Inspect

状況を整理をする

 皆がわいわいとやっている間に、フミカに手招きされて部屋を抜ける。そしてフミカの部屋に連れてこられた。

「ユウさん、これからの話をしますがよろしいですか?」

「なんか、怒ってない?」

「怒ってませんよ」

 その返事をする顔は、どちらかというと呆れていた。

「竹内さんに纏わる春眠症候群での諸事件についてなのですが」

「最近身の回りで起きていることは、彼女が起点と言えるな」

 俺からすれば、フミカとの出会いから色々と巻き込まれてきたようなものな気がした。夢の中でいい夢見たなと思えた日常も、夢ではなく現実であったとなる非日常に切り替わったのはやはり、俺が遙ちゃんの目覚めに繋がったからだろう。

「まずここに匿ってる間では時間は稼げると思います」

「その心は?」

「高峰教授からは竹内さんの病室は担当者以外は完全に侵入禁止になったということを伝えられましたからね。言外には箝口令があるということなのでしょう。流石に高峰教授もユウさんが奪還したことまでは気づいてないでしょう」

「そこまで分かられたらそもそもこういう事態になってないだろうしね」

「なので、整理しましょう。匿うのにも限界がありますから。それが年長として、きっかけを生み出した私達が背負うべき責任なのですから」

「あまり気負いすぎるなよ」



■春眠症候群

――この病に陥ったものは眠っているように見える。

――患者には一切の物理的干渉を行えない。

――目が覚めた事例は竹内遙のみ


■リーブラ社

――世界的有数企業である。

――竹内遙を誘拐したもの達と関わりがあると思われる。目的は不明。

――拘束されたテロリスト達には逃げられている。


■虚数省

――超常現象に関することを管轄している非公開行政機関である。

――春眠症候群の情報に関しては国家予算級の懸賞金をかけている。

――原則として民間同士の争いには不介入である。


■目的

――竹内遙が狙われなくする。

――春眠症候群の原因を解き明かす。


「まずはこんなところか」

 ――地球でも夢蝕の力を使えるようにする。

 書き出したものに、フミカが一つ加える。

「それ本当に必要なのか?」

「絶対に必要です!」

「お、おう」

「それじゃあ現状分析をしましょう」

 机の上のノートを横からフミカが自分の方向に引き寄せる。その際に腕同士がかるくふれた。

「あ、ごめんなさい」

「大丈夫だ、話を続けよう」

「まず竹内さんが狙われる理由としては、やはり唯一の治療事例だからと言ってもいいでしょうね」

「今の所思いつく理由はそれだけだもんな」

「懸賞金が凄いですから、単純にその額のお金は人間に大義名分を与える魔力になるでしょう」

「実際その額あれば誰でもくらっと来そうだ」

「そうなると、誰が春眠症候群になるかどうか、どうしてそうなったかっていうのを調べていって、解き明かすのが現状においての目標になるでしょう。とはいえ、本当にそれだけじゃないかもですが」

「それは何で?」

「竹内さんが超能力に目覚めたからです。これが春眠症候群から治癒したことから来ているのか、元々持っていたから春眠症候群に患ったのか。あるいはがあるかどうかを切り分けないといけません」


 つまるところ、俺達のせいで超能力を手に入れたという可能性があるということだろう。超能力を持っているからなのか、治癒したら誰でも手に入るのかでは大きな違いがある。

「問題は、元々持っているかどうかは竹内さんに聞いても分からないことでしょう。記憶がないみたいですからね」

 ――竹内遙の記憶を取り戻す。

 彼女はそうノートに書き加える。

「最終的にはご家族の下に戻れるのが幸せでしょうしね。私は眠っていた頃の竹内さんの下にご家族がお見舞いにきているのは見たことがありますが、とても家族思いの方々でしたから」

「問題は、そういったのを調査する伝手がないってことだな」

「逢坂さんに虚数省にそういった情報を求めるのは危険だろうというのと、お役所仕事だからすぐには情報出ないだろうということです」

「逆説的に言えば、情報がある可能性は高いか」

「流石にフィクションのように、準備や力なしでは潜入とかはできませんから」

 それはもしや、力があればやるという意味だろうか。


 部屋の外から未結が俺を呼ぶ声が聞こえて、この部屋の引き戸が叩かれる。フミカが立ち上がって引き戸を開けて招き入れると、未結といつの間にか増えていた女子が来ていた。

「ユウ兄さん、お話の邪魔でしたか?」

「いや、一段落したところだ」

「ちょうど良さそうなので、私の友達の紹介をしようかと」

 ダボダボとしたズボンが目立つ彼女に目を向けると、眠そうな目をしていた。テンションが低そうだ。

「この子は時崎アリスちゃんです」

「よろしく」

「やる気のない子ですが、超能力による電子機器へのハッキング等ができます。そのおかげでユウ兄さんの援護ができました」

「みゆちゃんはストーカー」

 ぼそっと何かをアリスちゃんが言ったが、未結がさりげなく腕を動かしたのが見えて痛っと小さく声を出していた。尻でもつねったのかな。


「ユウ兄さんのことですから、首を突っ込むつもりでしょう」

「よく分かったな」

「妹ですから。そちらの白鷺さんと色々と話し合って計画していたみたいですしね」

「ユウさんの妹さんは目がいいんですね」

 扉からでは少し離れた机の上ノートなんて、よほどの目がよくなければ見えないだろう。未結の視線を見てフミカがそうこぼす。

「ただ、計画をするのに欠けてることがあると思いますよ」

「欠けていること、ですか? それは一体」

「私達のことを計算に入れてないじゃないですか」

「中学生の女子たちにこんな危ないことは手伝わせることができませんよ」

「私からしたら、超能力を持っていないユウ兄さんと白鷺さんだけの方が危なくてそんなこと放置できません」

 ふとアリスちゃんの顔を見ると怪訝な顔を未結に向けていた。何か未結が知らないことを知っていそうだ。こちらが視線を向けていると、気づいてこちらに顔を向けて右手の方を注目していた。

「ユウ兄さんなら、もしかしたら私と同じようにできるかもしれないですが……」

「ユウさんも超能力があるというんですか?」

「家族ですから」

 義理の兄妹だけどな。そんなことを思ってると、一瞬だけ怖い目で未結に見られてしまう。顔に出てるのだろうか。


「何にせよ私達はある意味部外者ですけど、誘拐された竹内さんや直接奪回に関わった枯野さんは当事者ですから、組み込まないとかわいそうですよ」

「それもそうですが……」

「どうしても気になるなら、そうだ。私達の戦力分析をしましょう」

「戦力分析ですか、分かりました――この屋敷には広い地下があります。そこをお祖父様に使わせてもらえるようちょっと話してきます」

 そういうや否や、フミカは俺から見るとウキウキしながら部屋から出ていく。俺もついていこうとすると、左手を未結が掴み、右手をアリスちゃんが掴む。

「どうした?」

「ユウ兄さんには力があると思いますが、絶対に無茶はしないでくださいね」

「それは状況に応じてだな」

「みゆちゃんが気になるなら鎖で繋ぎ止めておけばいいのに」

 右手を中学生女子なりの全力で握ってくるアリスちゃんが物騒なことを言う。小さく、未結が何かを呟いたように聞こえたが、その声はフミカが俺を呼ぶ声にかき消された。

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