夢守の娘
突き刺さったのは
「何をしているの、来訪者のお兄ちゃん。お姉ちゃんと一緒じゃないと弱いのに、名前を持った化物の前にいたら殺されちゃうよ」
「まぁ、それは素直に助かったけど。いきなり弱いって言われるのもな」
「実際弱い」
「単にやる気を出してないだけというか」
そういってから、お互いに距離を取るように散開する。頭部だか尻尾だか前後どっちか分からないサンドワームの先端が俺たちがいた場所に叩きつけられる。ぶちっ。そんな音がした後に、俺にめがけてその巨体が薙ぎ払おうと迫ってくる。その速さは全力で走ったときよりも少し遅い速度だからか、サンドワームの中心側に走っていく余裕はあった。しかし中心へと一歩近づくたびに、ぶちっ、ぶちっ、と音が連続して響く。
体皮に点々と生えた目に触れようとすると、その目は閉じられる。するとその部分は十分に固く足場として使えたのでそのまま巨体の上まで駆け上る。
ふと先端の方をみると、いつの間にか先端の方は半分に裂けており、今も裂け続けている。その裂けるたびに、ぶちっ。肉が裂けて二又となったそれはそれぞれ俺と『あの子』を追いかけていたようだ。肝心の『あの子』も捕まるようなヘマはなく、しゃんしゃんと鈴の音をならしながら、同じようにこの巨体の上へと登ってきた。
「来訪者のお兄ちゃんは逃げ足だけ早い」
「凄いだろ」
「こいつを倒すまでは、頑張って逃げ続けてね」
「あいよー。あ、そうだ。こいつ何か最初普通だったんだけど、こうなる直前に名前名乗ってた狼男を食べたんだよね」
「名前持ち食べちゃったって、大変。すぐ変化するから早く倒さないといけない」
棒読みにしか聞こえない抑揚のない声だと深刻さを感じられないが、やはり面倒らしい。確かに目の前に二又になりながら、それぞれが鎌首をもたげて、こちらを狙っているから厄介なのは確かだ。ついでに開いてる目はなんかカラフルに光るからとても気色が悪い。
「ただでさえ来訪者のお姉ちゃんが来てから、名前のある化物が増えてこの世界から抜け出る数が増えすぎてるっていうのに」
そういう『あの子』はすぐに飛び上がって砂漠に降りる。そして叩きつけられる、もうなんて呼んでいいか分からん化物の触手が叩きつけられる。
「我を畏れよ! 我はウォルフナーガなり、ウォルフナーガなり」
巨体の上にいると先程下にいた時には聞こえない小声のように、こいつは常に自分の名前を確認するようにつぶやいていた。それぞれの口が輪唱をするものだから、とても聞き取りづらい。
「おいおい、ウォルフさんよ、もうちょい合唱してくれないか?」
「我はウォルフではない!! ウォルフとは我が取り込み糧とした!」
「その割には、名前を得たのはついさっきじゃないか。ウォルフさんよ。なんだ、最初から名前がなかったコンプレックスか?」
その挑発が気に触ったのか何か、先程までは『あの子』にも目も含めて全てこちらを向いた。それと同時に、先端が二つに分かれて触手となったものが襲ってくる。
その巨体が災いしてか、その触手の攻撃範囲には安全地帯があった。その安全地帯になる目を踏み抜きながら回避をする。攻撃するのに頭がいっぱいなのか、目を閉じないために、気持ち悪い感触と音が足元から響く。その痛みに、ウォルフナーガは悲鳴をあげた。
「おいおい、意外と痛がりじゃないか」
「きさまぁぁぁぁぁ!」
「隙だらけ、来訪者のお兄ちゃんばかりみるから火傷する」
『あの子』が手に持った
その光のラインは自動的に目のある位置を貫くようで、目を守ろうとした触手ごと貫いていた。流石に味方のフレンドリーファイアは想定してないなと思いながら、巨体から飛び降りて砂漠に身を伏せる。
化物の全ての目という目が光に覆われたかと思うと、次の瞬間にはその巨体が膨張するかのように破裂する。大きな爆音を響かせながら、遠くへとその肉片が降り注いでいった。
「それで、来訪者のお兄ちゃんは何で一人でいたの」
「空飛ぶ船にのってたら、狼男に撃たれた衝撃で落ちた流れかな」
「空飛ぶ船ということは、古代の遺産を見つけたんだ」
「そうそう」
「本当なら返してほしいけど……お姉ちゃんの方が名前つけちゃったよね」
「まぁ、そうだなぁ」
名前をつける、この事に関してこの世界では重要な意味がある。その重要な意味というのは詳しくは聞いていない。この子自体は夢守の役割を持っているからそういうう世界の仕組みを知っているのだと、何度も会ってるうちにこっそりと教えてくれた。フミカがいない所でだが。何度も夢の世界で冒険をしてる時に、この砂漠にあった集落に住んでいたこの子は、この子の妹とフミカが語る臨場感のある現実の冒険物語を楽しみにしていたのだ。
「あのお姉ちゃんがしばらく現れそうにないので、今のうちに伝えたいことを伝えておくね」
「この前言ってた、気をつけろっていうあれか?」
「あ、聞こえてたんだ、よかった。そっちの世界には届かないのかなーって思ってたから、一応叫んではみたんだけどね」
彼女の目線を追いかけると、オアシスの方に向いており、そこには氷の柱やら炎の柱やらが乱立しては、飛空艇から砲撃が放たれていた。何かと戦っているみたいだ。とはいえフミカはこの世界では敵なしみたいなものだからきっと大丈夫だろう。
「それで伝えておきたいことって?」
「名前のある化物、そっちの世界に出ていってるみたい。気をつけてね」
「いや、それは聞いたって」
「最後まで聞いてって。名前のある化物は、どいつもこいつも目立ちやがりだから。成り立ては特に、色々な事しでかす。覚えない?」
「凄くある」
「そういうのに関わっちゃ駄目だよ。いい? 絶対駄目だよ」
フミカがいるならば、それを詳しくと聞いて、次の冒険にしてしまうだろう。これはフリだからやるのがお約束で礼儀ですみたいにいって。そりゃあ、フミカがいない時に話すよな。
「武器とか、お守りはあげると戦いに使いそうだから何もあげないよ」
「いらんて。誰がそういうと思ったんだ」
「お姉ちゃんの方」
「あ、うん。否定はできない」
「それと、邪魔されたら徹底的に付け狙われるから、絶対関わっちゃ駄目だよ。妹も君とお姉ちゃんの話を楽しみにしてるんだから」
「あいよ、頭にいれておく」
邪魔をされたら徹底的に付け狙われるって怖いなーって思っているうちに、オアシスの戦いが決着がついたようだ。そしてストーク号は全力でこちらに戻ってこようとしているのか、どんどん大きく見えてくる。
「じゃあ、見つかる前に帰るね。里には顔を後でだしてね。冒険物語待ってるから。バイバイ」
そういうと、三叉槍を掲げる。次の瞬間には小さな雷のような音を立てて、姿がかき消えた。
風が強く頭上から吹き付ける。
「ユウさーん!!! 大丈夫ですかー!!」
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