帰宅
親はまだ温泉旅行、妹は部活合宿に。ゆえに家に戻っても、人なんていない。そんなわけでオマケ付きで玄関の鍵を開ける。誰もいないが、それでもただいまといいながら靴を脱ぎ、揃えて靴箱にしまう。玄関の外をみると、何かに戸惑っているのか入らない超能力少女吉乃。
「そんなところで何してるんだ、入らないのか?」
「あ、はい。ユウさんのお家これ、本当に入っていいんですか……?」
「なんだ、その反応」
よくよく見ると、吉乃の瞳には炎が浮かび上がっていた。
「いやーこれはその、入るの怖いなーって」
「そんな目に火をだして、何が怖いんだ早く入れよ」
そういって無理やり引き込むと、瞳に宿っていた炎が水をかけられたかのように消えた。引き込む時には大の男のような力を持っていたが、家に引き込んだ瞬間に急にその力がなくなる。
「うぉっ!?」
「きゃっ!」
急に抵抗する力を失ったせいで、お互いにもつれあう。そしてそのまま玄関に倒れ込み、俺は下敷きになった。身体にのしかかる重みは、妹よりは軽い。ドアクローザーがあるうちの玄関は、小さな音を立てながら勝手に戸が閉まる。
「すまんが、降りてくれないか? あと靴脱いであがってくれ、茶を出すから」
「ユウさん全然動じないですね!? 女の子が上に乗ってるんですよ!?」
「そう言われても。昔は妹が上にのっかって起こそうとしてくることが多かったし」
「あ、これは女の子として見てもらえてないやつですね? デリカシーないですね」
思いっきり腕を振り上げてこちらを殴りつけてくるが、吉乃の一撃は驚くほどに弱い衝撃だった。あえていうならば、文学少女レベルの弱さだと思う。
「ん?」
「うー、力が出ないです。何ですかこの家……」
「力が出ないってなんだ。ここは普通の家だよ。さっさと靴脱いであがれ。俺の部屋の場所をまず教えるから。基本はそれ以外の個室に入るなよ」
「力を出せなくして、いやらしいことするつもりなんですね……少女漫画でみたことあります!」
そんな少女漫画はないと思う。その一人で元気に喋ってるのをスマホをいじりながら待ってると、諦めたのか靴を脱いで揃える。素直についてくるのでまずは洗面所を案内してうがい手洗いをさせる。そして2階の自室に案内をして扉を開ける。
prrrr......prrrrrr.
それとほぼ同時に、1階にある電話が鳴り響く。吉乃には部屋にいてもらって、慌てて駆け下りながら電話をとりにいく。
「はい、もしもし」
「ユウ兄さん、昨晩はお楽しみでしたか? 電話したはずなのですが、出なかったですね……? 夜遊びは褒められたものじゃないですよ」
「あ、
「ふーん……それは朝に電話出なかったことにも関係があるのですか?」
「あぁ、それはその」
「まぁいいです。仮に誰かを家に招いても絶対に私の部屋に入れないでくださいね」
「いやいや入れないから。俺の部屋だし」
「つまり誰かを家に招いてると……あまりオイタはしないでくださいね。明日には帰りますのでちゃんと掃除はしてください。では」
妹は返事をする前に電話を切る。虚しく受話器からツーツーと音が流れた。
部屋へと戻ると、吉乃は二段ベッドの上にあがっていた。そして戻ってきたことに気づいたのか頭上から声をかけてくる。
「ご家族からの電話ですか?」
「あぁ、部活の合宿にいってる妹からだな。掃除をしっかりしろっていうお達しだったよ」
「へー。ちなみに掃除って?」
「ロボット掃除機の邪魔にならないように荷物を片付けるだけだな」
「随分簡単ですね。ただでさえユウさんの部屋殺風景でほとんど荷物もないですし。本棚があるのはレアだと思いますが」
「ミニマリストなんだ」
「そうなんですね! ちなみにこの二段ベッドは何であるんですか? お兄さん一人で使うには少し虚しくないですか?」
「元々は二人部屋として妹と一緒に使ってた名残だよ。うちに居候するなら上の段に寝てくれ」
そう、結局吉乃の子守については引き受けたのだ。俺の部屋の荷物は多いか少ないかでいうと少ないのだろう。ベッドに本棚以外はちゃぶ台ぐらいしかない。8畳ほどの部屋にしてはやはり少ないのかもしれない。とはいえゲームやテレビの類は一応リビングにはある。
「ところで、ユウさんは実は超能力者だったりしません?」
「そういうのは覚えがないなぁ」
「じゃあ家族や親戚に超能力者がいたりとか!?」
「そんな話も聞いたことないな」
「むむむ……」
その回答を聞いて、吉乃は何やら考え込んでるのか、二段ベッドで寝転がったようだ。ちょうど立ってる俺と寝転がった吉乃の顔が同じ高さになる。
「一体何を考えてるんだ?」
「私はこの家の中にいる範疇だと超能力が出せないようなんです!」
「そうなのか。力の使いすぎとかじゃなくて?」
「エネルギーが足りなくなったら、すぐに寝ますよ!」
「じゃあ疲れてるだけじゃないか? 大シェード相手に今までにないような超能力の使い方してたし」
「うーん、そうなんでしょうか。とはいえ確かに誰かの家に入ったら大なり小なりこういった異能って弱まるんですよね」
「ほー、そうなのか。それは何で?」
「家っていうのは結界なんだそうです。私は超能力系の異能なのでよく分からないのですが、オカルト系の異能方面では先祖代々継いだ家や土地であれば、その血筋の人は強く守られるとかいって、うんぬんかんぬん」
そんなことを言われて考える。この家に来た時はどうだったか。親の再婚で――
「ここには引っ越ししてきたからなぁ。特に縁もゆかりもないはずなんだが」
「そしたらこの家の住人が皆凄く強いパワーを持ってる人ってことでしょうかね」
「いや、俺に聞かれても分からないからな?」
「むむむ。でもユウさんはシェード見てもすぐ動けましたし、何か武術でも……やってなさそうな体つきですね」
「体つきについていちいち言わんでよろしい」
「ユウさんがそういった肝っ玉であれば、きっと家族の皆さんも肝っ玉に違いないんです! 親の顔を見せてください!」
そういって吉乃はバンバンとベッドを叩く。
「叩かれても、親は温泉旅行中だから出てこないぞ」
「そうなんですか?」
「何にせよ、親が帰ってきたら逢坂博士をよんで、適当に言いくるめてもらっておかないと、お前を預かる上でな」
「じゃあ私はその際には黙ってますね! 任せてください! 学校の先生からはいつも、静かでおとなしい子とか、大和撫子のような子と言われてますから!」
「そのキャラでか……?」
「このハイテンションなのは作ってるキャラですので……普段はそんなテンションが高くないです」
「つまり?」
「知り合ったばかりのなんか凄そうな男性の部屋に来ていて興奮が止まりません」
そんな馬鹿なことを言う顔に枕をなげつける。へぷっと可愛らしい声をだしながら枕を受け止めた吉乃は、そのまま枕を抱く。
「あ、そうだお兄さんについて色々話聞かせてくださいよ!」
「明日には妹が帰ってくるから、お前の紹介する際にはおとなしくしておけよとまずは言っておくが……」
「妹さんがいるんですね!」
「血は繋がってないがな。その話をすると長くなるから言わないが」
「つまり、もっと親密になってからということですね!」
「お前本当に普段はおとなしいのかよ」
「いや……だって。年上のお兄さんと話す態度なんて知らないから……家族は皆殺されちゃったから……お母さんの真似してるだけだし」
しれっと重いことを言う彼女の事情には首を突っ込まない。そう意識をしながら彼女と世間話をしていくことにした。
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