朝の霧


 冬の朝は寒さで目が覚める。時計を見るとまだ5時半だった。アラームが鳴るまであと1時間もある。


 二度寝をする気にもなれなかったのでベッドを出て1階に降りる。冷えた空気が喉を裂く。

 テレビをつければ朝のニュースが始まったところだった。またどこかの芸能人が不倫したらしい。不倫は文化だと言ったのは誰だったかな。


 インスタントコーヒーをお湯に溶かす。熱すぎて飲めないので少し置いておく。


 うっかり暖房をつけるのを忘れていた。リモコンを探すも見つからない。はて、昨日切ってからどこに置いたのだろうか。


 ソファーとクッションの間に埋もれていた。そういえば昨日この辺りに投げ捨てたような気がしなくもない。


 暖房をつけるとカーテンを開ける。外はまだ真っ暗だった。


 .....何となく外に出たくなってみた。単なる好奇心。それ以上でも以下でもない。こんな時間に活動することなんて滅多にないので目一杯楽しんでみたくなった。ただそれだけだ。


 思い立つと行動は早い。着替えるのも面倒なので寝間着の上にジャンパーを羽織るだけにする。流石にサンダルは寒そうなので靴はちゃんと履いておこう。


「寒っ」


 外は思っていたより寒暗かった。吐いた息が火気ほけとなって散っていく。


 いつも陽が出る前はこれぐらい寒いのだろうか。それとも今日が特別冷え込む日なのだろうか。いずれにせよ冷気に晒された耳が痛い。10分ほどだけ散歩して帰ろう。


 あ、これ霧か。やけに視界が霞むなと思っていたら霧が出ていた。なかなか風情があって面白い。というかどれだけ寒いんだ今日は。


 空にはまだ月が残っていた。沈みゆく三日月がちょうど地面に向かって弓を引いているように見える。.....なんか詩的な表現だな。今度書く小説にでも使ってみよう。


 道に沿って歩くと少し広めの道路に出た。車は途切れ目がない程度にはやってくる。朝早くからご苦労様です。お仕事頑張って下さい。


 見慣れた道だけど暗いと非日常感が出てくるな。こういう雰囲気を主題としたゲームでもあれば絶対やるのに。意外と需要がないのだろうか。


 白霧しらぎりの遠く向こう、地平線の奥がオレンジ色に見える。あそこから陽が昇ってるのだろう。夜が明ける。一日が始まる。


 特別なことをしたい時に何も非日常の中に飛び込む必要は無い。それは日常の中にひっそりと紛れ込んでいるだ。

 ふとした瞬間に空の青さを知り、また次の瞬間には雲の白さを知る。そんなことで人間は感動できる。いい事じゃないか。


 寒くなってきたしそろそろ帰ろう。暖房も効いている頃だろう。コーヒーはちょっと冷めているかもしれないけど。


 そうして不透明な空に背を向けて歩き始めた。








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嘘の現実 才野 泣人 @saino_nakito

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