それぞれが持つ力―異能
鷹司家には地下シェルターがあるからそれをフミカが使用許可をとってきた。何でも、一定以上の資産を持っているところならどこでも高級住宅街の地下にはシェルターがあるらしい。大なり小なりの差があるとは言っていた。
恭司さんの住む離れに入り口があるということで、文乃さんに案内されたのは掛け軸の裏の秘密通路だった。掛け軸をめくって中に入り、地下へのなだらかな階段を降りていくとそこには大きなエレベーターの扉があった。エレベーターを呼び出して乗り込むと、その広さは6畳ほどあり、俺たち8人が乗り込んでも快適だった。
地下へのボタンを押してから、2分ほどエレベーターで降りていく。するとエレベーターの窓ガラスから明かりが入り込み、地下の様子が見える。人工太陽灯が地下の空間を照らしており、農園のようなものと、一つの大きな屋敷があった。農園の管理はドローンが行っているのか、遠目に動いているのが見えた。
エレベーターの到着のチャイム音がなり、扉が開く。
「皆様ようこそいらっしゃいました、恭司様からはご連絡をいただいております。私こちらの地下を管理しています、鷹司
扉を開いたと同時に挨拶をしてきたのは、メイド服を着た女性だった。髪の毛を抑えるのはカチューシャ型のヘッドセットに目が行く。
「多目的スペースがございますので、ついてきてください。いいですか、絶対に離れないでくださいね。迷子になってしまいますよ」
案内された先は体育館のような広さを持つ運動場に見えた。しかしそこの壁は頑丈そうな金属の壁であり、多少何があっても壊れ無さそうだった。
「こちらのボタンをお渡ししますので御用がございましたら、お使いください」
そう行って差し出されたボタンをセーブが受け取ると、ボタンを連打しはじめる。メイドの紫苑さんは、ニコリと笑みを浮かべてイタズラには使わないでくださいねと取り上げた後に、俺に手渡した。
軽く感謝を告げた後に、紫苑さんはそのままどこかへと去っていく。
「あー、そしたらあれだな。順番に超能力を見せてもらっていいか?」
「ユウ兄さん、私は最後にしますね」
「おにいさん、私はできることないからやらないよ」
未結が最後にと宣言をすると、アリスちゃんはやらない宣言をした。確かにこの辺にハッキングしていい機械は無いだろうから仕方ないが、話し方が棒読みなせいでやる気が無いようにしか見えなかった。
「はいはいはい! ユウさん、私がやります! 一番枯野吉乃です!」
「お兄さん、私もやった方がいいの?」
「遙ちゃんも次やってくれると嬉しいな」
「お安い御用」
まずは吉乃が皆から少し離れて力を使う。
「私の超能力は炎です! 冬とかだと暖かくて便利です!」
そういう吉乃は、手のひらに炎を生み出しジャグリングをしはじめる。
「吉乃ちゃんが説明すると感覚的すぎるから、私が説明するわね」
「はい、逢坂博士お願いします!」
逢坂さんが、吉乃の反応に小さくため息をつくと解説をはじめる。
「超能力、あるいは異能というのが分かりやすく説明するけど、それは身体の中にある何かの力を元に発動しているわ。気、プラーナ、TP、その言い方は人それぞれだけどリソースを使うと疲れるわ」
「このお手玉をしていると、自転車をこいでるぐらいに疲れます!」
「その負荷も人や能力によってそれぞれ。分かっていることは、それが超常現象であるということよ。虚数省では超常現象発現能力者なんてかたっ苦しい言い方をしてるから好きな呼び方でいいわよ」
「ほー、疲れたりするんやね。海外ではなんて言われてんねん?」
「海外とのそういった交流を私はしてないから、正式名称は分からないわね」
「せやか」
文乃さんが興味本位の質問だけをして満足をしたようだ。フミカをふと見ると、右手を口元によせており何かを考えているようだ。
「あ、そや。全力を出すと何できる?」
「基本的に私達は全力を出すことはないわ。他の人達はどうかは分からないけど、安全マージンをとって能力を使うように吉乃ちゃんには訓練してるわ」
「なので、よほどのことが無い限りはそういった秘奥義めいたことはしません!」
「吉乃ちゃんはぼっちだしね」
「私はぼっちじゃないです! ユウさんがいます!」
「はいはい。それじゃあ次は竹内さん、吉乃ちゃんの次お願いしていい?」
逢坂さんに声をかけられて、遙ちゃんが前に出て吉乃と入れ替わる。
遙ちゃんは、先程吉乃がやっていたように手を動かし氷を生み出す。そしてジャグリングまで真似しようとして、失敗して取り落としていた。
「お兄さん、吉乃ちゃんがやってたのができない」
「手先が器用じゃないとできないしな……とりあえずぐるぐると空で動かせるのなら礫を出して動かしたらどうだ?」
「それならできそう」
3つの丸い氷を生み出されると、ぐるぐると円を描いて回る。
「超能力が何かしらの現象を作り出す場合は、こんな形で生み出したものをある程度操作できるわ。もちろんサイズが大きくなればなるほど疲れるけど。竹内さん大丈夫かしら? 覚醒したてだから疲れたらすぐ止めるのよ」
「これぐらいならお兄さんにお姫様抱っこされて運ばれた時よりは疲れない」
遙ちゃんがそういった途端に、視線が二人分ささる。文乃さんとフミカのものだ。緊急事態で急ぎだったから抱きかかえただけなのに。
「あ、そうだ。あの氷の壁また見てみたい! 遙ちゃんできそう?」
コクリと頷いた遙ちゃんは、手をかざす。すると少しずつ氷の壁らしいものが出来てくるが、前に見たほどではなかった。それに対しても遙ちゃんがおかしいと思ったのか、首を傾げていた。
「時間も有限ですから、次は私がやりますね。私の能力は雷を操ることです。竹内さん、その氷の壁を壊しちゃいますね」
そう言うと未結は右手を銃のように構える。指先から何かが出たと思った次の瞬間にはバチンという音に氷の壁にが弾け飛ぶ。その際の破片は吉乃が炎で蒸発させたようだ。しかし遙ちゃんに飛んでいった分まではカバーしてはいなかったようだが、遙ちゃんに当たった破片は溶け込むようにして消えた。
「これで深呼吸するぐらいには疲れます。他にも身体能力を身にまとうことで強化できますがその辺の応用は細かいので説明は割愛します」
「未結ちゃん、いきなり壊すなんてひどい……」
「うっ。でもそのすぐ出せるものだし、竹内さんに当たっても問題ないし。どちらにせよ残ったものは掃除しますし。その、ごめんなさい」
流石に視線に耐えきれなかったのか、言い訳をやめて謝罪をしたようだ。出会った時から未結は大人びていた印象があった。それゆえか純粋な相手に見つめられると凄い弱いのか、普段の俺に対する態度が嘘のように慌てるのだ。そこは年相応に慌てるのが可愛い所だと思う。
そこに逢坂さんが一つ解説を入れた。
「超能力で生み出されたものは、見ての通り本人には基本的にはダメージを与えないわ。とはいえ、例外もあるから完全に安心はできないけどね」
一通り、逢坂さんと時崎さん以外の能力のお披露目が終わると同時にセーブが急に声をだす。
「すごいね、皆! 魔法を使わずに魂の力に形を与えられるなんて!」
「魂の力ですか?」
「そうだよ、フミカお姉ちゃん! 皆同じように魂の力を持っていて、その中でも強い意志を持つ人たちは魔法を使わないで、魂の力に形を与えられるんだよ! サビ爺がいうには、その力の外観は人それぞれなんだって」
「人それぞれの力の外観、ですか」
「そうそう! でも私はできないから、魔法を使うしかないんだよね。フミカお姉ちゃんに教えてもらったとっておきのやつやれるよー」
「待ってください。魔法を使えるんですか?」
「え、なんで? だってこれフミカお姉ちゃんが教えてくれたじゃない」
「そうでしたね。えぇ、そしたらやってみせてもらってもいいですか?」
「まっかせてー!」
そう言うセーブを見るフミカの目は、夢見る少女が王子様を見つけた時の目というか。物語の主人公たちが使う異能というものを目にしたという時の目というか。フミカはそういった憧れが人一倍強い。夢の世界でも薄々とそう感じていたが、今それを確実にそうだと確信できるような状態であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます