第52話 花火大会2

 全員揃ったので俺達は出店を見て回ることにした。焼きそばやかき氷といった食べ物から射的や金魚すくいといったものまで様々で、色とりどりな店構えが何ともお祭り感を漂わせている。


「とりあえず何か食べ物を買いましょ。食べたいものある?」


 音心は歩きながら俺含め三人に問いかける。

 食べたいものか……。それ以上に夏祭りに来るのが久々だからパッと思いつかないんだよなぁ。

 俺の前には音心と未耶ちゃんが歩いている。音心は何も考えていないようだったが、未耶ちゃんの食べたいものは伝わってきた。


(りんご飴あるかなぁ。でも子どもっぽいって思われるかもだし、言うの恥ずかしい……)


 りんご飴ってめっちゃ甘いやつだっけ。ただでさえ甘いりんごを飴で固めて……って言うと何か否定してるみたいだな。俺も好きだったはずなんだけどね。


「会長! 私りんご飴食べたいんですけどどうでしょうか!」

「お、愛哩も良いところ突くわね! 未耶もそれで良い?」

「は、はい! わたしも食べたいです!」

「よし、じゃあまずはりんご飴ね!」


 長岡さんの言葉で次の行き先が決まる。

 もしかしなくても、今のは長岡さんの心遣いなんだろうなぁ。相手の欲しい言葉を選ぶというのはこういうところでも生かせるのか。勉強だね。

 そんなふうに眺めていると、振り向いた長岡さんとパチッと目が合う。


(宮田くん、もしかしてりんご飴のくだりバレちゃってた?)

(多分そうだろうなって気は)

(何だか恥ずかしいなぁ)

(良いことだよ。俺も見習わなきゃ)

「愛哩ー! 悟ー! 何してんの、早く行くわよー!」


 いつの間にか人混みの奥へ行っていた音心に大声で呼ばれる。隣には未耶ちゃんもいた。


「わかりましたー! 宮田くん、行こっか」


 長岡さんは手を挙げて返事をし、俺にもう片方の手の平を差し出した。


 ……これって、繋げってことか? いやでも音心も未耶ちゃんもいるし……。


 数秒迷った末、俺は手を取らずに歩き出す。長岡さんもすぐに手を引っ込めて前へ進むが。


「繋いでくれても良かったのに?」

「音心と未耶ちゃんがいなかったらな」

「んふふ、宮田くんにしては余裕な返しだね」


 そう笑う長岡さんの顔は、いつものように余裕が浮かんでいた。




 無事音心と未耶ちゃんの二人と合流してりんご飴を購入。次はこれもまた音心の提案により射的や型抜きと言った娯楽で遊ぶことに。


「それにしても悟先輩、射的凄い上手でしたね。得意なんですか?」

「どうだろう。夏祭りに来たこと自体久々だからちゃんと覚えてないけど、まさかあんなに上手くいくとは思わなかったよ」

「これ、大事にしますね」


 そう言って未耶ちゃんは胸に抱えたクッションをぎゅっと抱きしめる。それは俺がさっき射的で撃ち落とした景品の一つで、店主も取られるとは思っていなかったと驚いていた。


「じゃあ私はこのお菓子を抱いて寝ようかな」

「長岡さんのは食べてくれなきゃ勿体ないって」

「はーい。でもありがとね」


 お菓子も俺が獲得した景品。あとお面も落としたので、丁度三つだから三人にあげたということだ。

 別に持って帰るのが面倒だったわけではない。いや本当に。クッションかさばるなーとか丁度未耶ちゃん欲しそうだなーとか少ししか考えてない。


「ぐぬぬ……」

「音心は何を怒ってるんだよ」

「何かアタシが悟に負けてるみたいじゃない! アタシはかすりもしなかったというのに!」

「別に競ってた意識はなかったけどな」

「勝者の余裕ってわけね。良いわ、次は金魚すくいで勝負よ!」


 ビシッと俺を指差す音心。勝負は別に良いけど、こういう感じは何か詐欺とかに引っかかりそうで怖いな……。熱くなりやすいのは音心の良いところでもあり危ないところでもあるし。


 俺達四人は店の人にお金を払い、ポイを受け取った。薄く張られた紙は金魚なんて一匹もすくわせないと暗に主張しているようだ。


「あっ、やった!」


 すぐ隣で未耶ちゃんが声を上げる。未耶ちゃんもう一匹ゲットしたのか。手先が器用なのかな……っと!


「おっ、俺も取れた!」

「おめでとうございます、悟先輩!」


 これすくえると案外楽しいな。次はまだ浸食がない上の部分で……よし!


「おお、結構いけるな!」


 その後俺はすくえる快感と紙を水に濡れさせない奥深さに夢中になりながら、最終的にすくえたのは六匹。久々にしては中々の記録だと思う。


「宮田くん金魚すくいも上手いんだね。私なんて三匹だけだったよ」

「わたしは二匹しか……。結構難しかったです」

「童心に帰った気がするよ。音心は?」

「……ゼロよ」


 納得いかないといった様子の音心は何故か財布を開いて残金を確認していた。金が足りなくなりそうなら俺が出すけど、素直に受け取らなさそうだなぁ。


「もう一回やるわ」

「え? いやまあ俺は良いけど」

「七匹すくえるまでやるわ」

「それはやめといた方が良いんじゃないか」

「無理だとしても一匹はすくいたいの! ゼロなんて生徒会長としての威厳が形無しじゃない!」


 別にそんなことはないだろ。金魚すくい一つで揺らぐ生徒会長ってどうなんだ。


「……長くなりそうだから俺トイレ行ってきていい? 花火だから混んでるだろうし、今のうちに行っておきたくて」

「私も行ってきて良いですか?」


 俺の後に長岡さんも続く。女子トイレなんて男子トイレの数倍は並んでそうだな。


「わかったわ。これはアタシの中での戦いだし、行っていいわよ」

「あ、それならわたしも……」

「未耶はダメ。アタシ一人で金魚すくいなんてバカみたいじゃない」

「え、でも会長の中での戦いだって」

「何も一緒にやってって言ってるんじゃないの。ただ見てるだけで、そばに居てくれるだけで良いの。大人が一人で金魚すくいをやるより二人で懐かしいなーって楽しんでる方がそれっぽいでしょ?」


 何だその謎理論。詭弁ですらない説得に未耶ちゃんが応じるわけ……。


(お、大人……! わたしも大人……!)


 そこに反応しちゃうのか。未耶ちゃんの大人になりたがるのも相当のものなんだなぁ。


「わ、わたしは残りますので悟先輩と愛哩先輩は行ってもらって大丈夫ですよ!」

「じゃあまた後でね。行こっか、宮田くん」


 そう言ってまた手を差し出される。長岡さんの表情はお得意の百点の笑顔で。


「……だから音心と未耶ちゃんがいるって」

「あ、何かその言い方彼氏彼女っぽいね!」

「知らないよ……」


 俺はやはり、長岡さんの手は取らずに歩き出すのだった。

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