And so on.

そして冒険の日々へ ――回想

 俺は玄関に立っていた。それはあるマンションの一室だ。後ろを振り返って見れば満天の星空に逆さの摩天楼。扉を開けて中に入る。少し長い廊下を歩いて、リビングの扉を開く。

 リビングは温かみの溢れるレイアウトへと変わっていた。テレビの前には吉乃、遙ちゃん、未結、セーブがコントローラーを持っていて一緒に昔のゲーム機のパーティゲームをしている。そのすぐ近くで人をダメにするソファに沈み込むアリスちゃんは目をつむって寝ていた。世間話をしながらモノポリーをしている二人を見れば、逢坂さんと文乃さんだ。時たま話しながらもゲームをしてる子たちへと視線を向けているのをみるとやはり保護者として板がついていると思える。

 以前より広くなったリビング。見回してみれば、定位置に彼女はいた。やりかけのチェスのボードの前で、一人静かに本へと目を落としている。その集中力はゲームをしてようが、世間話があろうが途切れる様子が見えない。俺は彼女の対面へと座り、駒を一つ動かす。

「チェック」

「おはようございます、ユウさん。ようやく来ましたね」

 彼女は本に金色の栞を挟んでから閉じる。そしてボードを見ると、すぐに次の一手へと動かした。ようやっとキングをその位置に誘導できた俺は満を持してその言葉を言った。

「チェックメイトだ」

「これが長かった対決は終わりですね」

「今の成績はどうだったっけ」

「ちょっと待ってくださいね」

 そういって、ボードのある机の引き出しからノートを取り出す。彼女のつけていた二人でプレイしていたチェスの記録だ。

「10戦して中で、私が9勝、そしてこれがユウさんの初めての1勝ですね」

「あと9回勝てば勝ち越しっていうことだな。まったく長い話だ」

 その言葉を聞いて、フミカが小さく笑う。そして一緒に駒を並べ直す。


「そしたら、久しぶりに普通に冒険しましょうか」

「お、そうだな。どこに行きたいんだ?」

「そうですね、世界は一つではないですから、見たこともない場所へ」

 チェス盤を整理しおえて話をする。たったの一週間の波乱な日々があった。今まで毎日やっていた冒険が数日やらなくなっただけで、違和感があったのだろう。俺も毎日見ていたはずのそれが見なかったのは少し違和感になったのは確かにあった。

「あ、ユウ兄さんどこかに行くんですか? ここは夢の中の世界ですよね?」

 そう言いながら、ゲームを切り上げたのか、4人ぞろぞろとやってくる。アリスちゃんはソファに沈んだまま。その視線に気づくと未結がアリスちゃんも連れてくる。

「まぁ、そうだな。限りなく夢に近い世界だな」

「夢見の異能ですか! 話には聞いたことがありますが、親しい人だけと一緒に夢を見れるなんて本当なんですね!」

「あら、そしたら誰が夢見の異能を持ってることになるのかしら」

 わいわいと姦しくなりはじめる。俺達以外のこの場所がはじめての子たちが色々と憶測を並べ始める。あ、アリスちゃんはたって寝ている。

「とりあえず説明は文乃さんにお願いしますね」

「うちの仕事なんか!?」

「はい、私が説明するよりは分かりやすいでしょうので」

「しゃあないなぁ」

「その間にユウさんには一つ決めてもらいたいことがあります」

「なんだ?」

 フミカはもったいぶって、その言葉を言った。

「安全のために、パーティメンバーを4人決めてください」







 そのはじまりというのは、偶然でした。毎日同じ夢を見るようになったのです。ただ一人そこでぽつんと、外を眺めると満天の星空に逆さの摩天楼がありました。けれど私一人では勇気がなかったのです。誰か来ないかなと。

 そこ、彼がリビングに現れました。見知らぬ誰かがいることに怯えていましたが、その人が夢の中で目覚めることはありませんでした。何日もすれば、慣れてしまい、近づいてみたりもします。声をかけても、揺すってもおきることはありません。

 ふと、リビングの本棚に並んでる本が目に入ったのです。今は私の趣味で増えていますが、はじめは童話しかありませんでした。グリム童話が並んでいました。かえるの王さまに、白雪姫。一番目についたのはその二つでした。この人にキスをしたら、起きたりしないでしょうか、と。夢の中であればファーストキスも何も関係ありません。どうせ夢なんですから。そう思って、私はしました。

 その気まぐれが、本当の私達の出会い。私だけが隠している秘密。いつかそれを言える日になるまでは秘めておくもの。


「おーい、フミカ、ぼーっとしてどうしたんだ?」

「あ、すいません」

「人が多すぎて疲れてるのか?」

「いいえ、そんなことは」

「それならいいが」

 彼が私を見てそういう。口元を手に持った本で隠す。ニヤけてしまうから。彼が私をみているだけで。夢の中と現実で人より2倍の時間を過ごすから。壊れてしまいそうな時間の中で一緒にいることで私は私でいられる。

 ニヤけた顔を戻してから本を下ろす。

「ユウさん、パーティは決まりましたか?」

「あぁ、決まったよ。まずはフミカに――」

 名前を呼んでもらえる。本をつい口元へとあげてしまう。また、一緒に冒険できる日常が。ただそれが嬉しかった。

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-夢蝕-ムショクのアーディアルハイド ~影が世界に堕ちる日々~ 守谷ユイ @Yukina

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