ラストステージ

 闇に飲まれた先は、荒れ地であった。銀色の液体や何かの機械の残骸、魔猪の屍とあるので異界なのは間違いないだろう。少し遠くに目線をやればまるで何もないかのように地面が途切れておりその先は闇だ。地面が六角形に切り取られているようで、それぞれの角には光の柱が立っていた。赤、青、緑、黄、紫、そして白とそれぞれの光の柱は色が違っていた。

「随分と狭い異界となったものだの。まぁよい」

 宙に浮いたチェルノボルグが、こちらを見下ろしていた。その身体から黒いオーラが撒き散らされて地面へと落ちると、シェードが生まれる。前に見たシェードとは異なり、その身から出る圧は雑魚とは言い難いものであった。人サイズでありながらもはっきりと武器や防具の装飾までが見えるそいつらは一体どの程度の強さなのか。

「フミカ、行けるか?」

「大丈夫です。雑魚の相手は私がやります」

 抱きかかえていたフミカを離す。彼女は片手を俺に向けて、もう片手に持った杖をふるうと魔法を使う。

「今すぐにできる簡単な強化魔法です。チェルノボルグの相手をお願いしますね」

「任された、何分時間を稼げばいい?」

「10分でお願いしてもいいですか?」

「今までにない最長の時間稼ぎだな。ま、その前に倒されてくれるのが一番簡単なんだけどな」


 戦いの開始に合図はなく、まずは槍をチェルノボルグに向かって思いっきり投げつける。投げた次の瞬間には槍は流れ星のように輝き、ヤツに迫る。それと同時に前方に駆け出す。ヤツが槍を受け止めるのが見えた。それと同時に前方にいたシェード達が武器を構えて行進をはじめる。陣形については詳しくはないが、群れの強さを活かすようなものだとは思う。ヤツが槍を投げ返してきたが、俺の近くまでくると減速したのでありがたく返してもらった。槍に持ち主に対するセーフティがあるようだ。

 フミカが後ろで魔法を唱える声が聞こえる。内容からすると、水を生み出す魔法のようだ。すると相手の左翼と右翼方面にウォーターカッターが飛んでいく。それを目に見えて頑丈そうな盾で最前面のシェードが構えて防ぐ。一筋縄でいかないようだ。そう思っていると足元に出来た泥水が、最前列のシェードの足を切り落として転がして後続の動きを止めた。シェードはそれでも上半身だけでこちらに這ってくるのをみるとまるでゾンビに見えなくもない。そう思いながら、這ってくる相手を踏みつけて槍を思いっきりそいつの頭に叩きつける。予想通りにとても堅い兜であったが、思いっきり叩きつけたからかシェードの頭は水でぬかるんだ地面へと突き刺さり、その胴体がシーソーのように跳ねる。その反動を利用してチェルノボルグへ向けて跳び上がる。フミカの強化魔法のおかげでヤツの目の前まで跳び上がることができ、思いっきり槍をふりかぶる。

「その程度か?」

「ちっ」

 槍を掴まれて、そのまま振り回される。3,4回振られて慣性をつけてか、シェードの群れの中央へと叩き落とされる。そしてすかさずシェードの群れが俺に覆いかぶさるように殺到する。一瞬で視界が黒くなり、その身動きが取れなくなった。どうしたものかを考えていたが、力を入れても動けない。そして声が聞こえる。


 大爆発する音が聞こえると共に視界に光が差し込む。シェードの群れの数が減ったからか隙間が出来た部分に左手を入れて思いっきり雷を纏わせて全てを吹き飛ばす。

吹き飛んだシェードが宙を舞うと、炎、雷、氷の矢が奴らを撃ち落とす。

「ユウ兄さん、大丈夫ですか!?」

「何とかな。時間稼ぎを手伝ってくれ」

 いつの間にか未結達が援軍としてやってきて戦っていた。フミカの方をみれば、マイクロバスが止まっており、そこから支援砲撃が飛んでくる。

「ほう、数が増えたか。だがそれで我を攻略できるものと思わないことだ」

 チェルノボルグが再度黒いオーラを撒き散らし、シェードを産み落とす。そして骨の砲塔を八つ召喚し、こちらへと向けた。

「未結はあの骨の砲塔を優先的に攻撃してくれ! 吉乃は雑魚散らし、遙ちゃんは足場を作ってくれ!」 

 皆は返事をすることはしなかったが、すぐに行動に移してくれた。氷の階段が複数生み出されて交差していく。それは砲塔から俺達への射線と視界を塞ぐ役割を果たす。氷越しに砲撃を放つものもあったが、一瞬氷の階段がせき止めるために十分に回避ができる時間ができる。そして壊されたものもすぐに遙ちゃんの力で修復される。吉乃は飛んだり跳ねたり、氷の足場の裏を利用して飛び上がった後にすぐに急襲ということを繰り返してシェードの数を確実に減らしていく。

 俺もまた氷の足場を登っていく。未結が俺の後ろをついてきており、途中のシェードや砲塔を撃ち落としてくれていた。そしてチェルノボルグまでたどり着くと、ヤツは氷の足場の上に立っていた。近づいて、すぐにその場でしゃがむ。俺の背中を足場とした未結が飛び上がり、ヤツの頭上から雷を落とす。それを防ぐために片手をあげたタイミングで槍を突き出し、力を開放する。もう片手で防がれるのを見たと同時に槍を手放して、雷を纏って未結と同時に前後から殴りかかる。


「なるほど、我が子らでは対応が難しいようであるな」

 ヤツは俺達の攻撃を飛び上がって身を捻って回避していた。しかし未結の攻撃がヤツの頬をかすめており、その頬から黒いオーラが血のように流れていた。

「であれば、我が権能を解放するとしよう」

 目の前のヤツが美女の顔立ちが見えなくなる。真っ黒な塊となったヤツを見た俺は、すぐに未結を掴んで投げ飛ばす。次の瞬間、視界が真っ暗に染まる。





 真っ暗な闇の中だ。少し走ってもなにも変わらず、槍を呼ぼうにも来なかった。ここはヤツの中だろうか。目の前に道ができるように、光の板が上がってくる。その板を駆ける。

 ――助言は必要ですか?

「いいや、必要ない。休んで観戦してろ」

 ――意志は堅いようですね。では良い選択を。

 勝手に宿った女神の声がすぐに静かになる。

 道を少し進むと、双葉がぽつんと生えていた。その双葉のそばには、水をやる人の姿がある。その姿はリンクスの弟君のものであった。

「やぁ、君には姉が迷惑をかけたようだね」

「何でここに」

「それは大事なことじゃないよ。この双葉が僕の力。超常へと力を与える源」

「これがか?」

 どうみても、ただの家庭菜園とかでよく見る双葉だ。

「君がこの双葉を摘み取れば、その力は君のものになるよ。ただしその強大な力は争いを呼ぶ」

 そう言いたいことを言ったのか、彼の姿が消える。女神も特に介入する気がないようで、声をかけてこない。

 俺は――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る