21

 上空にある雨雲から魔力を吸収して、力に転換して、雨粒の針が勢いよく降りかかってくる。それはスピードと風に乗り、貫く強度は増している。


 竜二はジークフリートの下にミラをお姫様抱っこしてすぐに隠れる。


 近くの葉や木が黒きドラゴンの羽に次々と、小さな穴が出来上がっていく。竜の羽ですら柔らかい葉でしかないのだ。


 竜二に抱きかかえられた状態でいるミラがジークフリートに向けて質問をする。


「あの竜はもしかして水帝竜すいていりゅうなの?」


「いや、違うな。奴はこんな性格ではない。私と同じ穏健派だ。それに奴の魔法はこんなに甘くはないぞ」


 さっきよりも恐ろしい目をしているジークフリートが答える。


 こんな状況に陥っても、彼のたくましい体と誇りは呆れるほどかっこいい。攻撃を受けても全く動じない。


 ————あのドラゴン、どうして今頃になって現れた? この時を待っていたとでもいうのか?


「そう……。あれが水帝竜じゃなければ、この場は大丈夫って事なのね……」


「いや、そうでもないぞ。確かにこの私、炎帝竜でも竜が二体同時に相手をするのは少し時間がかかる。それにお前らがいると、力を全力で出せぬ」


 ジークフリートは己の口から怒りを抑えてそれに耐えきれない炎が未だに漏れている。


 どうやら、竜二たちがこの場にいるだけで自分の力が出せずに戦いに集中できないと言っているようである。見上げた竜二は、唾を呑む。


「だったら俺にお前の魔法を教えてくれよ。竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤーだったら一体は俺一人でも倒すことができ、ジークフリートも安心して戦えるだろ?」


「ふざけるな! 普通の魔法と違って竜の魔法は魔法の構築や体の鍛え方が違うんだぞ。それにすぐに覚えられる魔法でもない。私があとで教えてやると言っているんだ。それに従え!」


「そんなのやってみなきゃ分からないだろ⁉」


 気が動転して竜二は叫んだ。


 確かに炎帝竜は竜の中では最強の竜だ。だが、そんな竜でも二対一だと勝てる確率は大幅に低くなる。竜は竜でもそんなに甘く倒せるとは限らない。


 だからこそなのだ。ここで一か八かで竜の魔法を覚え、自分が竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤーとして戦う。


 だが、ジークフリートが言った通り、竜の魔法を簡単に覚えられるとは思ってもいない。だが、逆に言い返せば、今、力なき自分が一番悔しい。自分の魔力を使い果たしながら戦い続けたミラと自分は違う。


「はぁ……。本当に奴が言っていた通り、頑固な奴だな。力もないくせに、強者に対して戦いを挑もうとする原動力は一体どこから出てくるんだろうな……」


 呆れたジークフリートは、大きな溜息をつき、鼻息をする。


 ここまで言われたらさすがの竜でも手懐けるのは難しいと判断した。

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