1章 立花梓紗の悩み
第3話 生徒会への依頼
ミディアムに切り揃えた髪型で、毛先へ行くにつれてウェーブがかかっている。パーマでも当てているのだろうか、いかにもイマドキというヘアースタイルだ。
ブレザーはボタンを開けており、下に着ている白いセーターが顔を覗かせている。身体の線は長岡さんに近く、スレンダーだが胸の主張も確かにあった。
顔も一見メイクしていないように見えるが、パッチリとした目元や通った鼻筋。勿論元々の素材が良いことは明白だが、ナチュラルなメイクによってまるで芸能人のような可愛さを体現していた。
つまるところ、彼女は“現役JK”という呼び方がめちゃくちゃ似合う。
「えっと、
長岡さんはにこりと優しそうな頬笑みを浮かべてそう問いかけた。笑顔作るの本当に上手だなぁ。
「はい!」
「じゃあ対面の椅子に座ってくれるかな? カバンとかは隣の椅子に置いてくれて大丈夫だよ」
「りょーかいです!」
立花さんは丁度真ん中、長椅子を挟んで未耶ちゃんの前に座った。言われた通りカバンを隣の椅子に置き、グルッと生徒会室の中を見渡す。
「あれ? 今日は会長さんいないんですかあ?」
「会長は今日補習です」
「そっか。じゃあそこの方は?」
「悟先輩は生徒会に興味があるとかで……」
未耶ちゃんは少し気後れした様子で説明する。というか未耶ちゃん人見知りなんだな。さっきのも別に俺が男だったからとかそんなのではなさそうだ。
あと俺そんな扱いになってるのか。本当は興味あるなんて一言も言ってないんだけどな。
長岡さんはコホンと咳払いをして、場を整える。皆の意識が集中したところで口火を切った。
「単刀直入に訊くね、立花さん。どんな相談で来たの?」
ズバッと核心を突く。いくら立花さんが明るい子だったからって、それは遠慮しなさすぎじゃないか……?
しかし立花さんは立花さんで余裕があるのか、嫌な顔一つせずに話し出した。
「あの、あず今クラスの女子に無視されてるんですよね。それをどうにかしてほしいっていうか」
「無視、か……」
馴染みのある言葉に、思わず呟いてしまう。
中学で拒絶されてからは俺も毎日無視されてたな。俺が声をかけたら別の人に話しかける。俺が視界に入ったら目線を逸らす。そんな日々が半年程続いた。
自分が一切必要とされていないあの感じ。気丈に振舞ってはいても内心は辛いはずだ。
「無視された原因とかはわかる?」
「多分あずが皆に文句を言ったからですねー。他人のこと無視して楽しいの? って。あっ、その他人っていうのはあずのことじゃありませんよ? また別の女の子です」
……ふむ、発端は同調圧力に背いたから、か。強い子だ。
(そういうくだらないの、あずホント嫌いなんだよねー。それに流される周りの人も嫌いだけど)
「みんながみんな、そう思える人だったら良いんだけど」
聞いてばかりも何なので、軽く口を挟んでみる。まあそう思えないのが人間なんだけどね。
……あ、今のテレパシーの方かも。変に思われたかな。
「えっ? ああ、そうですね。ただあず的にはむしろそう思えない人が悪いって思いますよ」
予想外の返答に若干立花さんは面食らいながらも応答する。
理想はそうだ。悪いことは悪いと言える。正義感を持てという訳ではなく、事実を口にすることが大切なはずだ。
(えっと、何だっけこの人。宮田先輩? 何かあずと似てるかも)
……似てる、か。同じ境遇になったことがあるからこそ、考え方も似るのかな。よく分からないけど。
(てかあずにデレってしてない男子とか珍しっ)
凄いこと考えるなこの人……。
立花さんはにまっとして俺と目を合わせる。可愛いんだけど、その奥に見える心が透けてるからなぁ。何されるかわからなくて普通に怖い。
「宮田先輩!」
「えっ、と。何?」
「あずのことぉ……、慰めてくれませんかぁ?」
(とか言ったらこの人だって……)
「あ、その。ごめん。俺生徒会じゃないから」
「はっ?」
「いや、ね? 俺一応今日は見学扱いだから」
(……ブス専なのかなこの人)
「別に普通に可愛い子が好きだからね?」
なんて勘違いするんだこの子は。自信があるのは結構なことだけどさ。
「あっ、もしかして今あずのことブス扱いしたんですか!? ひっどぉい!」
「違うから! 立花さんのことは可愛いと思ってるって! ていうか長岡さんも何か言ってよ!」
さっきからずっと何を黙ってるんだ長岡さんは。俺のフォローをしろとは言わないけど、進行は長岡さんがしてくれなきゃ始まらないぞ。
「……よし、立花さん。あなたはどうしたいの?」
仕切り直しと言わんばかりに両手を合わせ、そう問い掛ける。立花さんは少し不服そうにしながらも長岡さんへ視線を移した。
「えっと、だから無視をどうにかしてほしくて」
「それは前のように仲良く話したいってこと? それとも学園生活に支障が出ない程度、つまりこれ見よがしに嫌がらせされないくらいってこと?」
長岡さんの質問、初めは意味が分からなかったけどそういうことか。
要は問題の解決か解消か、それの違い。こちらとしては後者が圧倒的に楽なのは言うまでもない。
……いや、こちらとしてはってか生徒会側としてはだけど。俺は別に生徒会に属していない。
「質問に質問を返して申し訳ないのですが、それは言ったら叶えてくれるんですか? 前みたいに仲良く、なんて三者の介入だけで出来ます?」
さっきから思ってたけど、立花さんって結構何でもズバッと言うんだよな。テレパシーはずっと使ってるけど、言葉と心のズレが殆ど無い。あるとしてもそれは推敲しただけだ。
そしてそれは長岡さんも同じように思っていたようだ。
「出来るよ」
短く端的に、断言する。本心から言っている言葉だ。
「……随分な自信ですね」
「勿論、あなたの協力無しには無理だと思うけどさ」
「それくらいはします。……だけど、ごめんなさい。仲良くはいいです。少なくともあの子達とは」
立花さんの達観したような眼差し。何かを諦めたような、そんな感じの目。
俺は酷く既視感を覚えた。
「賢明だと思う」
考えるよりも早く、口から出ていた。
「多かれ少なかれ人間は不満を相手に持つ。それを内側に隠すから仲良くやっていけるわけで、一度爆発したのならそれはもう元通りにはならない」
よしんば仲良く出来たとしても、それには必ずぎこちなさが伴うはずだ。
「ただし修繕なら別だ。一定の距離を保つのであれば、もう同じことは起きない。嫌だった点には目がいかない」
人間は基本見たくないものは見ないから。近くだから見えてしまっただけで。
「……ごめん、生徒会でもないのに出しゃばって」
「いいよ。実際私もそう思うから」
「わ、わたしも悟先輩の言う通りだと思います!」
長岡さんと未耶ちゃんが続けて支持してくれる。何だか少しホッとするが、むず痒い感じもあった。
「……ですね。あずもそんな気がします。では生徒会……と宮田先輩の皆さん。関係の修繕、お願い出来ますか? ちゃんと一から全部話しますので」
「うん。任せて」
長岡さんの毅然とした態度は当事者でない俺からでもわかる頼もしさだ。思わず見入ってしまう。
「……あ、俺も? 俺今日だけのはずなんだけど」
「君が居た方が早く終わるから。ほら、男の子の視点とかあった方が良いかもだし」
真面目な顔で言ってのける長岡さん。女子の中での騒動に男の目線は要らないと思うけど。
しかし。
(またそれっぽい理由を……)
(良いじゃん。人のため使うテレパシーのやり方、教えてあげるからさ)
(……ずるいな、長岡さんは)
そんなの知りたいに決まってる。それが出来たら、もしかすると中学の頃だって。
……まあ、後の祭りだ。それに遅かれ早かれ人間の醜さには気付いてしまう気もするし。
「じゃあ話しますね。男の方にはちょっとキツいドロドロした話かもしれませんが」
「えっ」
「初めは入学して半月程経った頃でした──」
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