試練とは

 名前をこっそりと教えてもらってから、最後にいくつか聞きたいことを思いついたので遠慮なくそれを聞くことにした。何でも答えるの権利は使ったとはいえ、単純な質問ぐらい許されるだろう。日本でそういうことを聞いてほしく無さそうだし。

「何か企んでいそうな顔をしてるわね、由城君」

「気の所為ですよ、ただ単純に聞きたいことがあるだけです」

「質問内容によるわよ?」

「知ってれば御の字程度ですので、お気になさらず」


 ・春眠症候群になった人がアーディアルハイドに来るかどうか。

「アーディアルハイド? 文香ちゃんがつけた名前? 道理で……いや、それはいいとして。こちらには絶対に来ることはないわ。そういった権能ではないから」


・春眠症候群にする権能というのは何なのか。

「ここの表の神殿と同じよ。人を見極め、魂の力を露出させる。魂の力を肉の殻を超えるほど暴走させてるから、物理法則よりも魂の法則が優先された結果として春眠症候群という症状なんじゃないかしら」


・遙ちゃんが記憶喪失なんだけど。

「あら、無理やり断ち切っちゃった? とはいえ本来なら記憶は魂にもあるはずなんだけど、それが無いってことはほら。あまりいい記憶ではなかったりとか。もしくは一時的なものでしばらくしたら取り戻すんじゃない? 分からないけど」


・ピンク色のヒマワリってどう思います?

「ピンク色のヒマワリって可愛い気がするけど。何かしら? そういうの見つけて文香ちゃんにでもあげるの?」

「いえ、単純に世間話です」

「こんなおばさんに世間話をしようなんて、色男ねぇ」


・虚数省ってご存知ですか?

「え、なにそれ? 美味しいもの?」


・紫苑さんっていうのは。

「可愛いでしょう?」


・セーブをこちらに返すには?

「今の状況だと私がこっちの世界に戻すのは無理ね」


 聞きたいことを色々と聞けてある程度指針をまとめようと少し考え込もうとしたら文藻さんがなにかに気づいたのか壁の方も顔を向ける。

「どうしたんですか?」

「そろそろ文香ちゃんと文乃ちゃんの試練が終わりそうね。由城君もそろそろ先に出たほうがいいわよ」

「あぁね。そしたら、もう行きます」

「文香ちゃん達がいない間であれば、日本でも話は聞くわよー?」

「なんか邪推されそうで少し気がすすまないですけどね、それだと」

 それに対して苦笑いをした後に、文藻さんはジェスチャーでロードを呼ぶ。

「出口への案内はロードちゃんがしてくれるから、迷子にならずにしっかりついていくのよ」




 そんなことで、先に神殿から出てフミカ達を待つことにした。ロードは見つかりたくないからといって、先にどこかへと走って行った。多分集落の方に帰って行ったのだろう。

 まつこと体感時間5分程度。神殿の方から足音が聞こえてくる。足音の主を確認してみれば、予想通りの二人が歩いてくる。フミカの手には身の丈ほどの長い杖を持っており、その先端には装飾があしらわれていた。文乃さんの手には対照的に指揮棒のような細く短い棒を持っており、よくよく見れば銀色のそれには細やかな装飾が刻まれている。

「おかえり、どうだった?」

「うちは大したことはなかったわ」

「フミカは?」

「古代王国の歴史を順番に見せられた上で、最後に自分自身と相対しましたね。戦いにはなりませんでしたが、色々と分かることがありました」

「それは情報収集的にはよかったのか?」

「好奇心的には。魔王については何も関係ありませんでした」


 小さくため息をつくフミカを見ていたら、顔をそらされる。そしてそれを誤魔化すように杖を目の前へと持ち上げられた。

「この杖は試練を乗り越えたということで頂いたものですが、簡単に言うと魔法を使う際の補助の道具でした」

「具体的には何かあるのか?」

「魔法の効果が今までに比べて10倍にすることができます。そして邪悪なる者を封印するための術式を起動するための触媒になるようですね。最もそれで使うと補助道具としての機能が8割失われるようです」

 10倍って少しあれじゃないか、8割失われても元の威力の2倍になるし。どれだけ強力なんだと思いながら、文乃さんを見る。もしかして同じなのだろうか。

「うちのも似たようなものやで。封印術式の触媒にはならないけど、この棒に他の人の魔法強化に専念させれば魔法効果が5倍にまでできるそうや」

「ちなみにその二つを同時に使うと?」

「試すのは怖いのでやめておきましょう。いざって時に覚えておきましょう」

 そういった、フミカは杖を手放すと次の瞬間には杖が消える。

「文香、それどうやったん?」

「え? できませんか? こういった主を定めたマジックアイテムというものは仕舞おうと思えばしまえるものと思ってるのですが」

「そうなんか」

 文乃さんは少し疑わしそうにこちらを見る。この世界が本来の意味での夢ではなく、異世界ではあるというのがセーブちゃんが日本に来たから分かったが。問題はその異世界でもフミカが夢蝕と名付けた、思い込みで世界を改変できたのは変わらないわけで。文乃さんが信じればきっとできるよ的なアイコンタクトを送ると、諦めた顔をされた。

 2,3分ほど文乃さんが目をつむって集中すると、ようやっと文乃さんも指揮棒のような杖をしまえたようだ。


「ユウさんの方は何かありましたか?」

「ちょっとした褒美で試練の精霊的なのに何でも質問を三つまで答えようってされたから聞いてきた」

「あ、何を聞いたんですか?」

「魔王とか春眠症候群についてだな。春眠症候群については特にこの世界に来ている地球の人はいないという回答だったな」

「その情報が正しければ、一つ仕事が減りますね」

「それ以外の質問については、この世界の外については教えられないってことで質問権がなくなったな、うん」

 我ながらいい感じの嘘を思いついたものだ。こういう何でも答えてくれるけど制限回数有り系のことを言っておけば、ファンタジーのお約束っぽい。なのできっとフミカも信じてくれるだろう。仮にバレていたとしても、よほど切羽詰まってなければフミカがわざわざ聞いてくることはないだろう。文乃さんは凄く疑わしい目を向けてきているが、フミカが聞かないならいいかというような素振りをみせていた。


「それでこれからどうする?」

「流石に今から砂漠の民の集落に行くというのもちょっと遠いですし、今日はここで朝が来るまでのんびりしましょうか。せっかく露天風呂とか整備しましたし」

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