模擬戦とこれから
フミカがトントン拍子に模擬戦の準備を進めていく。文乃さんは動けないようだから屋敷に置いてきたが、それ以外のメンツを多目的スペースへと集める。そこで魔法を行使して、『疲れない』『怪我をさせない』模擬戦フィールドを作り出した。相変わらず滅茶苦茶な魔法を作るとは思うが、多少の怪我であればセーブが回復すればいいだろうと言えなくもないが、そもそも怪我をしないとかが一番である。
遙ちゃんは何を考えているのかが分からないが、未結は自分の強さを疑っていないようだ。吉乃は脳天気に模擬戦楽しいと思っているようだ。というか言ってた。
「それでは、3対1でやりましょうか。私からは積極的な攻撃はしばらくしないのでご自由に先手をどうぞ」
フミカは運動に向かないだろう服装でありながらも、淡々と開始を告げる。その余裕に未結はイラっとした顔をしていた。しかしながら、真っ先に一番槍で攻撃をすることはなく、3人娘はヒソヒソと作戦会議をしているようだ。
まずは吉乃が様子見に炎の槍を投げる。槍にできるのかと思いながら見ていると、フミカは水の槍を生み出して相殺する。その後に遙ちゃんが氷の槍を飛ばすと、先程よりも大きな水の槍を生み出して、氷の槍を飲み込ませて迎撃した。
その迎撃した瞬間には、未結は投げ終えた姿勢となっており、先程の炎と氷の槍より大幅に早い雷の槍が飛んでいく。氷の槍を飲み込んだ水の槍がその雷の槍と衝突し雷と水が飛び散った。
「そんな、水は電気を通すから雷が負けるはずがないのに」
「水そのものには電気を通す性質が無いですからね。水道水であれば不純物が多いので電気が通りますが、不純物をまったく含まない純水は絶縁体になるのですよ。今のであれば壁にぶつかって弾けたような形になるので、水が勝ったというわけではないというのはありますが」
フミカが早口で解説する。フミカは長く話す時は早口になる癖がある。血が頭に上った未結がそれをちゃんと聞いてるかは定かではないが、身体能力が超能力使用中は上がるようだし、聞こえているだろう。
小手調べでまったく何も聞かなかったからか、3人娘は戦法を変える。順番にやるのではなく、3人同時にそれぞれの属性の槍をなげつけたり、弾幕のように連打したりとしたが、その全てが水の魔法で迎撃されていく。
しばらくキレイな花火を見ているように眺めて楽しんではいたが、彼女らはそう思っていないらしく近接戦闘へと切り替えるようだ。遙ちゃんが継続して弾幕や氷の嵐を起こして視界を塞ぎながら、フミカの左右から吉乃と未結が挟み撃ちするようだ。
視界が氷の嵐で消えた瞬間を狙って、吉乃と未結が一歩強く踏み込んで姿が一瞬かき消える。その後聞こえたのは氷の嵐の中心で強く人と人がぶつかる音だった。傍観者として見ていたから分かりやすいが、フミカは氷の嵐が出た瞬間には大きく空と飛び上がり氷の嵐のドームの上に上がっていた。
氷の嵐のドームが収まって、その空飛ぶ姿を見た彼女たちは流石に予想できなかったようで、ぽかんとした表情をしていた。
「うわぁ、まるで赤子をひねるような状態ね。由城君はこれを知っていたの?」
「かなり抑えて迎撃してるんだよなー、全力に比べると」
「そうよねぇ、どうみても余裕だもの。ちょっと大人げない気がするけど、超能力を持った子供に対する洗礼は時期見てやるのはわりと普通というか、必須だから私の手間が省けるわね」
逢坂さんは模擬戦を見ながらそう評価した。そう話している間にも、彼女たちは弾幕を空飛ぶフミカへと放つ。フミカは迎撃ではなく、空を飛んで回避を選びどれもこれも当たることがなかった。
「おーい、そろそろいいんじゃないか?」
「ユウ兄さん待ってください。まだ私達は全力を出してません!」
「フミカも出してないと思うが、それだったら全力の一撃をそれぞれ出したらどうだ?」
俺の言ったことに一理あるとみたのか、弾幕が止む。
それを見て、フミカが地上に降り立った。するとフミカの周りを氷の壁がせり上がり氷の中を閉じ込める。しかしフミカは余裕があるのか、氷の中から皆の様子を伺い手をふっていた。それに対して何重にも氷の壁がフミカを閉じ込めようと何度もせり出し大きな氷のドームになっていく。
「私のとっておき、いきますよー!」
吉乃が、手を空にかざして大きな炎の渦を生み出す。ある程度溜め込みができるのか1秒ごとに炎の渦がどんどん大きくなっていく。天井に届きそうなほどに大きくなった炎を、手を振り下ろして氷のドームへとぶつけると一気に水蒸気が発生する。
「あ、ユウお兄ちゃん、リョーコおねーさん、ちょっと近寄ってー」
セーブが俺たちの前に出て、近寄るように引っ張る。そしてフミカに教わったという絶対魔術防壁を使って俺達の前に壁を貼る。
バチバチと両腕に雷の力を貯めた未結が、水蒸気に向けて両腕を突き出して太いレーザーを発射した。すると水蒸気を一瞬湾曲するが、次の瞬間には大きな音を立てて爆発の衝撃がバリアを叩く。その衝撃を同じように受けた3人娘は勢いよく吹き飛ばされて転がっていった。
その爆発が収まった後、粉塵の中から人影が歩み出てくる。予想はついていたが、無傷のフミカだ。
「さて、まだやりますか?」
無傷のフミカが声をかける先には、先程の爆風のせいか、はたまた全力を出したせいか立ち上がっていない3人が転がっていた。
遙ちゃんが氷をだして白旗のようなものを立てた。降参のようだった。
「そういえば、何で模擬戦してたんでしたっけ?」
「吉乃ちゃんはそういうノリで動くとこあるのは私はいつも感心するわ」
「そうですか? 逢坂博士、もっと褒めてください!」
「褒めていないわよ。つまるところ、力量の確認よ。今後どうするかっていうね」
「ひどい目にあいました!」
「口で言っても理解と納得できないだろうからよ……」
逢坂さんがため息をつきながら吉乃の頭を叩く。中身が詰まってなさそうな言動をするわりには詰まってるような音が響く。
「とはいえ、こんなに荒事が必要なのはなかなかないですけどね」
「そうなんですか?」
フミカのその言葉に、吉乃が反応するが周りの反応は当たり前だろうという顔をしていた。当たり前だが、法治国家の日本でおおっぴらに戦闘力が求められることはない。というか示したら警戒されるだけだ。そうなれば変なのも寄ってきやすい。
「自衛力の確認と、いざという時のことを考えるのに見せてもらっただけです」
「白鷺さん。自衛力は分かりますが、いざというときには具体的にはどういった時なんですか」
「そうですね、春眠症候群患者を起こすとちょっと必要になったりしますね」
フミカがそう言うと、聞いた未結は反射的に遙ちゃんを見る。遙ちゃんは何を考えているのか分からない無表情のままで、未結が見たときには手を振っていた。
「戦闘ですか?」
「マンモスでしたね」
「お兄さんが轢かれてましたよ」
マンモスという言葉に、遙ちゃんが乗ってくる。どうやら遙ちゃんは俺たちが戦っていたところが記憶にあるような反応を前からしていた。
「未結さんとアリスさんに手伝ってもらっていろいろ調査をした上で、誰がどこに行くのかというのとか、これからどうするかを決めますから協力をお願いしますね」
「承知しました――ところでアリスちゃん見ませんでした?」
「未結、アリスちゃんは文乃さんの隣に布団を敷いて寝てたぞ」
「あの子は……」
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