第93話 始まりの文化祭
「たこ焼きいかがですかー!」
秋晴れの空に生徒の声が響き渡る。出店を回る生徒達は祭りの雰囲気を楽しんでいた。
今日は文化祭当日。生徒会である俺は見回りとして校内を歩いていた。
「ねえ君、たこ焼きどうかな!」
「すいません、見回り中ですので」
生徒会の腕章を見せてアピールする。意外とこれでみんな引き下がってくれるんだよね。警察の前だと緊張するみたいな感じかな。
「では」
「っす! 空き時間とかあったらぜひ来てください!」
急に敬語になったな……。別に気にしなくても良いのに。
校門の出店から教室の出店を見て回る。廊下はまるでハロウィンパーティーみたいに仮装した生徒が生徒達が各々回っていた。
「お化け屋敷やってるよー!」
「折り紙教室とかどうですかー?」
各クラスは事前に申請した店や出し物などへの呼び込みに精を出している。見たところ違反はなさそうだな。
そのまま見て回っていると、ひょこっと俺の前にメイド服の女の子が躍り出た。
前屈みになって両手を後ろに回しながら上目遣いをする。俺と目が合うなり嬉しそうな笑顔で小さく首を傾げた。
……いつ見ても自分の可愛さをわかってるなぁ、立花さん。
「せんぱぁい、もしかして暇ですー?」
「今は違反してるクラスが無いか見回りをしてるよ」
「あ、じゃああずのクラスのメイド喫茶がダメなことをしてるか、中に入って確認してくれませんか? そしてぜひ単価の高い物を!」
「あはは……商魂逞しいね」
廊下から見える装飾の施された教室の内装はいかにも学生の手作りって感じだ。
だけどそれは悪い意味じゃなくて、むしろ生徒が一丸となって今のこれを作り上げたというか、ありきたりな言葉を使えば青春を感じた。
「でも今は生徒会の仕事中だから休めなくてさ」
「だったら一緒にサボっちゃいましょうよ! 丁度お昼時の十二時ですしー、何よりあずと一緒に!」
「あはは、音心に怒られるからまた今度ね」
「むう……先輩の休憩になると思ったのに……先輩は真面目だなぁ……」
立花さんはわかりやすく落ち込んでみせる。その気持ちはありがたいんだけどね。
ていうかその感じ、へこんだ犬が耳を垂らしてるみたいだな。これは素でやってるのかな……?
「休憩に入ったら来るから、それまで待ってくれる?」
「あ、それなら全然! いつまでも待ってますよー!」
かと思うと立花さんは花が咲いたように笑顔を浮かべる。さっきはわからなかったけどこれは素だろうな。良い子だっていうのが滲み出てるや。
「あ、そうそう宮田先輩! もしかして長岡先輩と来るんです? だったら噂になっちゃいますね!」
「正直一緒に回りたくはあるんだけど、多分出来ないんだよね。生徒会は一人ずつ休憩に入るスケジュールになってるし、多分一人で来ることになるんじゃないかな」
「うわー、やっぱり大変なんですねぇ。いつもお疲れ様です」
文化祭実行委員が居るとはいえ、管轄を仕切る人間が居なかったら回るものも回らない。もう少し先生も協力してくれても良いとは思うんだけど……今更言っても仕方が無いか。
俺がこのまま生徒会を続けるとしたら、来年も愛哩とは一緒に回れなさそうだな。まあでももしそうなりそうだったら来年はもう少し役割分担をすれば良いか。
今の流れだと多分愛哩が生徒会長になるだろうし、サポートしつつそういう流れに持っていこう。多分愛哩も納得してくれる。
「じゃあまた来るよ。立花さんも頑張ってね」
「はーい! ご来店お待ちしております!」
立花さんは敬礼しながらウインクする。自分がどうすれば可愛く見えるかを知ってるような、動作に慣れを感じた。
じゃあ俺も残りを見回るか。
休憩までは残り三十分。小さく息をつき、俺は立花さんの教室を後にした。
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