第20話 友達への謝り方
翌日の昼休み。俺はいつものように教室で昼ご飯を食べていた。
周囲に人は居ない。いつも通り独り飯で、クラスの相手と話さないようにしてるのは今も健在だ。
「よう宮田。今良いか?」
「島本……」
コンビニのビニール袋を持って前の空席に座る島本。十中八九高槻……、いや操二のことだろう。
「高槻のこと、何か進展あったか?」
(まあどうせ一日だからないだろうけど)
「……ないよ」
「そうか」
中からパンを取り出し食べ始める。別に目くじら立てるようなことじゃないけど、当たり前って思われてるのは少し癪だな。
「ただ彼女が居るのは本当っぽい」
「え、マジ? アイツに限って?」
「合コン断わってたし」
素っ気なく事実を淡々と口にする。視線も合わせない。
(機嫌悪いのかな。めっちゃ嫌そうじゃん)
そう思ってくれてるならありがたい。
「合コン断ったってどういうことだ? てか何で宮田がそれ知ってんの?」
「昨日帰り道でたまたま出会ってさ。話聞こえてきたんだよ」
「……ちなみに、それは一人でか?」
「え? いや長岡さんも居たけど……、あ」
ミスった、その長岡さんと帰ってるか聞きたかったのか。今の島本の思考なんてもう。
(……長岡も意味わかんねえ。何で俺が帰ろうって言った時は断るくせに宮田の時は良いんだよ。こいつのどこが良いんだ)
なんて思いつつ、島本はそれを殆ど顔に出していない。けど別に顔に出せってことじゃなくて……、いや、何だろう。人間はこういうものって理解はしているんだけど。
「良いな、長岡と一緒に帰れて」
「……そういうのじゃないけどさ」
「生徒会が同じだからだろ? 言わなくてもわかってるって」
(じゃなければマジで意味わかんねえし)
「……昨日の今日だからこれくらいしか話せることないけど、他は何か気になることある?」
「いや、良いや。んじゃな」
島本は席を立ち、いつも居る男子グループへと合流して行った。
……当事者として悪意を受けたのは割と久々だな。未耶ちゃんと音心が良い人達であるがゆえに、こういうことがあると余計に際立つ。
ふと長岡さんの方へ目を向ける。いつものように女子グループでお弁当を囲んでいた。
と、視線に気付いたのか長岡さんと目が合った。彼女は一瞬にやっと笑って。
(熱い視線ありがと)
(別にそんなつもりじゃなかったけど……)
(そう言えばさっき島本君と何話してたの?)
(適当に昨日のこととか……あとイラつかせたりとか)
(イラつかせる?)
(長岡さんと一緒に帰ったって言っちゃったから)
(ああなるほど)
「ねえ長岡さん? さっきからどこ見てるの? ……あ、へぇー。やっぱりそうなの?」
一緒に昼ご飯を食べていたうちの一人が口角をつり上げる。見たところ悪意はなさそうで、単にからかいネタとして喜んでいる様子だ。
「やっぱり宮田くんのこと気になってるの?」
「え!? いや、そんなことはないよ? 別に好きとかそんなんじゃ……」
「うっそだー。今も見つめ合ってたし、もしかしたら既に?」
「「「きゃー!!!」」」
一際大きな声に教室に居る人の半数くらいが長岡さんグループへ顔を向ける。
まずいな、早くご飯食べて教室出ないと面倒なことになるかも……。
「ご、ごめんねみんな? 特に何も無いからご飯食べてて!」
長岡さんがクラスメイトへ向かってそう告げる。中には訝しむ人も居たが、やがてすぐに元のクラスへと戻った。
(もう……、ホントみんな勝手にくっつけようとして……)
「それでそれで? 宮田くんとはどこまで言ったの?」
「えっ!? いや、だから何もしてないってば!」
……何となく居心地が悪くなった俺は、駆け足気味に昼ご飯をかきこんで教室を出る。特に行く当てはないけど、教室に居るよりかは心が安らぐはずだ。
何気なく廊下を歩いていると、目の前に見知った顔の子が居た。俺が声をかける前に彼女はこちらへ駆け寄ってくる。
「宮田先輩! 何か久しぶりです?」
「立花さん。久しぶり」
立花さんはいつも通りの可愛らしい風体で、それでいていつも通り一人で歩いていた。
「いつもの三人は?」
「あー、あず一人好きなんですよ。って言わなくても知ってるかな。だからこうやってお昼はぶらぶらと」
(本当は南さん怒らせちゃったから気まずくなって出てきただけだけど)
「……立花さんは本当に……」
「? 何です?」
キョトンとした顔で首を傾げる。
彼女自身に悪気はないんだろうけどね。傷付けようと思って攻撃したんじゃなくて、ズレた価値観を無意識のうちに刺していたんだろう。
それでもあの温厚そうな南さんを怒らせたっていうのは何があったか気になるけどさ。
「……今なら時間もあるし相談聞けるけど、特に何も無い? 今歩いてた理由は本当に一人が好きだから?」
「やだなぁ宮田先輩、勿論ですよー!」
そう答える彼女の顔には何一つ嘘が書かれておらず、ただ心の中にしか答えがない。
女の子磨きの賜物なのかな。ポーカーフェイスが堂に入っている。
「良いの?」
「……鋭いですねー、宮田先輩。どんだけあずのこと好きなんですか」
「いや、別に好きとかはないけどさ」
(即答じゃんウケる。やっぱり宮田先輩って他の男子とどこか違う気するんだよねー)
心が見えるか否か。隠していてもやっぱり違うものなんだろうね。言ったところで信じてもらえるかわからないし、信じてもらえたところで離れていくのがオチな気がするけどさ。
「お昼食べてる時に、南さんに無神経なこと言っちゃいまして」
「ごめん、話の腰折るけど一緒に食べてるんだね」
「え? ああ、それはまあ。たまーにあずがそんな気分の時あって、今日もそれで一緒に」
それもしかしたら向こうは迷惑に思ってるんじゃ……、と思ったが寸前で飲み込む。憶測でそういうことは言ってはいけない。
「まあ、それで? ほら、南さんがあずの変な噂流した理由って南さんの好きな人かあずのことを好きだったからじゃないですか?」
「そうだったね」
髪の毛をくるくるしながら目線を斜め下へ向ける。唇も少し尖っているように見えた。
「で、あずが最近好きな相手との進展はあったの? って訊いたんですよね。それでないって言うから、とりあえずはまず話しかけなきゃダメでしょって」
「ああ、それで」
「です。あずみたいに可愛くて綺麗な人は良いけど、私にはそれすら難しいのーって」
言い分はまあわからなくはないけど……ってか自分のことよく恥ずかしげもなく可愛くて綺麗なんて言えるな立花さん。実際可愛くて綺麗だけどさ。
「立花さんが仲を取り持ってあげたら?」
「え?」
「立花さんなら話しかけることくらいはわけないんでしょ? それにたまに昼ご飯食べるんなら南さんと一緒に居ることも自然だし、丁度良い気がするけど」
「……あー、なるほどです。あずどうやって謝ろうってことしか考えてなかったです」
「勿論謝るのも必要だよ。ただ見返りがあった方が謝罪を受ける側も嬉しいじゃん」
ま、だから立花さんも謝り方を考えてたんだと思うけどさ。何かあげた方が良いのかなとか、そんなところかな。
「ありがとうございます、宮田先輩! クラス戻ったらそうしてみますね!」
「うん。こんなので良かったらいつでも頼ってくれて……」
「ん? くれて?」
そこで思わず口を噤む。
俺のその言葉は人との繋がりを容認するものじゃないか? 立花さんも根は良い人だけど、際限無しに繋がりを持てばどこであんなことが起きるかわかったものじゃない。
なんせ中学の頃のあいつらも根は良いやつだったのだから。
「……まあ、メールとか電話なら何時でも出れるから」
「……? はい、わかりました。毎朝ラブコールしてあげますね!」
「ラブコールじゃなくてモーニングコールだろそれ。いやモーニングコールも要らないけどさ」
「あははっ、そうですか! では失礼しますねー!」
そう言って立花さんは来た道を引き返して行った。
……本当に、すぐに人を信用するのは俺の
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