第三章  リバースと炎の魔女

3-1

「サーシャ・ノグワール。魔法省から選ばれた十傑の一人。序列七位、炎の魔女よ。でも、なぜ、彼女がこんな時期に紫苑に手紙を送ったのかよね」


 構内を竜二の隣で歩いていたミラが、不思議そうに考えていた。


 隣で歩いている竜二は、右手には荷物を持っていた。


「それで一体、サーシャ・ノグワールという人物は魔導士なんだ?」


「あなたのお兄さんの力と同等なくらいの力よ」


「兄ちゃん、なんでそんな事を俺に言ってくれなかったんだよ。これから先、危ないことが起きそうで怖くなってきた……」


「大丈夫よ。ただ会いに行くだけでしょ。私もついて行ってあげるから心配しないで」


 ミラと話しながら、竜二は目的の柱の前に立っていた。


 ————今二人がいるのは、ロンドンのホームにある向こう側への扉の前である。


 竜二はこの向こう側の世界にいかなければならない。柱を通るには魔力の持った者以外は不可能である。


 だが、ミラが言うに竜二には魔力が体内にあるらしい。


 目の前に書かれてある文字に息を呑む。


「じゃあ、魔導師の世界に乗り込むわよ。準備はいいかしら?」


「ああ、いつでもどうぞ……」


 周りには人が大勢いて、二人の事すら気にする人などいない。ここで一人や二人、目の前から居なくなっても困らないだろう。


「この先には普通の人間はいないんだな……」


 仮にそうだったとしても、せめて出た場所が最悪な場所でない事を願いたい。


 多分これは火神竜二であっても分からないことだらけなのであろう。すると、ミラが竜二の左手を握ってくる。


「普通の人は向こうの世界でもいるわよ。魔力を持っていない人は多く存在するわ。ただ、向こうは魔法が追加されているだけなのよ」


「ならいいんだが、その……手……」


 強く握られて柔らかく暖かい手を竜二はみながらミラに言った。


「私の手を離さないでね。大丈夫、無事に成功するわ」


「……そ、それならいいんだけど。手を繋がれたのは初めてだったし……。な、なんというか言葉にしにくい……」


 竜二は手汗が酷くなる。


 理由は明らかであるが、彼女はそんな事を気にしていない。


「それじゃあ行くわよ!」


 ミラに手を引っぱられ、竜二はゆっくりと走り出す。普通だったら柱にぶつかるのだが、彼女を信じて、目をつぶった



     ×     ×     ×



 目の前に見える風景は、今までに見たことのない景色であった。


 ほとんどが自然ばかりであり、森や草原が遠くの方まで広がっていた。見慣れない動物が多くこの世界に存在していた。ここが向こう側の世界である。

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