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 リビングに置いてあるタンスの中からパスポートを取り出して見せる。確かに確認すると、有効期限が切れている。


「それでいつ旅立つんだ?」


「それが三日後なんだ……。今の今まで気づかなかったからどうすればいいんだ? 魔法を使って移動するしか他が無い……」


 本当に急転直下な危機に迫った紫苑が頭を悩ませる。


「おいおい、魔法による不法入国は魔法省に捕まってしまうぞ」


「魔法省ね……。あそこには色々と世話になったな。裁判、牢獄ろうごく、政治的世論や様々な取り調べ。思い出すだけで懐かしいな」


「大体、そのほとんどはお前のせいで俺もあいつも巻き込まれていたことを忘れてないよな?」


「ああ、そうだな……」


 火神紫苑かがみしおんは魔法界の中でも有名であり、今は自分の部屋から秘密の部屋で魔法の研究をしている。表向きは小説家と言っているが、本当に大賞を取り、魔法やファンタジー小説を主に活動している。


 何をやってもうまくやりこなす兄である。


 だが、期限が迫っている事には変わりない。


 だが、この誘いの意味を断るわけにはいかないのだ。


 紫苑は溜息をつきながら、しばしの間考えだした。今、魔法省に捕まるわけにはいかない。


「そうか。この手があったか! 竜二、今年の夏から毎日のように部活は無くなったんだよな。海外旅行に行く気はないか?」


 そう言い切った紫苑は、ソファーで横になりながらテレビを見ている竜二に声をかけた。


「おい、紫苑。竜二君は魔法を使うことができないんじゃ……」


「待てよ、兄ちゃん。俺だって試験勉強とかあるんだぞ。この大事な時期に海外旅行なんてもし受からなかったらどうするんだよ!」


 竜二には、高校入試がすぐそこに迫っている。


 イギリスは、魔法の国として様々な分野で有名である。簡単に言えば、かの有名な魔法使いの小説シリーズは本当にこの世に存在している。それを知る者は限られており、世に知れ渡れば、それは大反響を及ぼすだろう。


「大丈夫だ。お前の頭なら志望校にも合格する。それなら俺が依頼のお礼として、家庭教師をしてやるぞ」


 どうやら紫苑は、弟の意見など気にしていないらしく、微笑を浮かべて言った。


「それ本当だろうな? 兄ちゃんが勉強見てくれるなら有難いけど、旅費代やホテル代、お土産代もくれるんだろ?」


「……ったく、しょうがねぇーな。金も用意してやるよ。抜け目無いな、お前……」


「兄ちゃんにはしっかりと言っておかないと、後々面倒だからな」


 と、弟に対して、紫苑は苦笑した。


「言っておくが、魔法の国はここより甘い事なんてないからな。気を引き締めて行けよ。何があっても俺は保障などできないからな」


 紫苑は再び、目の前にある牛肉を一切れ食べると、ビールを飲んだ。



     ×     ×     ×



 イギリスの中心部、シャーロック・ホームズが住んでいた街。


 そして、ロンドン・キングスクロス駅。ここはあの有名な魔法使いが魔法の世界へと飛び立つ最初の出発地点である。そして、世界の中心である。


 どの国とも接しない海に囲まれた島国。


 観光に訪れる外国人は、年を重ねるごとに増加していき、国には王族・ロイヤルファミリーが住んでいる。


「やはり、ロンドンは日本より涼しいな……」


 眩しい太陽を見上げながら竜二は言った。


「さて、この後どうするか……」


 魔導師ではない少年が魔法の地に立つ。


 そんな一人旅を初体験している自分は、頭がおかしいと思った。



     ×     ×     ×



 イギリスは中央に行くほどにぎやかであり、端の方へ進むとのどかで空気のいい気候に属している。


 ビックベンは、街の象徴を現しているかのように存在が大きい。


 イギリスといえば、テニスの聖地・ウィンブルドンがあり、シャーロック・ホームズが住んでいると言われているベイカストリートがある。


 ミラ・アルペジオは、ある魔導士ギルドの魔導士である。魔法界では知らない者はいない。魔法界最強の十本の指に入るほどの実力を持っており、その美貌と気高さ、冷静な判断とその才能に包まれた能力は誰もが羨む。


「それで、私が今ここに呼ばれている理由も大体分かりますが————」


 ミラは微笑む。


 それは誰もが恋をしてしまう可憐な花のような微笑であった。簡単に言えば、天然といった方がいい。


「それよりもマスター? この前の魔法省での取り調べはどうなったんですか? あの調査、未だに続いているんでしょ? 体の事も考えて行動してくださいね」


「ふん。あいつら、ワシがどれだけ嫌いなのか分かっておるくせに……」


 苛々して答えたのは、ミラが所属するギルドのマスターだ。


 アーサー・オリオン。その姿はただの老人である。


 歳は七十二歳でありながら未だに原液の魔導士である。顔に刻まれた傷跡は、戦いで負った傷である。いわゆる男の勲章だ。


 そして、鍛え上げられた肉体は鋼鉄のようで————最強の戦士である。


 他にもイギリスで有名な魔導士といえば、他のギルドに所属している雷帝の竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤー————サウディックス・ズブレフ


 竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤーはこの世で数人しか存在しないと言われている。ギルドマスターであるアーサーですらどうなるか分からないほどの実力である。


 そして、今現在、彼以外の竜殺しの魔導士ドラゴンスレイヤーの行方は知られていない。


「それにしても今度の魔法週刊誌の雑誌の内容知っていますか? うちのギルドの特集が組まれていることに……。結構、すごいこと書かれていましたよ」


「好きにしてやれ。うちのギルドが面白く書かれていることはいい事じゃないか。ワシはそっちの方が好きじゃのう」


 苦笑するアーサーとミラが現在いるのはギルド本部である。


 ギルド内には他の魔導士たちが昼間から騒いでうるさいほどににぎやかな場所である。


 二人はその場所でもアーサーの部屋で話をしていた。二人ともここ数週間忙しくて、ギルドに戻っていなかった。


 帰ってきたら帰ってきたで、仲間たちがある意味でうるさい。


「マスター、それよりももう一つの重要な件に関しまして話は知っていると思いますがどう思われますか?」


「ああ、あの件の話か……」

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