それぞれが持つ力―魔法

「私のねー、使える魔術はねー。お姉ちゃんと違ってー、状態復元と治癒が得意なの! ユウお兄ちゃんちょっといい?」

「なんだ?」

「かがんでー」

 セーブが右手を引いて俺をかがませる。そして銀色のヤツにやられた頬に手をかざしてくる。


――祈りよ、彼の者の怪我を世界から忘れさせよ。正しきあり方を世界に刻み直して再認識せよ。


 彼女がそう呟く。頬に再度、抉られた時と同じ熱を感じた。流石にその痛み顔を顰めると、すぐに痛みは引き反射的に触れると傷跡があったかのような感触はなくなっていた。

「怪我を直すなんて、超能力では不可能なはずって言わてるのに」

 逢坂さんが、こちらの頬を見て凄く驚いている。その手は震えていたが、それが何故かは分からなかった。ふと隣にいた吉乃に目を向けると血がにじみ出るほど右手を握りしめていた。

「超能力で不可能、というのはどういうことなのでしょうか。ヒーリング能力とかはありそうなものなのですが」

 フミカはそれに気づいていないのか、逢坂さんにその理由を問うた。

「超能力で生み出した現象は一時的なものなの。もちろんそれによって破壊とかが行われれば状態はそのままなのだけど、作り出した現象そのものは一定時間立つと消えるの。込めた力によってその時間が変わるのだけど……竹内さん、凄く軽い力で氷をだしてもらっていい?」

 こくりと頷いた遙ちゃんは、手のひらに氷を作り出す。しかし出来た次の瞬間にはすぐに消えてしまっていた。

「こんな感じでね。だからこそ、怪我を直すなんて力があれば生み出された血肉はすぐに消えてしまうと考えられてるの。それこそ使い手が自身の血肉を失うほどの力を込めればいいのだろうけど」

 その説明にフミカは納得したようだった。聞いたことを考慮にいれてなのか、実際に今起きた傷が無くなった俺の頬をフミカはつついたり撫でたりしている。そして顔を近づけてマジマジと頬を見つめてくる。

「そんなに見られていると、凄く居心地が悪いんだけど」

「あ、ごめんなさい。もう少しだけ見せてください」


「でもそやったら、なしてセーブちゃんは治療できたん?」

 フミカがまじまじと俺の顔を見ていることに、身内として何か思ったのか話題をそらすように文乃さんが質問をする。

「元に戻しただけだよ? アヤノお姉ちゃんは何が分からないの?」

「ほら、さっきそこの涼子さんが言ってたやん? 超能力じゃ治せないって」

「魂の力をそのまま使ったら、肉を持たないからそのまま時間が経ったら世界に溶けるから当たり前じゃないの?」

「いや、そうじゃのうて」

「セーブ、聞きたいのはどうして魔法だと治せるかってことだと思うぞ」

「あ、そっか!」

 セーブが合点がいったように、手を叩く。そしてそのまま指を自分の顎にそえてくねくねとしはじめる。

「んーっとねー。秘伝だから内緒!」

「えー、そこなんとか教えてくれへん?」

「フミカお姉ちゃんには魔法を教えてもらっちゃったしなー。どーしよっかなー」

 そういうセーブはフミカに目線を向けているが、フミカはまだこちらの頬がもとに戻らないのかをじーっと見つめている。そろそろ目線で火傷でもしそうな勢いだ。

「んー、そうだ! お兄ちゃんの力だよ!」

「あ、説明してくれへんやつやな」

「ふふー、これは魔法使いだけの秘密なのだー」


「ふーん、そんなもんなんやな。せやったらうちもフミカに教えてもらったやつやってみよか」

「アヤノお姉ちゃんも魔法を使えるのー?」

「教わっただけやし、使えるとは限らへんしな、ユウ、ちぃとこいや」

 俺が居心地悪そうにしてるのを見越してか、フミカから引き離すように俺の右手を引っ張って立ち上がらせてくれた。

「ユウの力っちゅーんなら、手でもつないでればできそうやし、ちぃと我慢してや」


――灯せ、光を。星の輝きよ。スターライトレイ!

「きゃっ」

「まぶし」

 そう唱えた後に、文乃さんの繋いでいない手が強く発光したために目を瞑ってしまった。不意打ちだったせいで、目がシパシパする。皆を見渡すと同じような感じで、例外なのが未結とアリスだけだった。

「下手したら、雷ぐらいの光量がありましたね」

「あかんわ、これ死ぬほど疲れる」

「文乃お姉ちゃん慣れてないのに、そんなに力入れすぎると疲れるよー」

 それでふらふらになったのか、文乃さんが立っていられないようでこちらにもたれかかってくる。反射的に抱きかかえるような形で受け止める。


「ちょっと文乃さんが倒れてるようなので、一旦休みましょうか」

 フミカがそれをみて言った。その声は不自然に固く聞こえた。フミカの様子を伺う前にボタンを押されでもしたのか、メイドさんがやってくる。

「おや、文乃様がおつかれなのですね。であれば屋敷のご案内いたしますね。お茶菓子もございますのでごゆっくりしてください。由城様は、そのまま文乃様を連れてきていただけると助かります。それこそお姫様抱っこでやっていただけると私とても捗るのですが」

「一体何が捗るんですかねぇ……」

「ははは……すまんな、ユウ。肩かしてもらっても歩けそうにないから、お姫様抱っこしてくれると嬉しいんやけど」

「まぁいいけど」

 言われた通りにお姫様抱っこをする。遙ちゃんに比べたら重いには重いが、軽々と持ち上げられる。こんなに自分の力が強かったっけと思っていると、視線が四方八方から刺さる。皆そのお姫様抱っこをしているところを見ていた。メイドさんの紫苑さんも含めて。ふと視界の隅で文乃さんの顔が紅くなるのが見えたが、気付かなかったことにする。

「では地下シェルターの鷹司亭へとご案内いたします。皆様には逸れないようにしっかりとついてきていただけると助かります。迷子になった時に探しに行くのはめ……大変ですので、いいですね?」

 皆がはーいと返事をする中で、フミカだけの声がないのに気づく。ふとフミカの方を見ると何かを考えているのか、ずっと顎に手をあてていた。


 案内された先で、紫苑さんが屋敷の一室に布団を用意してくれていたのでそこに文乃さんを寝かす。逢坂さんが面倒を見てくれるということなので、お言葉に甘えて任せることにした。そして客間の方へと足を運ぼうとしたら、吉乃と未結に廊下で呼び止められたのであった。

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