夢か現か
現れたマンモスに一瞬呆けてしまう。
「ユウさん、ここは夢の世界です! 意識を切り替えてください!」
そう言うや否や、マンモスの牙が煌めき、次の瞬間に視界が真っ白に染まる。雷が落ちた音が響き、周りの地面が大きくえぐれ、焦げ臭い臭いが漂う。
フミカの方を確認すると、バリア――本人の言う所の魔法障壁――のドームで自分自身と高峰教授を守っていた。
「フミカ、どれだけ時間がいる?」
「1分……いや5分時間稼いでください!」
「また無茶を言う」
夢の世界と分かれば、日常的に慣れている。強いイメージ力とそれを実現させる強い意志があればいい。その後は、思いの強さと相手の持つルールとの勝負だ。
だが、フミカほどの強いイメージ力もない。だからこそ素直に力を借りる。
自分にできなければ、誰かに頼ればいい。
「冒険で見つけた、切れ味のいい長物と投げナイフを10本出してくれ!」
「任されました」
――我が所有物を勇士に差し出せ、異端なる冒涜の書よ
彼女が呪文を唱える。すると、俺の目の前に紫色の禍々しい本が現れて開かれると武器の柄が一つだけ現れる。それを引き抜くと出てくるのはポールアックス。
そのまま禍々しい本は俺の周りを浮遊してついてくる。
戦う意識を見せたからか、マンモスは俺に目を、意識を向ける。そして牙が光り輝き、また稲妻を放とうとするのが分かる。
「射出4、目標左右の木!」
そう指示を口に出して言うと、思った通りに銀の投げナイフがマンモスの両サイドにある木の幹につきささる。
奴の牙を通した放電には時間も少ないので、それが目視できた時点で次の小細工。
「射出3・3、導電ルート形成!」
先程よりもかなり遅い速度で、放射線を描きながら銀の投げナイフが中空に放り出される。タイミングが運良く間に合ったようで、放たれた稲妻は、宙を舞う投げナイフを伝い、木にまで向かう。そして木にささったナイフに電撃が当たると同時に木の幹は大きくえぐり取られ、ヤツの進路を塞ぐように木が倒れる。
「■■■■■ーーーーーーーーーー!!」
その小細工がお気に召さなかったのか、目の前の木を踏み潰そうと足を動かす。
そこが狙い目だ。いかな巨体でも一度は目の前の木を潰しておかねば胴にあたるときに不快感を感じるだろう。
ポールアックスを握ったまま駆け出し、ゆっくりと振り上げ、振り下ろされる足が木を破壊する頃にはその足にたどりつく。踏み潰された木の破片が飛び散り粉塵をあげるが、本が俺に当たる分にぶつかり、消滅させる。巨体から生み出される粉塵はヤツからは俺を隠してくれるが、俺は逆に大きなその巨体の影がよく見える。
踏みつけた硬直を狙って、ポールアックスを一度振り、その重さでもう一回転飛び上がって2度斬りつける。まるでケーキでも斬ったかのような手応えだ。
斬りつけた場所を確認すれば、一瞬だけ黒く染まりその部分が消滅していく。血がでないことに安心をする。鋭いがゆえに、攻撃は線でしかできないが、それは囮をするのに十分な痛みの深さだと思っている。
――歌え、歌え、冒険記ははじまったばかり。其れは始まりの力。たゆまぬ努力、身に宿るは強さの証――
フミカの詠唱が歌になる。5分の時間を稼いでほしいというのは、その歌を5小節イメージをたっぷり練り込んでやりたいのだろう。
眼の前の巨大な足が大きく持ち上げられる。足元の蟻を潰したいのか、見上げれば前足を両方あげて、のしかかりをしてくるようにみえた。
「冗談じゃないな、おい!」
身体のリーチの差を考えれば、逃げるのであればギリギリ間に合うか間に合わないかといったところか。すぐさまにポールアックスを本に投げつけて、全力で走る。後ろに下がればフミカが狙われるだろう。なので斜め前に向かって前進する。
マンモスの目がいいかは分からないが、少なくともやつは既に前半身を投げ出している。それで方向転換なんてできるはずがない。
ずしーんとヤツが身体を地面に叩きつければ、大きく足元が揺れる。とはいえそこは日本列島ではよくある震度。この程度であれば、転ばずに済む。何より地震と違って一瞬だけだ。
――その砲塔は、大いなる旅路の中に生まれた願い。ただ一人にて作られたものではなく、困難を打ち払うために集まって作られる――
本からまたもやポールアックスを引き抜き、横向きに構えながら、マンモスの横を走り抜ける。身体を投げ出している今だからこそ、そのまま胴体から後ろ足にかけて一直線に挿し込める。太い足であるが、だるま落としさえできれば、時間を稼げる。
なんて甘い見積もりをしていれば、そのまま足をじたばたされて、後ろ足で蹴り飛ばされる。ポールアックスを盾にできただけましではあった。吹き飛ばされた先はフミカの張ったバリアで。そのまま全身がバリアに沈み込み、地面に落下する。受け身なんてとれなかったので、全身が打ち付けられる痛みが伝わってくる。
バリアの真上には巨大な砲塔が浮かび上がっており照準をヤツに合わせていた。
ヤツの姿を確認すると、起き上がってこちらに駆けてこようとする。
――猛るものは、ただ進むことだけしから知らない。故にその足元は弱く、たやすく絡め取られる――
その巨体から繰り出される力強い走りは一瞬で俺たちとの間を埋めてくる。
だが、その中間地点で、足元の草という草が早回しで成長し、その足を絡め取る。
それをヤツは引きちぎろうとするが、引きちぎるところからまた新しく草が伸び絡め取っていく。動きが止まったところを、更に伸びて絡みとろうとするが、ヤツは全身に帯電をしはじめる。
帯電をすれば、草なんて簡単に灰にされてしまう。
そしてその帯電から、ゆっくりと牙へと充電をするのか、ヤツは動きを止めた。
それはたっぷりと、1分ほどの時間を使ったのだろうか。
ヤツの牙から放たれる太い光線。
――砲よ、砲よ。その困難を打ち砕く、大いなる力を放て!
同時に、砲口の前面に巨大な魔法陣が描かれる。そして打ち出されたものは魔法陣を通過すると、次の瞬間にはヤツが放った光線よりも大きな光を放つ。
次の瞬間、轟音と共に視界が白く染まった。
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「ユウさん、5分時間稼いでっていったじゃないですか」
「いやいや、俺は超人じゃないから。3分ちょっと時間稼いだだけでも頑張った方だって」
「まぁ、そうですね。3分でもよしとしましょう」
「へへー。ありがとうございます、お嬢様」
そういう寸劇をしながら、気がつくと元の病室へと戻っていた。
高峰教授はいつの間にか床に倒れており、起こそうかと考えたタイミングで、目を開ける。
「あら、私はいったい……」
「う……ここは?」
それと同時に、患者であった人が目を覚ましていた。
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