相次ぐ襲撃

 飛んでくる弾頭をバスが避ける。バスを掠めるようにして飛んでいく弾頭は、少し離れたところで爆発した。

『いくら耐爆仕様でも、直撃したらひとたまりもないわ。後部ハッチ開けるわよ。振り落とされないように』

 そういう逢坂さんのアナウンスと共に、マイクロバスの後方が開かれる。それと同時に風が吹き込んでくる。それと同時に吉乃は慣れたものか、後方へと移動して手すりにつかまりにいく。そして空いている方の手をふるって炎を後方に向けて飛ばすと今まさに打ち出された弾頭に当たったようで、襲撃者の車両が一つ爆風に巻き込まれていく。

 その大きな音に驚いたのか、その辺にいた魔猪が走り出す。後方へと駆ける魔猪は一瞬にして流れていき、生き残っていたワゴンへと殺到する。金属がひしゃげる音が響いてくる。そのうちの破片か、車体の一部がこちらの方へと勢いよく飛んでくる。一瞬見えたのは、天秤のエンブレムだった。その破片はすぐに軟体へと変化し、見覚えのある銀色のスライムへと変わる。再度後方の魔猪を確認すると、銀色のスライムに覆われて飲み込まれるところであった。


『皆さん、聞こえていますか? このまま逃げ続けるわけにはいかないのでどうにかしてください。私はバスを守りますので、ユウさんの指揮に従ってください』

 フミカがアナウンスをする。突然の指揮権移譲ではあるがいつもどおりのキラーパスなので冷静にする。とりあえず文乃さんにセーブが転がり落ちないように任せる。

壁際にこういう時用の命綱になる長く伸びるシートベルトがあったので、それをひっつかむ。作戦タイムのために吉乃や未結を集めるために声をかけると、後方にあった四角い箱の一つがひとりでに動きその正体を露わにする。パラララと連続した軽い音が響いて宙を舞う銀色のスライムがへこみ、推力を失ってその場に落ちる。車体に設置されたマシンガンが、自動給弾して発射する。その武装タレットにはシールドもしっかりとついていた。

「ユウ兄さん、いかがしますか?」

「おにいさん、アリスは武装タレット使うね。防衛は任せて」

 アリスちゃんがすぐにやることを告げて、ふらふらと車内を動く。シールドの影に隠れてタレットのそばに座り込む。

「前にやった時は吉乃の炎は効かなくて、未結の雷の方が効いてたみたいだからまずは迎撃にあたってみてくれ」

「かしこまりました」

「はいはい、ユウさん私は!」

「炎が効かないからベンチ」

「はーい」

 指示を出すと吉乃は微妙にしょんぼりしながら、席に座る。未結は後ろへと移動して備える態勢だ。命綱を伸ばしながら、俺も同じように後ろへと移動する。


 銀のスライムに覆われ尽くした魔猪が2体。そしてその背中に騎乗するような形で銀の人型が見える。銀の巨大な猪と化したそれぞれの胴体から2本ずつ何かが伸びるのが見える。そしてこちらに向けて、ロケット弾が発射されるのが見える。

「未結!」

「おまかせを」

 未結が手を向けるのが横目で見える。雷が落ちる音が響き、視界が雷光で染まる。一体の銀の猪に向けて放たれたそれは途中のロケット弾頭を誘爆させながら直撃し、銀色のスライムが引き剥がされて落ちる。包まれてた魔猪はすぐに逃げ出した。

 しかし巻き込まれなかった1体の銀の猪はこちらに向けて走ってくる。その速度は先程後方に流れていくよりも早く、どんどんバスに迫りくる。

「未結、体力は大丈夫なのか?」

「今の規模であればあと10発ほどは撃てますが」

「それなら体力温存してくれ」

「分かりました、それであちらはどうするのですか?」

「一旦放っておこう。心強いおともだちが足止めしてくれるようだし」

「お友だちですか……?」

 銀の猪に対して、複数の魔猪が突撃をする。銀色のを引き剥がせば仲間を助け出せると気づいたのだろう。仲間意識がないのかもしれないが、縄張り意識の方かもしれない。まぁどちらでもいいけど、魔猪というだけあって炎やら妖気っぽいオーラやらを纏って突撃するのは見えた。

 それを見て一旦後方ハッチを閉じてもらう。


『お疲れ様です、そろそろまた次の異界へと飛びますので、何が出てきてもいいようにしてくださいね』

 フミカのアナウンスを聞いて俺達は適当に座席に座る。アリスちゃんだけは運転席のそばまでいって何やら逢坂さんと話していた。

 そんな時間が立たないうちに、また景色が変わる。赤色と黒色だけで染められていた空間だ。蠢くようなその異界は、シェードが現れる時に見たそれと同じだ。それと同時にバスの上に何かが落ちてきた音が連続して響く。

『車体に取りつかれたから、屋根を炸裂させるわね』

 逢坂さんがアナウンスをしながら何かスイッチを押すのが聞こえる。それと同時に頭上の屋根越しから爆発音がする。そして屋根が箱を開くかのように開き空が見えるようになった。空の上からのっぺら坊のチェスの駒のようなシェードが次々と降り注いでくる。軽い音を立てながらマシンガンから銃弾が放たれて車内に入るであろう何体かが撃ち落とされてモヤになって消滅する。

 遙ちゃんが立ち上がって、壁に手をつける。すると氷が壁を伝い、開いた屋根があった部分を覆い氷の屋根ができる。そして氷の屋根の上には逆さのつららが飛び出て着地をしようとしたシェードの雑兵が貫かれて消滅する。

「フェイズ2までのシェードならこれで十分ですねー。大シェード以上になると急にやつら強くなるから嫌いなんですよね」

 そう吉乃が言う。透明な氷の屋根越しに見える降り注ぐシェードの雑兵の雨の中には雑兵以外はとりあえずは見えない。しかしバスが通り過ぎる場所や、周りには着地した雑兵が群れをなし無双ゲーのような有様の数となっていた。

『とりあえずは大丈夫そうですね、あ。後ろに何かが』

 皆がそのフミカのアナウンスで一斉に後ろを見る。後方の雑兵が舞い上がって空で霧になって消滅するのが見える。何かが迫っているのはわかったが、雑兵の壁で見えない。


『とりあえず、最速で逃げるわ。そうなると一時的にバスが動かなくなるからその後は覚悟してちょうだい。吉乃ちゃん、よろしくね』

「はーい」

 吉乃が後部の床のハッチを開いて手を入れる。すると急にバスが加速して車体がウィリーするように斜めに。そしてそのまま斜め上に空を舞い上がった。

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