第94話 点と点
時刻は昼の一時。ようやく一時間の休憩に入れた俺は、わいわいと賑わう廊下を歩いていた。
「ふう……疲れるなぁ……」
午前中は外部の人への道案内から文化祭実行委員じゃ分からないことにトランシーバーで答えたり、時には手に負えない場合だとその場に呼び出されたりと大忙しだった。
立花さんと出会った時の十二時以降の見回りが多分一番楽だったなぁ……。それまでは割と走りっぱなしだったし。二日で四キロ痩せるっていうのも納得出来る。
今は約束を守るために立花さんクラスがやっているメイド喫茶に向かっていた。丁度良いからお昼ご飯もそこで済まそうかな。
そんなことを考えながら歩いていると、ふと見知った顔の二人が目に入った。
「あれ、悟クンじゃん! もしかして生徒会の仕事中?」
「お、宮田」
金髪の背が高いチャラめのイケメンとスポーツマン然としたこれまたイケメン。
操二と島本。二人ともサッカー部だし一緒に回ってるのかな。
「今は休憩中だよ。腕章もしてないしね」
俺は腕章を付けていない右腕をアピールする。休憩中は外すように音心に言われたんだよな。まあポケットには入ってるけど。
「二人はどこかに行く予定なの?」
「オレらはメイド喫茶に行く途中だな! 場所わかんねーから適当に歩いてるだけだけど!」
「俺は良いっつってんのに、高槻が無理やりな」
「あ、じゃあ丁度良いね。俺もそこに行く予定だったし、道案内なら出来るよ」
「お? 悟クンもしかしてメイド好きなの? 恋人が居るのに罪な男だなぁ」
操二はへらへらと笑いながら茶化してくる。そんな姿も様になるあたり操二みたいなイケメンこそ罪だ。
……ふと思う。島本は告白した愛哩に俺と付き合ってるからと断られた。少しシビアなところなんじゃないか。
ただ、次の操二と島本の思考を見て瞬時に考えを改めた。
(あんま島本も気にされる方が嫌だろうし、これくらいの方が良いでしょ?)
(どうせコイツのことだからわざと話題に出したんだろうな。相変わらずわかりにくい気の使い方をしやがって)
……心が読めなくてもここまで通じ合えるもんなんだな。俺と愛哩の関係とは全くの真逆だ。
何だか少しだけ、二人の関係が羨ましくなった。
「文化祭は愛哩とは回れないと思うよ。生徒会の休憩時間は全員バラバラだしさ」
「はは、てことは彼女が居ないうちにメイド喫茶に行こうって感じ? やるねぇ悟クン!」
「さっき後輩から来てくれって頼まれたってだけだよ。場所なら知ってるし一緒に行く?」
「お、じゃあ頼むわ宮田。野郎三人でメイド喫茶っていかにもって感じだけどな」
島本も特に距離を感じさせない距離感で接してくれる。その方がお互い楽だし、俺もありがたい。
三人で適当な雑談をしながら立花さんの教室に向かう。メイド喫茶というだけあってかなり盛況であり、お昼時にクチコミが回ったのかさっき見た時よりも列が長くなっていた。
「うお、すげえなメイド喫茶」
「まーナンパとかもしやすいだろうしなー」
「操二のそれは説得力が違うね」
「あっわかる? 昔はよくいろんな文化祭を回ってナンパしまくってたよ。ちなみに成功率は七割いってたぜ!」
「変わんねえなぁお前も……」
「まあ最後の彼女と付き合ってからはもう遊んでねえけどな?」
最後の彼女。つまりソラちゃんのこと。
実際俺の知る限りじゃ噂になってた女癖が悪い操二は見てないからね。それに操二なら本当にしてないだろうなって信じられる。
並ぶこと十分ほど。列の長さの割に意外と早く進んだ俺達は受付のメイド服を着た生徒に三名だと伝え、丁度三人がけになっていた席に案内された。
「あっ宮田先輩! 来てくれたんですね!」
メイド服の立花さんは嬉しそうにこっちへ駆け寄ってくる。ふわりとスカートが緩やかに舞い上がった。
「約束してたからね」
「ありがとうございます! お友達も連れてきてくださったんですね!」
「オレこう見えて悟クンの親友だし、悟クンの友達といったらって感じよ!」
「お前ら正反対に見えて何でか仲良いよな。マジで不思議だわ」
まあ昔の俺だって操二と仲良くなるとは思わなかっただろうし、その気持ちは本当にわかる。
島本が相談を持ってこなければ。
生徒会に入らなければ。
そもそも心を読めなければ。
「本当、不思議な話だよね」
何となくしみじみとする。
「せーんぱいっ! ご注文はどうしますかー?」
「何がおすすめとかある?」
「メイドさんの甘々わたあめ&かき氷セットですね! あっ、規定の最低原価は守ってますよ!」
「じゃあそれにしようかな。操二と島本は?」
「ならオレと島本もそれで!」
「勝手に決めんなよ。まあ良いけどさ」
「りょーかいです! それではもう少しだけお待ちくださいね、ご主人様っ!」
立花さんはくりっとした大きな瞳で惜しみなくウインクをする。
愛想の良い立花さんには天職だな、なんて考えながら俺達は雑談を交わしつつ料理を待ったのだった。
◇◇◇
立花さんのクラスのメイド喫茶を後にした俺達はその場で別れ、一人生徒会室へ向かっていた。
そろそろ休憩も終わるし、みんなの仕事量を考えたら少し早いくらいにでも戻らなきゃ申し訳ない。世の社会人の人もこんな気持ちなのかな。
「ねえ、君」
渋い声の人に話しかけられ振り返る。保護者の人が子どもの教室を探してるとか、そんな感じかな。
そこに居たのは高級感のあるスーツを身にまとった整っている顔の壮年の男性と、同じく高そうなブランド物で全身を整えた、男性と年齢が近いであろう綺麗な女性だった。
「生徒会室ってどこにあるか知ってるかな」
「何か御用でしたら僕が対応させていただきますよ。一応僕も生徒会の役員ですし」
ポケットにしまっておいた腕章を見せ、本物であることをアピールする。男性はそれを見て目を丸くし、ははと小さく笑った。
「ああいや、そうじゃなくてね。実は娘が生徒会の役員で、その仕事ぶりをちょっと見ていこうかと思ったんだよ」
そう告げられた瞬間、頭の中で点と点が繋がる。
整った容姿に役員の保護者、そして二人の持つ独特な雰囲気。
……多分だけど、予想が当たっていたらこの人達は──
「──長岡愛哩の父です。男の子の生徒会役員というと、もしかして君が宮田悟君かな?」
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