第83話 結果と報告

 学校に登校したのは二時間目が終わった頃だった。時間をずらして教室に入ろうかとも提案したけど、愛哩がそれは嫌だと断固拒否して教室に入る。当然周りは盛り上がっていた。


 そして質問攻めをする女子を掻き分け、愛哩は正式に島本を断った。河川敷での宣言通り俺と付き合ってるからと伝えたが、幸いそこで諍いなんかは起こさずに島本はすんなり受け入れた。


 そして昼休み。昼ご飯を食べ終わった俺は、愛さんと舞さんに渡り廊下へと呼び出されていた。


「おめでと、宮田くん」


 初めに祝福してくれたのは舞さん。優しげな笑みをたたえていた。


「期待通りだったよ。私があげた言い訳は役立ててくれた?」

「そうだね。感謝してるよ」

「そっかそっか。じゃあ次は愛ちゃんだね」

「はえっ!?」


 いきなり話の矛先が向くとは考えてなかったのか、愛さんはわかりやすく驚いていた。


「あ、そ、そうだ! おめでとね、宮田くん!」

「ありがとう。告白ってめちゃくちゃ緊張するんだね。正直する前は何か色々吐きそうだったよ」

「私が告白する前にそんなに脅さないで!?」

「それだけのことをしてくれたってことだよ、愛ちゃん」


 まあそんな恩着せがましいことは思ってなかったんだけど……、否定しても意味無いか。それでやる気を出すのならこのままでも良い。


「……よし、決めた! 私今日告白する!」

「……ねえ舞さん、傷心につけ込むのは確かに悪くない手だとは思うんだけど、昨日の今日どころか今日のうちに告白するのってどうなの?」

「意図が見え見えであざといかな。するとしてももう少しあとの方が良いと思うね」

「も、もー! 二人してー!」


 怒られてもなぁ……。実際このタイミングはあんまり良いとは思わないんだよね。下手したら喧嘩売ってるととられるかもしれないし。


「あ、それなら文化祭は? 愛ちゃんと島本君は同じクラスだから色々絡みあるでしょ」

「それだっ! 流石舞ちゃん!」


 文化祭は三週間後の今月末。確かにそれなら時間は丁度良いかも。


 ただし、時間は、だ。


「島本って多分モテるよね? サッカー部の未来のエースだし、見た目もカッコイイし」

「そうだねー。宮田くんの懸念は正解だと思うよー」

「え、え? 何?」

「宮田くんが言いたいのは、島本君がそれまでに告白されて彼女を作っちゃうかもってこと」

「それじゃさっきので良いじゃん!? 私どうしたら良いの!?」

「チキンレースって怖いねー」


 舞さんは他人事のように呟く。チキンレースは言い得て妙だ。告白されても傷心につけ込んだと思われない、だけど傷を癒せると思わせるタイミングの図りあい。


 ……恋愛って難しいなぁ。俺はそんなことを思いながら、愛さんと舞さんの会話をしばらく眺めていた。




◇◇◇




 放課後、俺は生徒会活動が始まるまでの間に屋上に来ていた。


 呼び出した操二を待つこと数分。屋上のドアが開かれた。


「よう悟クン! っと、その前にあれを言わなきゃな!」


 操二はにかっと笑ってサムズアップを作る。


「おめでとう悟クン! 告白成功して良かったな!」

「ありがとう。操二が居なかったら今頃絶対後悔してた」

「持ちつ持たれつ、助け合えるのが親友ってもんだぜー!」


 その言葉を真っ直ぐ言えるのが操二らしい。正面から言ってくれるからそうかもしれないと信じられる。


「やー、二時間目にメール貰った時はビビったわ。いや結果はわかってたんだけどね? 何つーか、メールくれたことに驚いたってかさ。報告してくれたのは多分悟クンが思ってる以上にオレ喜んでんのよ!」

「初めに報告するのは操二って決めてたからね」


 そしてその後には知業にも結果を報告した。知業からは一言『良かったな!』とだけ返ってきて、そこでやっと肩の重荷を下ろせた気がした。


「そそ、これからどんどん相談乗るから何でも言ってよ? 初デートのオススメから修羅場を沈静化させる方法まで何でもござれ!」

「この上なく心強いけど修羅場はないようにするよ」

「あっはっは! そりゃそっか! あんなん経験して得なことなんて一つもねーしな!」


 操二は笑いながら俺の肩を軽く叩いてくる。笑ってる時のこれは操二の癖だな。何回かされた覚えがあるし。


「ま、ともあれマジでおめでとうな!」

「こっちこそ本当にありがとう。助かったよ」

「うい! んじゃ俺は部活行くし、悟クンも生徒会頑張ってなー!」


 そう言って操二は屋上を出ていく。階段を降りていく音は軽やかだ。


 何度感じたかはわからないけど、操二が友達になってくれて本当に良かった。俺は心の中で再度お礼をしながら、生徒会室に向かったのだった。

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