第14話 その後の立花さん

 その日の夜、俺は自室のベッドで新しく追加した連絡先と睨めっこしていた。


「……生徒会にも入ったし、やっぱり送るべきだよなぁ」


 でも立花さんにメッセージって何を送れば良いんだ? 追加したよ、とかそんな在り来りな? それとも電話番号とかも添えておいた方が良いのかな。


「あれ、おにぃどうしたの? スマホじっと見て」

「琴歌」


 いつの間にか部屋に入ってきた琴歌は俺の姿を見て首を傾げる。琴歌こそ何の用で来たのだろう。


(おにぃ今暇だよね……。話したいだけって言ったら怒るかな?)


 ……こういうところはずるいと思ってしまうほど可愛いな。身贔屓無しにそう思う。


「琴歌、俺今暇だから話に付き合ってくれない?」

「う、うん! おにぃはしょうがないなぁもう」


 口ではそう言いつつも、琴歌は満面の笑みで今俺が寝ているベッドへ腰掛ける。そのまますっと俺が持っているスマホを覗き見た。


「……ねぇ、おにぃ」

「どうした?」

「そのスマホの名前の、た、立花梓紗って誰? ま、まさか、かの、彼女なんてことは!」

「ないから安心していいよ」

「あ、安心って何さ! 別におにぃに彼女が居たって……居たって……」


 尻すぼみに声が小さくなり、やがて寂しそうに俯く。

 そんな悲しそうにされると、俺はまだ当分彼女を作れそうにないな。まあそんな予定も当てもないんだけどさ。


「じゃなくて! その人誰なの!?」

「ほら、琴歌も前に出会った子だよ。本屋でさ」

「あっ、あの可愛い人!」

(あの人、やっぱりおにぃを誑かす気なんだ!

おにぃは琴歌のおにぃなのに……!)

「一応言っておくけど、別にそれほど仲が良いってわけじゃないからね?」

「知らないもん!」


 自分から話しにきたくせに……。でもワガママでさえ可愛いと思ってしまう俺はやっぱりシスコンなのかな。まだ世に言うレベルのやつには達してないと思うんだけど。ただ琴歌は確実にブラコン。これは自他ともに認めそう。


「もういい! じゃあねおにぃ!! バイバイ!!」

「ぶふっ」

「なっ何が面白いの!」

「いや……律儀にバイバイって」

「い、良いじゃん別にー! もう行くから!」

「あ、琴歌」

「何!」


 プリプリして俺をキッと睨みつける。その可愛さでまた笑いそうになる表情筋を必死に抑え。


「琴歌も可愛いよ」

「……もう! ありがと!」

(おにぃはもう! ホントにもう! おにぃもカッコイイもん!)


 バン! と勢いよく閉められるドア。その後ドタドタと遠ざかる足音がし、琴歌がベッドに飛び込む音が聞こえた。


 ……やっぱり琴歌可愛過ぎない? 愛らしいってレベルじゃないぞ?


 とりあえず、立花さんには適当に送っておこう。俺だとわかるよう名前に、それから電話番号も書いて送信と。


 ……ブー、ブー。


「もしもし?」

『問題です! あずは誰でしょうか!』

「あずって言っちゃってるよ」


 ていうかメッセ送った五秒後くらいに電話来たけど、何か用でもあったのかな。


『えへへ、間違えちゃいました! あずって〜、こういうところ天然なんですよね〜』

「いつも裏ではそんな自分を可愛いって思ってるのに……あ」


 これ言葉にしたことあったっけ? つい言っちゃったけどもしかしたらまずい?


『そんなことありませんよ? 本当に天然ですから』

「ふふっ、本物の天然だったら絶対そんなこと言わないでしょ」

『何ですか! もしかしてあずが人工天然だって疑ってるんですか!』

「人工天然って字面凄いな」


 話してる感じ、立花さんに辛そうな感じはない。クラスであれだけ目立つことをしたのに、本当に強い子なんだな。そういうところは素直に尊敬する。


 あとそれにしても、やっぱり電話は不便だ。聞こえてくる言葉しか伝わってこない。


「そう言えば今立花さんはクラスで誰と居るの?」

『前の三人と一緒ですよー。女の子はそういうの隠して付き合うの上手ですからねー』

「南さんは?」

『いつも通りみたいな? 基本一人だけど、今までと違うのはたまに誰かと話したりーとか。あずからは話しませんけど』


 まあ、変に話しかけて萎縮させるのも可哀想だ。元々棲み分けされてたわけだし、話なんて合うものも合わない。


「また何かあったら言ってね。俺も生徒会に入ったし、生徒会室に来たら相談とか乗れると思う」

『へぇー、やっぱり入ったんですね』

「やっぱり?」


 俺が雑用係みたいなことをしていたからだろうか? 思わずオウム返しする。


『長岡先輩とか、あとみゃーちゃん? あの人達と話してる時楽しそうでしたもん。仲良いんだろうなーって』

「……そっか」


 殊更言葉は重ねず、俺は静かに受け止める。立花さんから見てもそう思ったんなら、それは多分そうなんだろう。


『あ、それと相談するとしたらまたこうやって電話とか、もしかしたら呼び出したりするかもなのでよろしくです!』

「え? まあ良いけど……」

『……、では! 失礼しまーす』


 プッ、と直後に聞こえてくる電子音。

 最後の一瞬、不自然に立花さんの言葉が止まった。顔を突き合わせていたら何を考えているのか簡単にわかったのだろうが、電話だとやはりそうはいかない。


 やっぱり不便だ。別に電話は嫌いなわけじゃないけどさ。


 ……さて、明日は音心が生徒会で歓迎会を開いてくれるらしい。

 正直怖くないと言えば嘘になる。未耶ちゃんもだけど、久々に再会した音心なんてどう思われるかわからないから。どうしても尻込みしてしまう。


 まあただし、同じ分だけ期待もしているのも俺は否定出来なかった。

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