砂の民の集落にて
ストーク号から縄梯子が降りてきたので、それを登っていく。フミカ達と合流すると、文乃さんは少し疲れた様子だった。
「ユウさん。かばって落ちるなんてことしないでくださいね」
「文香ちゃんや、ユウは男の子なんやから、多少はやんちゃでいいんとちゃう」
「駄目です。そういう男なんだから、という話ではなくて危険なことはしないでくださいっていう大事なお話です」
文乃さんが擁護をしてくれるが、フミカは断固としてそれを認めなかった。フミカは俺が怪我をすることに対して凄く心配をするのだ。自分自身についてはそこまででもないのに。そんなことを思いながら、軽く笑って言う。
「あー、次からは気をつけるよ。今回は無事だったし。いけるいける」
「本当にそういうことはしないでくださいね……?」
そのままお互いに何かあったかを共有する。フミカ達はなんでも、オート運転が衝撃によって一時的に解除できなかったという。そのままオアシスにたどり着くと、なにやらサンドワームの群れがいたらしくストーク号を食べようと飛び上がってこようとするので色々と大変だったらしい。ふと視線を甲板に向けると、氷漬けになった肉片が甲板に落ちていた。
「食べたらどんな味するか、気になりませんか?」
「文香ちゃん、本気でゆうとる?」
フミカのような冒険心がなければ、確かにでかい芋虫なんて食べてみる気は起きないと思う。特にそれが自分を襲おうとしてればなおさらだろう。
「以前に砂の民の皆様にサンドワームは珍味と聞いたことがあります」
「あぁ、そうだ。文乃さんには砂の民について説明してなかった気がしたけど、フミカは説明した?」
「あ、してないです」
砂の民というワードがちょうどよく出たので、話題そらしに軽く誘導する。それに安心したのか、文乃さんは安心した顔をした。
「じゃあ彼らの集落にせっかくだから行こう。流石に初冒険の文乃さんを連れて遠出は止めておいた方がいいだろ」
「そうですね、そしたらストーク号の舵をお願いしてもいいですか?」
「あいよ、任された」
そこまで誘導をしておいて、見捨てるのかお前みたいな目線を文乃さんが向けて来たが気にせずに船の舵をとりにいく。フミカの説明が怖いのだろう。こっちに来てからやんちゃだけしてるのをみれば仕方ないのかもしれない。とはいえそんな説明の時にやんちゃすることはないのだが。
砂の民はこの砂漠にある集落に住む人達のことだ。若い人の数は少ない。その中で次世代を担う子供となると、村長の孫娘である双子の姉妹しかこの前行ったときにはいなかった。空飛ぶ船があるかもしれないというのは、集落の老人から聞いた与太話であった。その話を元に見つけただしたこのストーク号はまさにファンタジーそのもので、フミカの興奮がやばかった。流石にストーク号を解体してみましょうと言われたときには止めたが、そのうち落ち着いたら解体しそうで怖いが、今は文乃さんという新しいストッパーがいるし、どうにかなるだろう。多分
砂の民の集落の頭上を超える。そしてゆっくりと旋回しながら、集落にある中央広場へと着陸させた。ゆっくりと降りてくるストーク号に気づいた砂の民は、石造りの家の窓から様子を伺っていたが、甲板に俺たちの姿を見ると、出迎えてくれた。
その中でも一番はしゃいでいたのは、双子の姉妹の妹の方だった。双子の姉の方に視線を向けると、軽くウィンクをしてくる。双子なのに感情表現が静と動で逆なのはいつも印象的だった。
「村長さん、どうも」
「おぉ、ユウ君か。まさかサビ老の与太話から本当に船を見つけてしまうとは」
「もしよければ、前にお世話になったお礼に空の旅を皆さんでしますか?」
「それはいい話だのう。興味がある者がいれば、ぜひとも載せてやってくれ。とはいえ、うちの者はなんだかんだ臆病な者が多い。あまり希望者はおらんだろうのう」
村長さんにまずは挨拶をしながら、集落の様子を見る。いつもと変わらず炊事の煙が立っており、石造りの家の軒下にはよく分からない爬虫類のようなものの干物が干されている。村の人も見飽きたのか、それぞれ自分の仕事に戻っていく。
「村長さん、こんにちは」
「おぉ、フミカちゃんもよく来てくれたね。そちらの人は見たことないが、新しい仲間かい?」
村長が目ざとく、可愛い女の子を見つけたからか文乃さんをみてフミカに聞く。こういう砂漠だからか、あるいは閉鎖的な集落だからか見たことない人に対しては興味津々になるみたいだ。
「えぇ。こちら文乃さんです」
「よろしゅう」
「フミカちゃんに劣らずの別嬪さんだ。砂漠での旅でお疲れであろう。ささ、船はそのままで大丈夫なので、是非うちで休んでいってください。孫娘たちも話を聞きたがるでしょう」
村長さんに招き入れられて、集落で一番大きな家へと入る。集会所でもある村長宅はとても広く、いつも休ませてもらう時に使っていた。フミカがお土産にと氷漬けにしたサンドワームの肉を渡すと、感謝をされていた。
日を遮るもののない屋外の砂漠と違って、この家の中はとても涼しい。この集落の人には氷魔法を使える人がおり、エアコン代わりになるのであろう氷柱が置かれ日中はひんやりとしている。どちらかというと冷蔵庫ですねとフミカが初めてそれを見た時に口をふさいだのはまだ記憶に新しい。この砂漠に夜はないがゆえに、ある程度働いたら暗い家の中でのんびりと休んだり寝たりするのが、この集落の人たちの生活だった。
「ではゆっくりとお寛ぎを。孫娘たちと話していただいてる間に、家内が食事を用意しますので」
そういって優しそうな村長の奥さんが、ちょっとだけ顔を出して挨拶をすると、そのまま炊事場へと向かった。それを手伝うためか、村長さんも同じように炊事場へと入っていく。
「フミカお姉ちゃん! アヤノお姉ちゃん! ユウお姉ちゃん! いらっしゃい!」
「まてい、人をどさくさに紛れて女にするんじゃない」
「えーだって、筋肉ないし、ひょろひょろなんだもん」
双子の妹ちゃんの方がそばによってきて、腕をぷにぷにしはじめる。
「だもん、ではないですよ。ユウさんはしっかりとした男性ですから」
「せやせや。どうしても気にするなら、ひん剥いてやればええのよ」
妹ちゃんはこちらのズボンに対して目を向ける。それに対し姉の方が頭にチョップをいれて、その視線を止めさせた。さっき文乃さんを見捨てたことに対しての仕返しなのだろうか、こちらへの容赦が微妙にない。
「それでお姉ちゃんたちは今度はどんな冒険をしてたの?」
「あの空飛ぶ船、ストーク号を手に入れた冒険の話とかはどうですか?」
「凄い気になる! 聞きたい! 教えて!」
お姉さんの方が、妹ちゃんを引き剥がしつつ、椅子に座らせた。
「妹がこんなのですいません。でも気になるので聞きたい」
「それではユウさんの活躍を語りましょうか」
「えー、ユウお兄ちゃんが活躍なんてできるのー?」
「大活躍でしたよ」
相変わらず妹ちゃんの方に馬鹿にされてはいるが、話に対して興味津々のようだ。いつもフミカの話を聞いては、真似しようとしたり、服を真似してみたり、教えてもらう現実の物語のコスプレをしてみたりと、凄いやりたがりなのだ。今日は、前にフミカから聞いたアイヌの物語を聞いて、アイヌの民族衣装であるアットゥシ風の自作服を着ていた。お姉さんの方と服装を比較すると、まるで別地域民族衣装を着た人間が集合しましたと言わんばかりである。
文乃さんもどんな冒険をしてきたのかということに興味があるようで、双子の隣に座っていた。フミカはしれっと座布団をどこからともなくだして皆に配り、話をしはじめる。
「そうですね、まずは遺跡にたどりついた話をしましょうか。ここからオアシスを挟んで東の果てにあった古代王国の遺跡にたどりついたところから」
「あ、知ってるよ! サビ爺が話してた古代王国のおっきいお家が塩の山のそばにあるんだよね!」
「そうです、よくそのお話を覚えていましたね」
「えへへー。フミカお姉ちゃんがいつも言ってるように、皆の話を覚えておくといつか役に立つってのをじっせんしたの!」
「偉い偉い」
無表情でお姉さんの方が妹ちゃんの頭を撫でていた。ぽんぽんと頭をたたきながら話を静かに聞くようにするためか、指を立てているのがこちらから見えた。フミカや文乃さんの位置からでは見えないだろう。
「それでその遺跡ですが、中は古代王国の歴史の壁画があったんですね」
「フミカお姉ちゃん、歴史ってなーに?」
「昔にどんなことがあったか記録するものですよ。それがあることで過去の間違ったことをもう一度やらないようにしたりすることを学ぶためにあるんですよ」
「へー。それならサビ爺が歴史だね!」
「ここの長老のお一人ですしその通りですよ。さて続きですが、そういった壁画が続いた先は獣の住処になっていたんですね。私は後衛で魔法使いですから、どうしても狭い場所では苦手で、ユウさんが倒してくれたんですよ」
それ自体に嘘はない。ただしフミカが魔法でバリアをはれるから、獣に後ろへと抜けられても大きな問題がなかった。その後は住み着いた巨大蜘蛛を倒したり、ガーディアンの当時の防衛装置を止めたりと色々とやったのだ。特に防衛装置を壊さずに持って帰ろうとするフミカを一旦止めるのに苦労をした。その防衛装置は今は船倉に積まれているが、使うときがないことを願おう。
フミカ視点での遺跡探索の話が進んでいくうちに、噂のサビ老がやってきていた。さらっとこちらの隣にきて、挨拶をしてくれて一緒に話を聞いていた。やはり自分の話が与太話ではなく、探しに行ったからかどうなったか気になったのだろうか。
「そしてストーク号のある場所には巨大な壁画があったんですね。ところどころ欠けていてまったく分からなかったのですが――」
「それは、かつて古代王国を滅ぼした邪悪な者について記したものじゃ。まさか本当にあれをとってくるとは、その話をするときが来たということになるとは」
「サビ爺?」
話がクライマックスを終えて、最後にあった謎の壁画について話した時に、サビ老が口を挟む。それと同時に食事ができたのか、村長の奥さんが食事ができたと声をかけてきてくれた。
「あら、お邪魔したかしら?」
「なに、長い話になるだろう、食事をしながらにしようかの。すまんのう、フミカお姉ちゃんから語り部が変わることになるが――」
「サビ爺のお話は好き! ご飯食べながら聞くー!!」
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