まだまだ終わらない濃い1日
今まで何をしても意味がなかった春眠症候群患者が突然に目覚めたということで、大学病院側は大わらわになった。それに伴っての患者に対しての問診や検査がたくさんあるということで、俺とフミカは追い出された。高峰教授は何かを話したがっていたようだった。しかし何やら偉い人やら偉そうな医者がどんどん病室に入れかわり立ちかわりで来るだろうということで、また今度来てほしいといわれてしまった。
「さてと」
「すいません、由城さん。色々とお手数をおかけしました」
「まぁそれはいいけど、どうする?」
「どうするべきでしょうか……?」
オドオドとフミカが聞いてくる。夢の中ではあれだけ楽しくしていたのに、こうも様子が違うと微妙に対応が困る。
「とりあえず、何か心当たりがないかと聞かれたら知らぬ存ぜぬの方向でとかどうだろう」
「え、それでいいんですか……?」
「さっきのは偶然の要素が大きかったし、あまりそういう風にやってると色々と目をつけられそ――」
「なんや兄さん、あんた文香のコレかぁ?」
道を歩きながらそう話していると、銀ともいえるグレーかかった髪を肩まで伸ばした女子が声をかけてくる。スポーティな印象をあたえる容姿からの、小指をつきたてられたらなんと反応していいかが分からない。
「自己紹介しはるの遅れたわ。
「あ、えっと、あやの、指を立てるのはちょっとはしたないですよ。えいっ」
「あいたたたた、何してはるんや」
フミカの知り合いだったようだが、フミカはその小指を立てたままなのが気に入らないようで、指を掴んで曲げようとする。もちろん無理やりそんなことをしたら痛いわけで。
「由城さん、こちらは私の親戚にあたる、鷹司文乃さんです。」
「よろしゅうな」
「それでこちらは、由城、由さんです。ちょっとした私の友人です」
「由城由です、どうも」
「なんや韻を踏んでる名前ではるな。でもこんな兄さん、今まで文香の周りで見たことなんてなかったわぁ。変な男だったりせぇへん?」
「文乃さん、失礼ですよ」
「冗談や、冗談。暇なら一緒に茶しばかん?」
それにどう返答したものかとフミカを見ると、断れというような目をしている。対して文乃さんとやらは、好奇の目でいた。
「別に嫌なら嫌でええけど。ただ、文香の思うような答えをするならば、これはもう深い仲の彼氏さんではるなぁ、と思うだけで」
「もう、文乃さん。何を言ってるんですか、そんなこといったら由城さんが困ってるじゃないですか」
「何ていうかこう。個性的なご親戚だね……」
「褒めてくれるのな。ええ男ではおまへん」
「ポジティブすぎる。まぁ、時間あるので行きますよ」
その返事にフミカはあちゃーという顔をする。文乃さんとやらは、その返事に満足いったのか電話をかけはじめる。
「ちょっと迎えよろしゅーな、爺さま」
「爺さま?」
「爺さまは爺さまや、見れば分かる」
フミカに視線で助けを求めると、プイと顔をそむけられてしまった。あとでご機嫌とらないといけないやつっぽそうだ。
問題はその爺さまという人がくるまでは、文乃さんが根掘り葉掘り聞いてこようとしてくることで、それを適度にあしらい終わらないうちはフミカと話せそうにない。むしろそれを見越して質問をしているんじゃないだろうかと思う。
「ほして二人はどんな関係なん? 随分距離が近かったようやけども」
「どんな関係って言われても」
「本屋を巡る程度の友人です」
「ほー、本屋をなぁ」
「何ですか、その目は」
「べつにぃー?」
二人がわいわいとやりとりをしているうちに、静かに黒塗りのリムジンが横付けしてくる。普段見かけることの少ないそんなものをみたら身構えてしまう。
「お、きたきた。うちの車やし、安心して」
「安心要素の欠片があまりないんだけど」
「?」
そんな首を傾げられても困ります。あとフミカもなぜ一緒になって首をかしげるのでしょう。当たり前のように二人が乗り込むので仕方なくついてフミカの隣に座る。
フミカの隣に座る。正面には文乃さんが座っていた。リムジンの中を見回すと、車の中というよりも、カラオケルームのようなソファという印象だ。実際にはカラオケルームのソファよりもいい座席だが、なかなか見ないものすぎた。
「何や飲む? お酒がええなら一応あるけど」
「流石に昼からはちょっと。というかこれって」
「うちの爺さまの趣味よ。かっこつけたがりやしさ。とりあえず今が旬のパイナップルジュースでええどすやろ」
「あ、はい」
文乃さんが、俺とフミカの分パイナップルジュースを注いでくれる。そしてフミカが口をつけた途端に、文乃さんが口を開く。
「そやけども当たり前みたいに隣同士座るね。どんだけ仲ええのん?」
それを聞いた瞬間にフミカがむせる。流石にそれはみてられないので軽く背中をさすってやると、涙目でこちらを睨みつけてくる。
「ほんと、仲ええなぁ。それで実際どんな関係なん?」
「同じ夢を毎日見る仲です」
「なんやそれ? 前世からのっていうやつの亜種? 冗談うまいなぁ、兄さん」
「文乃さんはいつまで、由城さんのことを兄さんって呼ぶんですか。皆同い年ですからね」
「ええやんええやん、別に減るもんでもないし」
仲いいんだなぁと、ちびちびとパイナップルジュースを飲んでいると車が止まる。窓の外をみてみれば、まるで旅館の敷地に入ったかのようだった。促されるままに車から降りる。
「旅館、ではないよね、これ」
「爺さまの家や。小さいやろ?」
「小さいとは一体」
「事業は今は息子に任せてるからね、小さな家がいいとは言ったんだが、息子がね」
そういって運転席から降りてきたのは、ロマンスグレーでアゴ髭が立派な男性だった。爺さまと言われるほどには歳をとってるようには見えない。若々しく夏にあったシャツを軽く着崩したその姿は30台でも通るだろう。
「こんな若々しく見えるやろ。爺さまはもう80なんや」
「はっはっは、毎日運動をしているからね」
「運動で若々しくなるのか」
「君も強く信じていれば常に若々しくいられるとも。さぁさぁ我が家へようこそ。文香のお友達なんだって? ぜひとも話を聞かせてもらいたいものだよ。大学病院の方で起きていることを含めて、ね」
これはもしや、逃げ道が塞がれたやつかな?
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