――おぉ、あの人型。まったくもって意識というものを感じぬな。何者かの眷属のようなものかの?

「戦闘用ドローンやら液体金属やら一体どこで開発してるのやら」

「流石にそれは分かりませんね。かつてやったのはちょっとした超常現象への対処方法の伝授で、勝手にのし上がって財を築いたりしたのは彼らですし。困りますよね、人の名前を勝手に利用して好き勝手するの」

 リーブラ社のエンブレムを掲げているので、前の襲撃の報復か。あるいは戦闘データの取得なのか、目的はわからん。とはいえ、それなりにちょっかいは出してきそうなものだ。


 スマホから聞き慣れないかわいいメロディの着信音が鳴る。それと同時にアニマがその小さな身体を飛び上がらせて装甲車に突っ込む。それを見送っているとスマホから声が聞こえる。

『おにいさん、おにいさん。今日はおかあさまが外食にするそうです。あと2時間でかえってきてくださいね』

「アリスちゃん、ナチュラルに割り込んでくるね……」

『みゆちゃんには内緒にしてね』

 おう、そうだな。そんなことを話してる目先では、装甲車を爆散させた後にチェルノボルグへとチェンジしたアニマ。残骸やらその銀色の何かを闇のオーラで飲み込んでいく。


「そういえば、これの正式名称知らなかったな」

『汎用型対超常現象兵士ユニットだって。指揮官ユニットとかエースユニットもいるらしい』

「そうなのか」

「この戦利品はせっかくだし持ち帰って遊んでみようかの」

「程々にしとけよ」

 ――そうですよ。それ売るといい値段になりますから、勝者の特権でさくっと現金化するべきです。

 違うそうじゃない。頭の中で姦しい女神様に対して少し呆れる。

 ――勇者様が私を役割から解放して、好きにしろといったじゃないですか。で、あればその先の話にはちゃんと責任をとってもらわないと困ります。

「はいはい、責任ね。とりあえず今日は帰るか」

「のう、主よ。我も家にあがれんかの?」

「流石に敵対してやぁ仲間になりましたから仲良くしてねってのは年頃の女子に無理じゃね」

『みゆちゃんとかはブチ切れて襲いかかってくるから、私はお口チャック』

「アリスちゃんが賢くてお兄さんはちょっと涙出そうだわ」

『やった、褒められた』

 苦笑いしながら、襲撃が止む。今日は外食らしい。そうであればさっさと逢坂さんの車を返してくるべきだろう。

 ――これからも、よろしくお願いしますね?

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