決着

 闇を抜ける。抜けた先は闇の上だったようで、そこにはチェルノボルグがいた。俺は闇の上に立っているようで、沈み込む気配がない。闇は四角い大きなキューブのような形で大地の中央に鎮座していた。

「貴様、一体何をする気だ。何故闇に沈まない」

「さてな、決着をつけるべきとは思わないか?」

「そうさな。貴様が負けて我が軍門に降ってもらおうか」

「あぁそういえば、一つだけ聞き忘れてたことがあったわ」

 その言葉にチェルノボルグの動きが止まる。この期に及んで会話をしようというのだ、怪訝に思ってもしょうがないのだろう。

「もしチェルノボルグが負けたら、何をくれるんだ?」

「どういう意味だ」

「お前が勝てば俺はお前の軍門に降るのだろう。であればその逆に勝てば同じ程度の要求はしてもいいんだろう?」

「面白い冗談だな。だがいいだろう。我が負けることがあれば、貴様は我を好きにするといい。我が名に誓おう」

「それは少しやる気がでるな」

 そばに雷が落ちる。未結が話を聞いていて文句があったようだ。それはそれとして闇の上に帯電してた塊を踏みつけると足に雷が纏わりつく。雷による強化の恩恵をこれで受けれる。


 向かい合ったまま、武器を構える。チェルノボルグは自然体のままで、余裕が見える。その余裕を崩すためには後少しの時間か。10分は長いが、もう少しだ。今の会話でも1分は稼げた。問題は闇の中でどれくらい時間が過ぎていたかが分からないことだ。

 色々な方向から、雷や氷、炎にロケランと銃弾が降り注ぐ。しかしやつは身じろぎをすることなく、ただ立っていただけであった。ただ立ってこちらを見据えている。10分の時間稼ぎも織り込み済みなのだろう。その上で受けるという余裕のつもりなのだとその表情を見て思った。

 で、あればそれに甘えて、武器を構えて準備をしながら時間を待つのみ。飛んでくる氷や炎、雷に槍の穂先を添わせてその力を巻き取る。三属性で反発する力を槍に収束させる。流石にロケランとか銃弾では自己強化できないなと思いながら、助走ができる程度に退いて距離をとる。トップスピードにのるために必要な距離は5mで十分だろう。とはいえ、使うかどうかは、フミカが何するか次第だ。


「さて、そろそろかの」

「10分待っていただけるようで何より。ところでだが」

「貴様は随分と質問が好きであるの」

「勝ち負けはどの観点で見るつもりなんだ?」

「なんだ、そんなことか」

 皆の攻撃の弾幕が止む。準備ができたからなのだろうか。その上でチェルノボルグは余裕綽々としていた。

「出せる奥の手、つまり最大の力が相手に通用しなかった方の負けでよかろう」

「それはよかった」


 ――封印の檻よ。檻よ。彼の者に己が力のみを思い出させたまえ。

 フミカの声が響くと同時に、俺とチェルノボルグだけを閉じ込める光の箱が出来上がる。少しだけ闇から浮いていた俺は、光の地面に着地する。手に持っていた槍も魔法の効果のせいか、消え失せる。

 チェルノボルグも同じように着地していた。そしてその身体からはピンク色に緑色と黒の球体状のオーラが三つ飛び出す。女神とリンクスの弟君の力、そして奴の力の源だろうか。俺の身体からもピンク色と青色の球体のオーラが飛び出し、光の箱の真ん中で五つの球体がぐるぐると回り始める。

「ほう、力の封印か。だが貴様も巻き込まれているぞ?」

「つまりフミカの期待が大きいってことだな。素の力でなら勝てるって」

「己が力以外が排斥される空間で何ができるというのだ」

「そんなに気になるなら試してみなよ、チェルノボルグ。俺は動かないから。気が済むまでやって、何も通じなければ俺の勝ちな」

「笑わせおる。であれば我は三回攻撃をするとしよう。耐えてみせよ」


 チェルノボルグの第一の攻撃はシンプルなものだった。シェードを生み出し、それを俺に差し向ける。そのシェードは俺へとたどり着くと、その手にもった剣で俺を切りつける。斬られた所から当たったということを感じる。だが、それだけだ。ただ肉体を傷つける攻撃であれば、簡単に耐えれる。致命傷にはならない。

 それを見たチェルノボルグは怪訝な顔をするか、第二の攻撃をする。八つの砲塔を呼び出して、砲撃をする。魔法――いや魂の力をただ固めて押し出したそれはより頑固な意志さえあれば跳ね除けられる。先程だしたシェードを巻き込みながら俺に当たる八つの砲撃は、肉体的な痛みとは別の軋みを与えてくるがそれでは俺は倒れない。

「何故何もせぬ。貴様であれば防げたであろう」

「ただの意地だよ。それにチェルノボルグ、お前が言っただろう。勝ち負けは相手に自分の手段が通じるかだ。今お前の手段は通じているか?」

「見た目上では傷ついているように見えるの、手応えを見せてくれないが」

 その返答に対して、ニヤリと口元を動かしてだけ返事する。それを見ていらついたのか、奴はこちらのそばまで近寄ってくる。その細い指のある両手を俺の首元にもってきて、首を絞め始める。

「女の子みたいな力だな、チェルノボルグ」

「何故だ、何故急にそんな力が」

「よく考えてみろ。俺が相対してから、吹き飛ばされることがあったとしても痛そうにしてるのをみたか?」

 そう、俺はこの一週間もない時間で一度も超常現象とやらの攻撃を受けてもダメージを受けていない。それは夢の中のアーディアルハイドでもそうだ。攻撃を受けることがあっても、一度も当たったという感触はあれどそれだけだ。服は汚れたりダメになったりしたのはあったかもだが。


 首を締められて、3分。ずっと目を合わせたまま、チェルノボルグの様子を見ていた。最初は気の強そうな目をしていたが、その目は次第に戸惑いとなり、最後には怯えへと変わったのが見える。そこからお互い無言のまま同じ状態のままだったが、ヤツが折れたのか、手を離す。そして目を逸らされた。

「なんじゃ、貴様は。何故そういうことができる。何かを守るよりも、壊し奪う方が楽だというのに」

「大した理由はないよ。ほんのちょっとの意地と格好つけと、それに」

「それに、なんだ」

 少しだけ間をとって、もったいぶって言う。

「ちょっとやってみたかっただけだ」

「なるほど、好奇心と好奇心のぶつかりあいで負けたというわけか」

 五つの球体のオーブがこちらに近寄ってくる。それは俺のそばで静止、何かを待っていたようであった。

「さて、主殿」

「なんだそれ」

「負けたら我の全てを好きにするといいと言ったであろう。であればその報酬を与えなければならぬ」

「じゃあ、まずはこれ取り込んでくれ、そして一つお願いが――」

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