第15話 歓迎会

「ほら二人ともー! 遅れてるわよー!」


 風薫る五月の空に音心の大声が響き渡る。今日は俺の歓迎会の日で、生徒会活動を早めに切り上げて音心の後をついて行っているのだ。音心の隣には未耶ちゃんが居て、その後ろで俺と長岡さんが追いかける形になる。


「すみません会長、今行きますー!」


 隣を歩く長岡さんは表向きの仮面を付けている。生徒会の人達の前でもこうなんだな。徹底しているというか、彼女はブレない。


「別に生徒会の人達が信用出来ないわけじゃないよ?」

「……もうそろそろ慣れてきたよ、その勝手に心読むやつ」

「そ? まあでも、本当にそうじゃなくてね。いつ誰と出会うかわからないし、普段から気を張ってる方がむしろ楽なんだよ」

(宮田くんは特別だけど)

「特別扱いありがとう」

「!? ……あっ、テレパシーでしょ! 言うつもりなかったのに……」


 それまでの笑顔から一転、唇を尖らせながらそっぽを向く。


(本当に宮田くんは……。こういうのも読むのは反則じゃないかな)


 そしてそれも振りではなく、本心からの羞恥の仕草。こういうのを見るとちょっと変な気持ちになるな……。


「……まあ、俺達がこれから向かうところにクラスメイトが居る可能性だってあるしね」

「ちょっと、それフラグになるから」

「嫌なの?」

「……最近ね? ほら、舞ちゃんいるじゃん」


 舞ちゃんって言うと……、あれか。サッカー部(島本だっけ)のことが好きな子(この子は確か愛ちゃん)といつも一緒に居る子。


「舞ちゃんがさー、何かと私を島本くんとくっつけようとするの。私は何一つ興味ないのに」

「おお……」


 むちゃくちゃバッサリ行くなぁ……。何か島本が可哀想に思えてきた。


「可哀想って言われても、別に振るのは自由じゃん?」

「そこまでわかってるなら脈のない感じに扱ってやってくれよ……。毎朝アピールのために俺のとこへ挨拶来てるんだからさ」

「んー……、まあそこはごめんなさいってことで」

(それに自分で告白も出来ないようじゃどの道私は靡かないからね〜)

「告白ねえ」


 俺と長岡さんだと、された時は確実に心を読むんだろうな。伝わってくるのは緊張が大部分だろうが、理由を問えば嫌でも本心を知ることになる。


 見た目、ステータス、もしくはからかい目的。好き以外に告白をする理由はパッと思いつくだけでも割とある。


「あ、やっぱり。宮田くんもそうだよね」

「何が?」

「いやほら、今考えてた告白した理由はってやつ。私も告白された時はそういうの確認するからさ」

「まあ俺は高校生になってからは縁のない言葉だけどね」


 実際長岡さんに秘密を明かされるまでは独りだったのだ。告白どころか友達だっていなかった。


「んふふ、じゃあ私が初めての友達だね?」

「まあそうだけどさ。……あ、いや友達がおこがましかったら別に良いんだけど」

「もう、何言ってるの? ちゃんとした意味での友達は宮田くんだけだと思ってるよ」

(って言うと心覗きそうだけど、本当に思ってるからね? 同族なんだよ、私達は)


 ……全部読まれてるか。心の中だけじゃなくて先の行動まで。


「おーい愛哩ー! 悟ー! 着いたわよー!」

「あっ、もう着いたんだ……って」


 目の前にあるのはカラオケボックス。チェーン店のため見覚えがある店名だ。


「カラオケ……」

「なっ、何よ悟! 別にいいじゃない!」

「そんな悪いとは言ってないけど……」


 チラ、と長岡さんを盗み見る。ほらやっぱり、長岡さんも微妙な顔してるじゃん。いや楽しいけどな? ただ昔遊んでた音心はともかく、長岡さんと未耶ちゃんなんかは正直まだ完全には慣れてないから結構緊張する。


「会長」

「何よ愛哩。まさか愛哩までケチ付ける気?」

「いえ、宮田くんは恥ずかしがってるんですよ。だから気が進まないだけで」

「……はっはーん? 悟、もしかしてアンタ下手くそなのね? 大丈夫よ、アタシはそんなことじゃ笑わないわ」

「ちょっと待て」


 心底嬉しそうな表情でニヤつく音心。笑わないって言ってる瞬間から笑ってるじゃねえか。


「別に下手くそじゃないからな」

「あら、そんなこと言って大丈夫? 点数負けても知らないわよ?」

「じゃあ勝負するか? 昔みたいに」

「そう言うのを待ってたわ!」


 そう言って音心はずんずんと店内へ進み、手早く受け付けを済ませる。予め予約しておいたのだろう。


 クイ、と服の袖が引っ張られる。振り向くとそこには未耶ちゃんがむっとした顔で俺を睨んでいた。


 ……え? 俺何かした?


「随分と会長と仲が良いんですね」

「え……まあ、小学生の頃はよく遊んだし……。 中学は別になったけど」

「……負けませんから」

「何が?」

「会長は負けませんから!」


 謎の宣言を残して未耶ちゃんも店内に入っていった。会長は負けない……? さっきのじゃれ合いでのことか?


「みーやたくんっ」

「うわぁ、何?」


 後ろから両肩に勢いよく両手を乗せられる。長岡さんはたまにこういうあざといことしてくるからなぁ……。立花さんもだけど、可愛い人がこういうことするのは反則だと思う。手の平もなんか温かいし。


「……んふふ、宮田くんって意外とエッチだよね。それと可愛いって褒めてくれてありがと」

「こういうのは読めても言わないのがお約束だろ!? 恥ずかしいからやめてくれない!?」

「あ、それと未耶ちゃんは会長のことを本当に尊敬してるんだよ。前にも言ったかな?」


 尊敬……、尊敬ねえ。確かに音心は人を率いる才能があると思うしついて行きたくなるのもわかるけど、しかしそれがどうも未耶ちゃんと結び付かない。

 もしかしたら何かあったのかな。音心ならそういう人を魅了することがあっても納得だし。


「じゃあ私達も行こっか。受付終わったみたいだし」

「うん」


 俺と長岡さんもようやく店内に入り、音心が進む方へ後からついて行く。

 到着した部屋は丁度四人用なのか、思ったよりも狭かった。テーブルを挟んで二人ずつ座る形だ。


「席順どうする? 悟、アンタの歓迎会だからアンタが決めていいわよ」

「えっ」


 じっと集まる三つの視線。俺に決めろって言われても、別に希望とかはないからな……。

 というかこれ、下手に名指しすると誤解生まないか? 長岡さんはテレパシーがあるから変なようには思われなさそうだけど。


「ふふふっ」

(宮田くんめっちゃ悩んでる。誰選ぶのかな?)


 長岡さん笑ってるし! 音心にしても、こっちの気も知らないで……!


「じゃあ……」

「宮田くんは誰をご指名するんだろうね、みゃーちゃん」

「みゃーじゃなくて未耶です!」

「……えっと」

「何をそんなに緊張してるのよ。早く決めなさい」


 長岡さんが変なこと言うから切り出せなくなったんだよ! 俺は別に何でもいいのに、これじゃまるで俺が誰かの隣に座りたいみたいじゃないか!


「……じゃあ、未耶ちゃんの隣?」

「んー。じゃあアタシと愛哩がこっちね。ほら、早く入れるわよー!」

「んふふ、残念っ」


 くすぐったくなるような声音で長岡さんは俺をからかう。そういうものじゃないって長岡さんはわかってるくせに……。


「……あの」

「あっ、えっと、何? 未耶ちゃん」


 さっきと同じように服の裾を引っ張られ、呼びかけられる。な、なんだろう。隣は嫌とか……?


「わたし、まだそういうの詳しくなくて……」

(もし悟先輩がわたしのこと好きだったら……でもわたし恋愛とかよくわからないし……)

「ちっ違うからね!? ただ音心とか長岡さんに比べたら気が楽かなって!」

「わっ、わたしと隣だったら気が安らぐ……!」

「あれ!? 未耶ちゃんもしかして耳年増!?」


 内気そうに見えて意外と自意識過剰だな未耶ちゃん! 別にそういう意図は本当に無いからね!?


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