第16話 カラオケ対決
俺と未耶ちゃんが隣で、正面には机を挟んで長岡さんと音心。音心と言っていたカラオケ対決は「折角だからみんなでしましょう!」との一声により全員ですることとなった。強引さも昔から変わってないな……。
「じゃあ誰から歌う? 歌いたい人がいないならアタシからでも良いけど」
音心はマイクを手に取りポンポンと音が出るか確かめる。くぐもった音が部屋に響いた。
「俺は別にいつでも」
「私も大丈夫です」
「わたしもです」
「ん。じゃあアタシから歌うわね。歌う曲は……これ!!」
カラオケリモコンの画面をタッチし、ピピピと音が鳴る。入った曲は──
「──え、アニソン?」
それも女児向けの。俺は見てなかったが、多分俺達世代直撃の古いやつだよな……?
「良いでしょ別に! ホワイトもブラックも可愛いじゃない! ……っと、始まる始まる」
イントロが流れ始め、音心も歌い出す。プリティだのキュアキュアだの、高三のやつが歌う曲じゃないだろ……。
ただ、にしても。
「会長……かなり上手い……」
思わず長岡さんが言葉を漏らすほど、音心の歌は上手だった。長い髪をふりふりと揺らしながら(というかもう踊りながら)も音程は殆ど音程を外さない。
何というか、歌い慣れてる感じがするな……。
「〜♪ よしっ! 良い感じじゃない? ねえ未耶!」
「はい! 上手でした!」
「でしょ! 割と点数高いと思うのよねー!」
未耶ちゃんに褒められたのも相まってか、上機嫌な音心は笑顔のままモニターへ視線を移す。
「おお、九二点……。音心凄いな……」
「当然よ!」
「選曲は子どもだけど」
「にゃーもー! それは別に良いでしょ!?」
指摘点ど真ん中を突くと、案の定音心はプリプリと怒り出した。そこだけがまともなら素直に褒められるんだけどな。まあそういうところも音心らしいと言えば音心らしいが。再会してからはまだ少ししか経ってないけど。
「じゃあ次は誰にしよっか? 愛哩行く?」
「あ……はい」
(私かぁ。正直自信ないなぁ)
珍しく長岡さんが弱音を吐いてる。
……あ、いや心の中だな。吐いてないや。でも長岡さんにも苦手なことってあるんだなぁ。勉強もスポーツも出来るから何でも出来るイメージがあった。
(苦手なことくらい、私にだってあるよ?)
(それがカラオケ? ていうかそろそろ心を読み合う会話も慣れてきたね)
(そうだねー。あとカラオケは人並みって感じかな。聞いてくれたらわかるけどさ)
長岡さんはそう言って(正確にはそう
「〜♪」
苦手って言ってた割に、長岡さんもかなり上手じゃん。元々澄んだ綺麗な声だから聞き入ってしまう。
「凄いね、未耶ちゃん」
「そうですね。流石愛哩先輩です」
「……ちょっと距離遠くない?」
軽く未耶ちゃんに話しかけてみるが、カラオケ前での『会長は負けませんから』宣言からやはり少し違う。それだけ心酔してるってことか……?
「距離は座った時とそのままですよ? ……はっ、もしかしてわたしにもっと近寄って来いみたいな……?」
「違うから! 単に話す感じが前とは若干違うなーって感じただけだから!」
「だって……」
(会長とすぐ仲良くなっちゃうんですもん……)
違うとわかってるけど、思わずドキッとするね。俺のことが好き、なんかは文字通り百パーセントないと言いきれるんだけどさ。それ程未耶ちゃんは音心のことを慕っているんだな。
「……私って、基本的に人見知りなんですよ」
「……そう言えば立花さんの時もそうだったっけ」
俺の時は人見知りってほどじゃなかったけど、まあこれは今は関係ないか。
「今は大丈夫ですけど、昔は会長にも人見知りしてて……。勿論今はそんなことありませんし、心の底から尊敬していますけど」
言い切る未耶ちゃん。その心にも嘘は何一つなく、口にした通り心の底から思っているのだろう。
やっぱり何かあったんだろうな。無遠慮に聞けるほど俺の肝は座ってないから今は聞かないけど。
「っと。終わりかな? もう、みゃーちゃんも宮田くんも私が歌ってる途中に喋りすぎだよ! 仲良いのは良いことだけどさ!」
「ごめん。でも上手だったよ」
「はい。綺麗な歌声でした」
「んふふ、ありがとね。点数は……あっ! 九二点! これって多分会長と一緒ですよね?」
いつもよりテンション高めで隣の音心をゆさゆさと揺する。音心は揺さぶられながらうんうんと頷いていた。何か今までに見たことのない長岡さんだなぁ。
「じゃあ次はみゃーちゃんね!」
「みゃーじゃなくて未耶です! 全くもう……」
ぶつぶつと文句を言いながら曲を入れる未耶ちゃん。別にみゃーちゃんってあだ名も可愛いと思うんだけどなぁ。
……あっ、未耶ちゃん選曲可愛いな。これちょっと前のラブソングだっけ。
「〜♪」
未耶ちゃんは歌いながら身体でリズムを刻むようにしており、その度に大きな胸が揺れる。
……ダメだ、そういう目で見ちゃ。それにこんな事考えてたら長岡さんにどう思われるかわからない。
「……何か負けた気になるわね」
音心は自分の胸を手で押さえながら未耶ちゃんを見て、そしてぐぬぬと悔しそうな顔をする。あれは音心が小さいんじゃなくて未耶ちゃんが特別なだけの気がするけどなぁ。
「宮田くん」
「っ!? は、はい?」
「……みゃーちゃんのこと見過ぎじゃない?」
「い、いや、別に他意はなくてというか、歌ってる人を見るのは当然的な……」
(宮田くんもやっぱり男の子なんだよね。しょうがないとは思うけど……何か視線がエッチ)
うぐっ、それを言われると何も言い返せない……。
俺は目のやり場に困りながら正面からの視線に耐えていると、曲が終わった未耶ちゃんは隣に戻ってきた。
「あ、八六点……。やっぱり会長と愛哩先輩には勝てないなぁ」
「でも未耶ちゃんも充分高いよ。歌も可愛かった」
「あ、ありがとう、ございます……」
(恥ずかしい……)
「じゃあ次は宮田くんだね。頑張れー!」
……ついに俺の番か。正直友達居た頃でさえそんなにカラオケに行ってなかったからなぁ。結構緊張する。
「じゃあ、俺はこれを歌おうかな」
カラオケリモコンを操作し、選んだ曲を入れる。三人の視線が集まる中、俺は──
*
「あっははは!!! やー、今思い出しても悟の歌は笑えたわね!」
「うっうるさいな! 別に中学の頃はカラオケ行かなかっただけだから!」
「……あの下手さだから呼ばれなかったんじゃ」
「未耶ちゃんも!? 点数はアレだったけどそんなに言うほど悪かったかな!?」
あの後俺は一人負けとなり、俺の歓迎会にも関わらず半分程カラオケ代を出す羽目になった。先輩なんだから音心がちょっとは負担、とも思ったがまあ女子だしな。結果的には良しとしよう。
「いや宮田くん……、結果的にって言ってもあれは酷かったよ……?」
「読むのはもう良いんだけど、それより俺の歌そんなに酷かった? 点数も七〇ジャストだったけどさ、どれも四捨五入したら一〇〇点じゃん」
「どこの位で四捨五入してるの宮田くんは……」
それは冗談としても、あれだけ爆笑されるほど下手くそだったかなぁ……。今度練習行こう。
「さて! この後はどうする? ご飯とか行きたい?」
「あ、あのすみません……。わたしそろそろ帰らなきゃなんです……」
「あら、そう? じゃあ未耶だけ分かれるってのもあれだし、お開きにしましょうか!」
「わかりました。宮田くんもそれで良い?」
「うん。今日はありがとうね」
俺がお礼を口にすると、三人は各々笑顔を浮かべてはにかんだ。
基本的に人間は裏があっていつ裏切るかわからない。だけど、少なくとも今だけは生徒会のみんなは大丈夫だ。そう思える。
──本当にそうか?
自問。湧き上がった懐疑は俺の中を渦巻く。昔の中三の頃だって、同じようなことを思っていたんじゃないのか?
じゃあねと言って長岡さん、未耶ちゃん、音心は三手に分かれる。俺も帰らなければと頭では理解している。ただ足が動かないだけ。
「──宮田くん!」
「っ!!!」
急に肩を叩かれる。振り返るとそこには帰ったはずの長岡さんがおり、柔らかい笑みを浮かべていた。
「大丈夫だよ」
「……いや、その」
「大丈夫」
(大丈夫だから、みゃーちゃんと会長を疑わないであげて)
そっと手の平を重ねられる。気付けば俺の手は小刻みに震えていた。
「……長岡さん、自分のことは良いの?」
「私のことはもう信用してくれてるでしょ? なんて言ったって、私と君だけは同類でしょ?」
手の平をパッと離す。それだけなのに熱が引いた気がしたのは、恐らく気のせいじゃない。
俺は一度息を吐き、長岡さんにありがとうを伝えた。さっきの今日はありがとうではなく。これは言わずもがなだろうか。
返ってきたどういたしましては、声ではなく心からだった。
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