第13話 生徒会長

「みゃーちゃんも喜ぶよ。宮田くんに懐いてたみたいだし」

「懐くってまた子どもみたいな……。未耶ちゃんに怒られるぞ?」

「だって小さくて可愛いなんて小動物みたいじゃない? あと可愛い」

「二回言ってる」


 屋上から生徒会室までの道すがら、俺は長岡さんと未耶ちゃんについて話していた。まあ別に人となりを知るためだとかそんなものではなく、単に世間話としてだが。


「後はね、みゃーちゃんは会長のことを心の底から尊敬してるんだよ」

「へぇ、会長……」


 そう言えばここ何日か生徒会に入り浸ってたのに生徒会長は見たこと無かったな。何だっけ、確か補習? 普通は勉強出来る人が会長になるイメージがあったけど。


「んふふ、確かに頭良くない人が会長するのは珍しいかもね?」

「また勝手に読んで……」

「あの人はカリスマがあるんだよ。ゼロイチ的な」

「ゼロイチとイチジュウ、だっけ」


 読んで字のごとく無から創造するのが得意なリーダーがゼロイチで、効率化で人を導くのがイチジュウ。何となくゼロイチは持って生まれたもので、イチジュウは頭の良さが軸になってるイメージがある。


「着いたらまず入部届けは書かなきゃかな」

「あ、そこは部活みたいな感じなんだ」

「選挙で選ばれるのは会長だけだよ。私は副会長やってるけど、それは会長の指名だから」


 あ、長岡さんって副会長だったのか……! 全然知らなかったな……。


「一応ちゃんと仕事もしてますー。失礼だなぁ」

「あ、ごめん」

(まあいつも独りだったからしょうがない気はするけど)

「……内心で抉ってくるのやめてくれない? 経緯に関しては好きでこんなことやってるわけじゃないから」

「あははっ、勝手に心読む方が悪いんでしょー? っと」


 話しているうちにいつの間にか生徒会室へ到着する。鍵は掛かっておらず、長岡さんはそのままドアを開けた。


「あっ来たわね愛哩! 遅かったじゃない!」


 長机の上座に腕を組みながら座っている見覚えのない女生徒。長いストレートの髪の毛をそのまま下ろしているので、口調とつり目も相まって気の強そうな印象を受ける。


「相談に来た子がお礼を言いに来てくれて、それで遅くなりました。会長」


 あっ、なるほどあの人が会長か。確かに人を引っ張って行ってくれそうな雰囲気がある。


「ん? 後ろに誰かいるの?」

「ああ、今日から生徒会に入ることになった宮田悟くんです。みゃーちゃんはもう知ってるよね?」

「は、はい! 悟先輩が入ることになって私も嬉しいです。よろしくお願いしますね。……あっ! みゃーじゃなくて未耶です! もう!」


 いつものやり取りにほっこりする。とりあえず挨拶だけはしておこうか。


「二年二組の宮田悟です。よろしくお願いします 」

「宮田悟……」


 ふむ、と手を顎に添え探偵のようなポーズで思索する会長。俺の顔をじっと見つめてはまた思考の海に落ちていく。


「……あっ!!! どこかで見たと思ったら悟じゃない!」

「へっ?」

「アンタ悟よね! 宮田悟!」

「そりゃさっきそう名乗りましたが……」


 急に下の名前で呼んでくるけど、どこか接点があったか?

 ガタッと立ち上がってずかずかと詰め寄る会長に、俺は少し気圧される。


(近くで見るとやっぱりそうだわ! ていうかアタシのこと覚えてないのかな悟は)

「……えっと、どこかで会いましたっけ?」

「会ったわよ! 小学校の頃よくバトルしたじゃない! 三年生対四年生!」


 そう言えば俺が小三の頃そんな遊びを良くしてたっけ。三年生側は俺をリーダーに、四年生側は女子の一人をリーダーに据えてケイドロやサッカーなんかを……。


「あっ! もしかして音心ネコか! 懐かしっ!」

「そうよ音心よ! やっと思い出したわね、この鈍感!」

(いっつもアタシに恥かかせたこと、まだ覚えてるんだから)

「……えっと、会長と悟先輩はお知り合いなんですか?」


 頭に疑問符を浮かべる未耶ちゃんがおずおずと質問する。隣の長岡さんも驚いていた。


「そうね。かつてのライバルってやつよ」

「……小学校の頃よく遊んだんだよ。三年生対四年生みたいなことしてさ」

「遊ぶって何よ! アタシを散々こけにしておいてその言い草ってことは、喧嘩売ってるのね?」

「音心がリーダーたる者責任はアタシがとる、なんか言ってたからだろ。……あっ、でしょう」

「良いわよ敬語なんて。悟が敬語とか気持ち悪いだけ」


 じゃあ遠慮なくタメ口で行かせてもらおう。正直俺もやり辛いとは思っていたからな。


(それにしても悟……、大きくなったなぁ。身長もこんなに伸びて。顔とかもちょっとカッコよくなってるし)


 と、そんな矢先音心が変なことを思う。何を考えてるんだよこいつ……。俺がカッコイイ、とか。


「……ちょっと宮田くん。何にやついてるの」

「あっ!? いやそんなんじゃなくて! てか今のテレパムグッ!」

「いいよもう。とりあえず座ろう?」


 長岡さんは俺の背中をグイグイと押しながら俺を未耶ちゃんの隣に座らせる。音心も元居た上座に戻り、長岡さんは俺の正面へ座った。

 俺の顔が見える位置に座ったってことは、多分心の中を筒抜けにするためだろうな。相変わらず抜け目のない人だ。


(その代わり宮田くんも私の心見えるでしょ?)

(そんなギブアンドテイク聞いたことないから)

(お互い差し出すのは心? 何だかファンタジーの世界みたいだね)

「何? 何で愛哩と悟は見つめあってるの?」

「いえ、何でもありません」


 切り替えが早いな。そういうところも長岡さんらしい。


「それで? 悟が生徒会に入るのよね?」

「ん、まあ。よろしくお願いします?」

「何で疑問形なのよ。それじゃあ……ほら。これにクラスと出席番号、あと名前を書いてアタシに渡して。顧問に渡しておくから」

「意外とすんなり入れてくれるんだな」


 相場ではもっと「アタシは認めない!」だとか「正当な理由がなければ認められないわ」なんて言われるものなんだがな。全部漫画の話だけど。渡された紙に記名すべく筆箱を探しながら口にする。


「何よ意外って。でも未耶も懐いてるし、それに不埒なやつは愛哩が認めないでしょ? 愛哩の判断なら疑わないわ」


 キッパリと言ってのける。音心の内心も口に出したものと全く同じで一切嘘偽りがない。

 ただ考えてみると、昔から音心はそうだったな。無条件の信頼はその受け手を嬉しくさせる。


「じゃあ明日の帰りにでも歓迎会しよっか。愛哩と未耶は予定空いてる? 悟は空いてるとして」

「空いっ……、てるけど」

「ほぉら見なさい」


 得意気な表情で俺をからかう。その顔も変わらないな、本当に。


「私は空いてます」

「わっ、わたしも大丈夫です!」

「よし、なら決まりね。お店とかはアタシが決めとくから、後はほらお仕事お仕事! 未耶、美化委員のポスター作りの進捗は聞いてきた?」


 パンと手を鳴らし一気に場の空気を変える音心。そのキビキビした動きはさっきまでとは大違いだ。


「ほら、悟も何ボサっとしてんのよ。色々教えてあげるからこっち来なさい」

「凄いな、音心」

「当然よ! アタシは生徒会長なんだから!」

「……まあ、その生徒会長様はちょっと前まで補習だった訳だけど」

「にゃーもー!!! うるさい早くこっち来なさいよ!!」

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