力とは

「ユウ兄さん、枯野さんから聞いたのですが、屋上から飛び降りたって」

「そんなことあったっけな」

「ユウさん誤魔化すのはダメですよ! よく考えたら普通の人間がそんな高いところから飛び降りてクッションがあったとしても、大怪我間違いなしですよ」

 それには苦笑いして白を切り通そうとする。訓練された人なら高いところから五点着地すれば安全に飛び降りれるわけだから、それでごまかそうとする。

「むむむ、そう考えればそうですね……?」

「枯野さん、もうちょっとちゃんと追求してください。まったく。ユウ兄さんは超能力が使えたりという自覚はありますか?」

「この歳で超能力が使えるっていうのはないなぁ」

 そう、超能力は使えないのだ。それが使えたらきっと人生楽しそうには聞こえる。

「ユウ兄さんがもしかしたら、超能力に目覚める兆候なのかもしれないのですね」

「きっとそうですよ! 超能力者の家族がいた場合、その家系は超能力を持つ人が多くなる傾向があるって逢坂博士が言ってました!」

「それについては絶対に無いな」

「何でですか?」

「俺と未結は、血が繋がってないからな」

 その言葉に、吉乃は何かを感じたのがすぐにしおらしくなって謝罪の言葉を言う。そんなに気にしなくてもいいだろうに。


「何にせよ、異常な身体能力があるのであれば超能力があるのかもしれないですよ。ユウ兄さん、左手を出してもらってもいいですか?」

 右手ならともかく、左手には何もないから大丈夫だろう。そう思いながら、左手を未結へと差し出す。未結は右手でこちらの左手に指を絡ませる。未結の体温を感じる手から一瞬強い熱を感じたと思ったが、特に痛みもなく気の所為だろうかと思った時に、未結は言う。

「ユウ兄さん、今反応しましたね?」

「ん?」

「これならば、有りそうですね。ありがとうございます。必要そうになったらまた声をかけますので」

「お前はすぐ自己完結するな」

「性分ですから」

「未結ちゃん何がわかったのですか?」

 未結は何か満足したのか、何度か絡ませた手を握り込んだ後に手を離して吉乃をあしらいはじめる。

「それよりも、ユウ兄さん」

「なんだ」

「誠に不満ではありますが、白鷺さんはユウ兄さんを必要としてるでしょうから。行ってあげてください」

「言われなくても」

「だから、ユウ兄さんはデリカシーが無いのですよ」

 未結に呆れあれながらも、俺は屋敷の廊下を歩き出す。右腕が伝える方向へと進みながら。




 そうして歩いていくと、やがて屋敷を出る。農園の方への石畳の上を歩いていく。石畳の先には、オレンジ色の花が咲き誇る花壇があった。その花壇のそばにフミカがおり、俺はその左隣へと行く。

「これ、見覚えのある花だったけど、何だったっけな」

「マリーゴールドですね」

「フミカは普段身につけ無さそうな色だけど、このマリーゴールドみたいなのであれば似合いそうだな」

「ユウさんは、そういうのは意味が分かって言ってますよね」

「付き合いが長いからな。言ってほしそうだし」

 フミカが自分の本心を出すことはほとんどない。分かりやすいのは好奇心ではあるが、その好奇心の裏にある本心というものは夢の世界での一緒の冒険の中で伺わせることはたくさんあったのだ。

「ユウさんはデリカシーが無いですよね」

「妹にはよく言われる」

 一息、小さくフミカが息を吐く。そしてしゃがみこんで花に手を添える。

「私は、自分が嫌いです。理由はユウさんに分かりますか」

「フミカの気持ちはフミカにしか分からないだろ。ただ予想や推測をつけて言って欲しいというならば言うけど」

「本当、デリカシーが無いですね。どうすればいいか自分で決めさせようとする」

「夢の中では散々やりたいことが出来ただろう」

、ですよ」


 そう言ったフミカは立ち上がり、俺の目を見つめる。

「あの子、セーブちゃんがこちらにやってきました」

「そうだな」

「そうであれば――あの世界は夢の世界なんかじゃなくて、異世界なんですよ」

「そうだな」

「私はあの世界を夢だと思って、まるで物語に出てくるキャラクターのように色々試しました。魔法も試しました。それがとても怖いのです」

「それは、どうしてだ?」

 その確信を聞いていく。フミカが求めているのははぐらかしとかではない。その先にあるものだ。

「例え自分たちと程遠い世界であっても、好き勝手していい道理がないんです。そして、ユウさんをその道に引きずりこんだということも。そして何より――私が怖いんです」

「そんな怖いのか? 可愛い女の子に見えるが」

「茶化さないでください。もし今あの魔法が使えるのであれば、私はこちらでも好きに何でもできてしまう。その時に自分が何をするかを考えた時がとても怖いのです」

「そうなんだ。それで使えるのか? その魔法をさ」

「使えませんでした」

 そう答えた彼女の瞳は、無感情だった。その無感情のままに続ける。

「一人ここで、試して使えないことにほっとしました。それと同時に嫉妬とどうしてという気持ちが自分にあることに気づきました。ユウさん。こんな女は浅ましいと思いませんか?」

「人には誰しもそういう心があるから別に――」


「――マリーゴールドの花言葉は、『嫉妬』『絶望』『憎しみ』。西洋であれば更に『悲嘆』。そういう意味を知ってましたよね、ユウさんは」

「母さんが花言葉好きだから多少はな」

「それで似合うと伝えるのであれば、やっぱりそう思ってるということじゃないですか。何が違うというんですか!」

 フミカが普段表さないような感情を出す。そのままこちらへと近づいてきて、こちらの胸板を叩いた後に頭を押し付けてきた。それは顔を隠すようで。

「私、分かってます。ユウさんが夢蝕の力をこちらで使えることを」

「どうしてそれを」

「だって、あの子に教えた魔法は。ユウさんの力を使って発動するものですから」

 その返答に、流石に苦笑いするしかなかった。

「フミカ、もし。俺がお前に力を返せると言ったら、受け取るか?」

「え?」

 右手に黄金のメダルを出す。そのメダルに借りていたフミカの力を載せるイメージをすると、意匠が刻み込まれる。マリーゴールドの花だ。それは目の前のオレンジ色のマリーゴールドの花壇にある花と同じ色合いに見ようとおもえば見える。

「これを受け取ったら、後はフミカ次第だ。どうしたい?」

「私は――」

 悩むフミカの肩を抱えて少し距離を離す。見えた顔は、目が赤く腫れており少し目から涙が出ていた。そんなフミカの手をとろうとする。フミカはそれに大して特に反応をせずになすがままだったので、メダルを持ったままの右手で手をとった。

「じゃあこれで返品不可ってことで」

「あっ」

「ほら、ぐちぐち言うのはもうなしだ。在るべきものは在るべき所に」

「いつから聖人になったのですか?」

 そういうフミカは微笑んでいた。


「もう返しませんよ」

「元々俺のものでもないし」

「私、とてもわがままですよ」

「アーディアルハイドでもそうだったろ」

「ユウさんを離しませんよ」

「それについては追々考えるとして」

「そこはそのまま黙って聞いていてくださいよ。だからデリカシーが無いんです」

「デリカシーが有るほうが好きなら考えとくよ」

「もう。言わせないでください」

 その可愛らしい反応に、小さく笑う。


「それで、次は何をしたいんだ?」

「小娘たちに、力を見せます。先達として頼れることを教えて」

「教えて?」

「謎を解き明かす前の準備運動にしますよ」

「それは頼もしい」

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