大シェードと白き焔の力

 着地してきた化物――大シェードから逃れるように飛び退く。白い髪の毛の女の子は炎の大剣を床に突き立てると、炎の壁が立ち上がる。しかし電車の上部が無くなってる今だと、少しの時間しか稼げないだろう。

「逃げたいけど、どうしようこれ、知らない人!」

「はい、知らない人です」

「私は枯野吉乃かれのよしの14歳です! 知らない人は!」

「あ、うん。由城由20歳、大学生」

「年上の知らない人にお願いです! 囮になって死んでください!」

「いやいやいや、嫌だよ」

「そこをなんとか! おっぱい一揉みぐらいはさせますので!」

「いや、そういう問題じゃないから」

 そういって彼女がこちらの左腕を掴み、自分の胸元に持っていこうとする。それに抵抗をしていると予想以上に強い力で引っ張られて、そのうち手にうっすらと火が纏っているようにみえる。お、これは自己強化っぽいな。


「とりあえず落ち着いてだな、戦うか、飛び降りるかだな」

「じゃあエロいユウさんは戦ってください。私はとびおりて逃げるので」

「ミンチならないか?」

「きっと大丈夫です」

「そしたらあの大シェードぐらい殺れないのか、その炎で」

「この炎の大剣だと、フェーズ2のシェードぐらいしか対応できなくて……超能力って不便なんですよね」

「大きさとか調整できる?」

「できます! 大きくするのは得意です!」

 そういいながら、吉乃は炎の剣を大きくして、炎の壁も大きくする。

「違う違う、小さくしてくれ」

「小さくしたら大きなシェードが切れないじゃないですか」

「圧縮して固めると、威力が高まるんだよ」

「圧縮ってどうやるんですか?」

「こう、赤い炎を中央に集めて、青い炎にする的な」

「青い炎?」

「炎って赤よりも青い方が温度高いんだよ」


 言われた通りに彼女は炎を小さくする。壁になっていた炎までも圧縮しながら、彼女の手の先には炎が集まり、短剣が生成される。その短剣は完全に真っ白で、まるで明かりだけが浮いているようであった。

「■■■■――――!」

 大シェードがその長い爪を振り下ろしてこようとするが、その短剣にふれた瞬間、じゅっと溶ける。一瞬で溶けたそれは灰にすらならず、蒸気になって爪が消し飛ぶ。

「ひゃあ! 知らない人! これはいいですよ! 相手が消し飛びました!」

 吉乃はハイテンションになったのか、その短剣で相手の懐に飛び込む。相手は彼女を吹き飛ばそうとすると、短剣が触れた先から順番に蒸気になっていき、最後には何も残らなかった。




 彼女が大シェードを倒した後、周りにもういないかを過剰に警戒していた。

「じゃあ私の超能力を強化してくれたユウさんにはおっぱいを二揉みぐらいはさせてあげましょう!」

「いや、いらんから」

「そんな、女子中学生のおっぱいですよ!」

「女の子がおっぱいおっぱいって連呼するんじゃない」

 そういうテンションの彼女に対して、どうしてもため息を隠せない。

「それで、どうするんだ、これから」

「この異界のコアの部分を潰せば、元の場所に戻れます」

「コア?」

「だいたいは強いシェードだったり、何か本来ないはずの異物だったりするんですが、とりあえず残った車両を探してみましょう」

 彼女についてその異物とやらを探す。道中の雑魚の人型の影のシェードは軽く彼女が白炎で撫でると一瞬で蒸気になった。

「これは楽勝です……ね」

 そういって彼女の手に灯っていた白炎は消えて、倒れ込む。

「おい、大丈夫か?」

「急に疲れました……動けません」

 グロッキーな彼女を担ぎ上げて、俵運びをしながら車両を進んでいく。多少は抗議されたが気にしないことにした。途中に出たシェードは、右手をかざして魔法の矢を撃って倒していく。その様子に吉乃はグロッキーで下を向いていたのか気付かなかったようだ。



 ついに電車の運転席のある車両までたどりつくと、そこには巨大な水晶が浮いていた。明らかにこの電車にあるべきでないものだった。

「コアっぽいものをみつけたぞ」

「本当ですか……? あ、なにこれ。すごい力を感じて気持ち悪い。お兄さん適当に壊しておいてください」

「え、できんのか、これ」

「超能力者でなくても多分殴れば壊せますよ」

「そんなものか」

 言われた通りに壊そうと思い、一旦、吉乃を椅子に座らせてから近づいていく。右手で握りこぶしを作り、思いっきり殴りつける。水晶に手がふれた瞬間、手の甲に浮かび上がっていた紋様が浮かび上がる。水晶も同時に光り輝きはじめて、次の瞬間には砕け散る。





 水晶が砕け散ったと同時に、周りの風景が歪み始める。少しずつ紅く染まっていた光景が元の色合いに少しずつ戻る。すると電車の中に少しずつ人がまるではじめからいたかのように現れる。誰もがスマホを見ているものであるからか、こちらを注目する人もおらず、吉乃が座っていた位置も変わることはなかった。

 その次の駅、自分の家の最寄り駅につこうとしたために、そのまま降りていこうとすると、吉乃がついてきて、腕にしがみつく。

「おい」

「どこに行こうとするんですか」

「電車を降りるんだよ。危ないからそこで引っ張るな」

「いやいや、電車を降りるのはいいですけど、逃がしませんよ。ユウさんには一緒に来てもらって話してもらう博士がいるんだから!」

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