第106話 作戦会議3

 日曜日、俺は未耶ちゃんと操二と立花さんの四人でスイーツを食べに来ていた。パステルカラーで彩られた内装はいかにもティーンの女子向けといった感じで、客層は見事に学生ばかりだ。


「やっぱりこれ大きいですねー! パンケーキ超重なってますよ!」

「言ったっしょ? 昔来た時マジでえぐいの来たって! あん時は四股の言い訳で苦しかったなー」

「やっぱり高槻先輩チャラーい。三股とかサイテーです」

「四人も甘いもの食べたら軟化するかと思ったんだけどなぁ。すげー騒いじゃったし周りのお客さんにもめっちゃ迷惑掛けた記憶あるから悟クンはやめときなよ?」

「そもそも浮気なんてしないから……」

「あはは……」


 俺と未耶ちゃんは若干引き気味に操二から目を逸らす。俺にはそんな甲斐性も度胸も無い。


 何で休みの日にこんなところに来てるか。それはひとえに操二と立花さんが集めた情報をまとめてくれたからだ。


 俺は最初適当なファミレスか生徒会室でやろうと思ってたんだけど、立花さんがどうせなら甘いものを食べに行きたいって言って、それならと操二がここを紹介してくれた。


 未耶ちゃんはどっちでも良かったっぽいから二人の提案を飲んだけど……何と言うか、チラチラと刺さる視線が痛い。


 バレないように一瞥するだけでも彼女達の思考が伝わってくる。


(ダブルデートかな、良いなぁ)

(あそこの人達凄い絵になるなぁ。特に金髪の人めっちゃカッコイイ……!)

(あれって多分高槻操二君だよね……? めちゃくちゃ女癖が悪いっていう……)

(操二……! また性懲りも無く……!)


 操二は一体最後の人に何をしたんだ。今はともかく昔の操二は業が深すぎる。


「と、とにかく! 早く本題に入ろうよ!」

「「はーい」」

「えっと、じゃあ立花さんから聞かせてくれる? 男子の意見ってことで良いのかな」

「一応女子の意見も聞いてみはしたんですけど、正直意見に性別差はあんまりなさそうでした。みんな一様に思っていたのはズバリ! 『もっとみんなとの仲を深める機会が欲しい』です!」


 立花さんは声高々に宣言する。


 仲を深める機会、か。


「えっと、具体的に言うと校外学習とかが増えたら良いなーって感じでした! 宮田先輩がしっくり来る意見かはわかんないんですけど、やっぱり班決めでヤキモキとかみんな好きなんですよね。あそこの男子グループと一緒に回りたいなーみたいな」

「確かに俺はあんまりわからないけど、仲良くなりたい人と組みたいなっていうのはあるのかもしれないね」

「ですです! 後は気になる男子とか!」


 なるほど。やっぱり学生はもっと青春を過ごしてみたいって感じかな。


「オレも似たような感じだったなー。そういう特別な機会ってのは思い出にもなるし」


 俺も経験した実体験というと、夏休みの花火大会とかがそれに当たる気がするね。愛哩との距離はあれがキッカケで友達以上のものへと近付いた自覚がある。


 うん、予想通りだ。


「体育祭をしよう」


 俺はポツリと呟く。うちには存在しない・・・・・・・・・それを。


「体育祭は文化祭と並んで学校の一大行事なのに、うちはそれがない。自分で言うのはアレだけど、多分かなりの進学校なのが理由だからか勉強に重点を置きがちなんだと思う」

「良いですね体育祭! あずも応援団とかやってみたいです!」

「あー、確かにそういうのがあると嬉しいかも。オレみたいな運動部は特に喜ぶよ」

「わたしも賛成です! 運動はあんまり得意じゃないですけど、思い出になりそうですし!」


 抽象的なマニフェストとしては『学園生活において特別な思い出をもっと作る』、具体的な手段としては『体育祭を開催する』。


 就任後の手間は度外視するとして、マニフェストのキャッチーさはこれ以上ないはず。


 惜しむらくは俺を初めとした友達があんまり居ない生徒には票を入れたくなるようなマニフェストじゃないことだけど、勝てば官軍。そういう生徒のための取り組みはなってから考えよう。


 ただしその懸念を抱いたのは、俺だけではなかった。


「悟クン。これは聞いてなかったんだけど、悟クンが生徒会長に立候補した理由は何? マニフェストは良いと思ったけど、なんつーか順序が逆に感じたんだよね」

「順序?」

「そ。こういうことをしたいから生徒会長に立候補した。だけど悟クンはその逆で、生徒会長になるためにこういうことを掲げよう。別に内申のためとかでも全然良いと思うんだけど、普段の悟クンのイメージとはちょっとズレててさ」


 その言葉に興味を示したのは未耶ちゃんと立花さんもだった。


 今回俺が会長選挙に立候補した理由はまだ誰にも言ってない。説明するとなるとどうしても愛哩のパーソナルな事情を話す必要が出てくるし、おいそれと語るものでもない。


「……言えない、ってのは許してもらえる?」

「もち! 事情があるなら今は踏み込まないよ」

「ありがとう」


 俺は甘えてばかりだな。意識はないけど構造的には一方的に利用してるだけなのに、みんなは人が良いから協力してくれる。


 自己嫌悪が過ぎりながら、だけど俺はさらに甘えてしまう。


「マニフェストの根幹はこれでいこうと思う。細かいところまでわかるようなビラはこの後俺が家で作って印刷する。そこで相談なんだけど、手が空いてたら早速明日の朝からビラ配りを手伝ってもらえないかな」

「やります」


 真っ先に答えたのは未耶ちゃん。思えば未耶ちゃんには一番甘えさせてもらってる気がする。


「あずもぜひ!」

「オレは朝練がない日ならって感じかな。副キャプがサボるのは面子が立たないし」

「わかった。じゃあ来れる人は明日の朝七時半に校門集合で頼むよ」


 すっかり冷めたコーヒーを見つめ、そして俺は再度顔を上げた。


「本当にありがとう、みんな」


 改まった俺のお礼に、三人は照れくさそうにはにかんだ。

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