露天風呂の夢と試しの神殿
なんやかんやとはしゃいでたのをのぼせる前に追い出しながら、風呂を上がる。風呂上がりの更衣室に用意されていたのは作務衣だった。『洗濯をさせていただきました、こちらお使いください。 紫苑』というメモがあり、普段着ているものよりも肌触りのいいそれを身につける。更衣室から出て待っていると、未結たちも同じように作務衣を着ていて先ほどと同じ色合いだった。
用意された食事を食べてもう夜は遅いということで、お泊りパーティと吉乃達ははしゃいでいた。吉乃や未結、アリスちゃんが逢坂さんの監督の元枕投げを行っていたが、そのうち逢坂さんに当たったのか大人気なく参加するような声が聞こえる。
肝心の俺は布団が四つ敷かれた部屋で、フミカ、セーブ、文乃さんといた。風呂場でのやってた捜査の情報を共有しているうちに、セーブがフミカに話をねだりに来たのだ。たまには、ということで文乃さんがセーブにみにくいアヒルの子の話を聞かせてあげていた。
「さて、ユウさん。寝る時は川の字になるようにしましょうか」
その間にフミカと俺は、夢の世界でどうするかを話していた。前にやった時は一緒に寝た文乃さんが、一緒にアーディアルハイドに行けたので同じようにしたら行けるのではないかという予測を立てていた。
なのでまずはセーブが寝たら俺たちも寝る。その間にセーブが抜け出してどこかに行かないかを文乃さんに見守ってもらいながら、問題なければそのまま一緒に寝るという形で話はまとまっている。
「しかし、そのピンクのヒマワリでしたっけ。魔王ですか……」
「フミカはどう思う?」
「その、情報不足なので推論を述べると先入観が出来るので、もう少し情報が集まってからの方がいいかと」
そういうフミカは読んでいた本を口元にもってきて話す。ブックカバーがかけられているために、その本のタイトルは分からなかった。急に顔を赤くしてフミカは本をしまい込む。
「どうした」
「何でもないですよ、調査するならアーディアルハイドで邪悪なる者の話がありましたからそちらを調べたほうが――」
フミカが途中で言葉を止める。その視線の先を見ると、セーブが既にうつらうつらとしており文乃さんが人差し指を口元で立てていた。そのままセーブを寝かせて布団をかけてあげるとそのまま寝入ってしまう。
「まずは寝ましょうか。後はあちらで」
寝てまず気がつくと、露天風呂に浸かっていた。山岳地帯なのか、目の前には山が見える絶景が広がっていた。露天風呂の周りには篝火が置かれており、見舞わたすと近くに飛空艇のストーク号があった。
「え、きゃっ!?」
声の方を見ると、すぐ隣に同じように露天風呂に浸かっているようであったフミカがいた。満天の夜空とはいえ、月明かりがないために明かりは小さな篝火のみで表情はよく見えない。水面に映る肌の色が見えたために、どうやら裸のようであった。
「すいません、その……あまり見るのは。恥ずかしいので」
「あ、あぁ。すまん」
急な出来事でついつい見てしまっていたようだ。暗い中でも、フミカの肌が赤く染まっているのに気づく。
「ところでここは」
「ユウさんがいない昨日の間に探索しにきた所ですね。ちょうどいいベースポイントになりそうでしたので、整備して源泉が吹き出していたのでこうやって露天風呂に」
そういってフミカは手をふると、明かりの魔法が発動する。手のひらから飛び立った光球が露天風呂の中央へと行き、明るく照らされる。暗いときには気付かなかったが、露天風呂の周りはガラス張りにされており屋根も柱のあるところ以外はガラス張りで満天の夜空を見れるようにしていたのだ。
見回したが、とりあえず露天風呂には俺とフミカしかいないようだ。透明な水質の温泉に沈んでいそうな人は誰もいなかった。声をかけるためにまた、フミカの方を向くとすぐ隣にまで近づいていて、胸を隠すように腕を組んでいた。
「フミカ……?」
「あまり見ないでください。その、何も着てないので。どうしても見たいというのなら、その……」
後半の方はあまり聞こえなかったが、小さく何かごにょごにょと言っていた。
「そ、そういえばセーブはどこにもいないな」
俺は見ていたことを誤魔化すように、セーブの行方を探す。それにフミカも気づいたのか同じように周りを見回した。
「本当ですね。少し待ってみましょうか。文乃さんが来ましたら、出現位置がここかどうか分かるでしょうので」
そういって、喋ることがなくなると水が流れ落ちる音だけが響く。二人しかいないからか、温泉だからか近くのフミカの呼吸音がやけに大きく聞こえる。
「来ないですね」
「いやいや、まださっき待とうって言ってから1分も立ってないからね?」
「あれ、そうでしたっけ……ごめんなさい、すぐ言ってしまって」
「まぁ、大丈夫だよ」
そんなやり取りを繰り返して4回。急に金髪が視界を塞ぎ、押し倒される。咄嗟に腕で露天風呂の縁を掴むと何やら柔らかい感覚が身体に乗っかっていた。
「うわ、なんやなんや……ってユウか。そういえば昨晩は風呂で終わったんやった」
急に現れた文乃さんはそういうと普通に目の前で立ち上がる。湯気で隠れてはいたが、よく見ていなくても服を着ていないようだった。そのまま湯を上がるのにふと視線を向けようとすると、横からガシッとフミカに頭を掴まれてしまう。
「なんや、ユウ。お二人でお楽しみ中だったんかいな。それはすまんな。詫びに見せてやってもええけど」
「文乃さん、服を取りに行って着てください!」
「はいはい。文香がそう言うならまた今度にしよか」
「今度もないですから!」
そういう文乃さんは笑いながら歩いていく。フミカはそれに対して、少し怒っていたようで、小さく何かを言っていた。
「しかし今の文乃さんが現れたのを考えると、セーブもこの辺にいるはずなんだが」
「そうですね今周りを調べてみましたが、文乃さん以外は反応がありません」
「と、いうことはこちら側に来れてないってことだろうな」
「そうなりますね」
「そうなると別の手段を探すしかないな、こちらの世界に探すなら」
風呂から上がろうかと思って立とうとするが、肩をフミカに抑えられる。それによって立ち上がろうとしてた足がすべってしまい、フミカに覆いかぶさってしまう。片手は縁になんとか立てることができたが――
「ひゃっ」
「二人ともー着替えもってきたでー……もう2時間ほど席外そか?」
その後、滅茶苦茶二人で言い訳をした。
「本当に2時間またなくてよかったんか?」
「もう、引っ張らないでください。怒りますよ」
「ええやん、ちょっとした冗句や」
「言っていいことと、言ってはいけないことがあるでしょう……」
やりとりを聞き流しながら、神殿へと入っていく。そこには荒れた床と地下へと降りる階段があった。
フミカたちがここに逗留をした最大の理由がこの神殿に用があったからだとか。サビ爺に聞いた話らしく、どうしても邪悪なる者について知りたければまずは力を証明して欲しいとのことでこの神殿について教えてくれたという。ただし場所については教えてくれず、自分で探し出すことも大事なんだとか。
地下を覗き込むと、奥に明かりでもあるのか奥が白く光っているように思えた。
「それで、この奥に行くと」
「流石に何かあるのか分からなかったので、昨晩は起きるまではあの拠点を作っていたのですよ」
「せやせや、涙ぐましい努力やろ? それまぁいとも簡単にあっちで――」
文乃さんが何か言おうとしたが、すぐに後頭部を本で叩かれたようなのでいつものことだろう。突っ込んで藪蛇とか火の粉飛んできたら困るし。
壁に手を当てながら地下へと降りていく。手先の感覚で何やら細かい溝があることに気づいた。
「フミカ、明かりをもらってもいいか? ここに何かが刻まれている」
「はい、分かりました。急に明るくなりますが、足を踏み外さないように気をつけてくださいね」
『この先は汝を見定める地なり。
最大の敵は汝以外に存在せぬ。
己が分をわきまえよ。 』
「――だ、そうだ」
「はー、けったいなこと書いてあるんやな」
「これはまた大変そうですね。敵は己、ですか」
「なんや、フミカ。怖いことがあるんか」
「怖いに決まってるじゃないですか、つまり自分自身とこの先で戦うことになるんですよ。自分の向き合いたくない心と向き合わせたりとか、そういったファンタジー恒例行事ですよ」
「向き合いたくない自分なぁ。うちはそんなこと心当たりないわ」
会話をしながらも、皆で下に降りていく。そして白く光る場所までたどり着く。そこはまるで壁が真っ白に塗られたかのような場所で、ぱっと見が果てが見えないと思っていると、視界を潰すようにまばゆく光が輝いて俺たちを包み込んだ。
「――来訪者のお兄ちゃんはこんなところまで来ちゃったんだ。大変だね」
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