第6話 グランディア帝国
時は少し遡り、秋貴たちが救出の為に準備を始めていた頃、山脈では怒声や金属同士がぶつかる甲高い音、地面が爆発する音、人が倒れる鈍い音が響いていた。
「耐えろ! 敵を陛下に近づけさせるな!!」
そんな中、そう叫ぶように指示をする2mを超える大柄な男は、銀色に輝いていたであろう鎧を土や返り血などで汚しながらも、目の前の敵が突き出してきた剣を右腕にもった
頭を二つに割られた敵は力を失う様に崩れ落ちるが、その後ろから新たな敵が迫ってくるのが見えた。
キリが無いと舌打ちする大男。
「アングリフ・ジーク軍団長! 前に出すぎては危険です!」
「俺が前に出ずに誰が出るというんだ!!」
アングリフ・ジークと言われた大男は、後ろで共に剣を振るっている部下からの制止に怒鳴り返し、更に敵を切り倒す。
だが、それでも相手の攻勢は衰えない。尚も打ち取らんと攻め立ててくる敵兵は、アングリフに罵声をあげて切り込んできた。
「この獣風情が!」
「はんっ! それがどうしたぁ!」
アングリフは罵声には罵声で返し、切り返していく。
「貴様らが獅子の獣人であるこの俺をただの獣と呼ぶのなら、狩ってみるがいい!」
まるで自分を狙ってみろと声を張り上げる大男のいうように、その姿は獅子の顔を持つ人であった。白い毛肌や白金に輝く
そんな白獅子の獣人であるアングリフはその名の如く
「くそっ!? 化け物め!」
「なんて力だ!」
立ち向かう者全てを、その手に持つ斧で簡単に断ち切っていくアングリフの姿に敵兵たちは恐怖と怒りがない交ぜになった感情を吐き出す。
そのせいで尻込みする兵がいたのか、攻勢をかけていた敵の勢いが衰えた。
それを逃すアングリフではない。白獅子の左手に光が急に収束し始めた瞬間、それを敵兵めがけて撃ち放った。
「
左手から一直線に放たれた光は莫大な音と共に一瞬にして突き抜ける。その光の正体は稲妻だ。それらが辺りに放電しつつも、まるでアングリフの腕から雷が生まれたかのように数十人の敵兵を飲み込んだ。
飲み込まれた敵兵はあまりの電熱などで肌が焼かれ、黒く炭化した体から煙を出して倒れていく。
直撃を浴びた者は即死だった。また、地面も放電の威力によって弾けるように爆発したのか周囲に石などが拡散し、それを体に受けた者が負傷して痛みに
(くそっ! どうなっている!? 何故こんな威力しか出ない?!)
だが、アングリフは悪態をつく。
明らかに威力が衰えている。普通ならこの一撃で、敵兵の大半を片づけられるはずだったのだ。
戦ってから2日が経っているが、その時に使った魔法やスキルの全てがそうだった。
威力を高めようと溜め込んでから撃ってもいたが、それも多少あがったくらいで戦況に対して影響を与えずに終わってしまった。
そして、それらを繰り返すうちに次第に後退していき山脈の一つの山に追い詰められつつある。その山は、片側が削られていて崖のようになっている。下がり続けてしまえばその後は飛び降りるしかない。
だが別に崖を駆け下りることは問題ではない。
問題なのはアングリフの仕える王の状態にあった。
「大将! 俺様の魔法もダメだ! 全く威力が上がらねぇ!」
「狼狽えるなガルド! 陛下が良くなるまでの辛抱だ!」
アングリフは、いつのまにか近くにいて後ろで叫んでいる灰色狼の獣人であるガルドに答えつつ斧を振る。
白獅子が懸念しているのは、彼の言う通り自らの王である陛下である。
こうなる前、黒い影と戦いつつアルスラグナ皇国へと援軍として向かっていた時に、黒い泥に飲み込まれてしまい、気づいたら転移していた。
別にそこについてはアングリフは気にしなかった。むしろ、黒い影が目の前から跡形も無くなってしまったことに物足りなさを感じたという思いすらあった。
アングリフの配下の兵たちも皆そんな感じで、戦えないと不満を呟くこそすれ、取り乱したりする者はいなかった。
そう、1人を除いて。
転移したその瞬間、共にいた彼らの王は唐突に狂乱した。近寄って安否を確認しようにもそれを拒否するように暴れたりもした。
いままで決然としていた王が、急に変貌したことでアングリフらは困惑する。
そんな状態から戦闘が始まってしまったことで、アングリフは王の容態などをそれ以降知ることができていない。
今は、アングリフの兵らが王を守っている。
出来ることなら王がアングリフらを拒まなくなるのを待ちたいところではあるが、最悪それを待たずに無理矢理抱えて崖を降りることも考えなければいけない。
「もって、今日までか……?」
戦いつつも、呟くようにアングリフは今後の事を計算する。
味方の兵は当初1000人だったが、度重なる戦闘でそれも大分減ってしまった。
そしてこの戦線を維持しているのも、敵の数が多すぎて最早限界に近い。
それでも、何とかギリギリまで留めておきたい。そう思いながら、アングリフは相手の攻勢が止むまでひたすらに戦い続けた。
―――――――――――――――――
「……どうやら、凌げたようで」
「……ああ」
ガルドのその言葉に、アングリフは疲れたように答える。
切っても切っても途切れない攻勢にいよいよ限界かと思われた時、ついに敵兵が引き始めたのだ。
彼らは戦うことに必死で後になって気付いたのだが、敵の後方から退却の合図ともいえるような音を出しているのが聞こえた。
アングリフ始めガルドや他の将兵達は、唐突に始まったこの2日間の激戦に疲労困憊状態であったために安堵するように倒れこむものや、膝をつくものが多数いた。これ以上交戦していれば危険な状態になっていたであろう事に、周りを見回すアングリフは歯噛みする。
(俺がもっと上手く使ってやれたら犠牲ももう少し抑えられた)
そんな事を思うが、その思考も直ぐに切り替え疲れた体を引きずるように歩き始める。
向かうのは、彼、いや彼らグランディア帝国が崇拝する唯一の王であるヒオウ陛下の居場所。
だが、それは直前で遮られてしまった。
「未だヒオウ陛下の容態は思わしくなく、大分落ち着かれましたが人種族以外の者が近づかれると恐慌状態になりますので、申し訳ないのですが……」
「……そうか」
人種族の配下にそう言われてしまい、無表情でそれを聞いたアングリフはそう返すしかない。
王の為には無理に入っていこうとはとても思えなかった。
また、時間がないのも理解している。
次はいつ敵が攻めてくるのか分からない。
周りでは次に起こるであろう戦いに備えて、怪我の軽い者が優先的に魔法や薬などで治療され、重傷の者は残念ながら後回しにされている。
もし、ヒオウ陛下を連れて逃げ延びる事になった場合は重傷者はその場に置いていかなくてはいかなくなるだろう。
それを悟っているのか、最後の言葉を近くの仲間に伝えている者さえいる。
アングリフは疲れている身体にも関わらず尚も仲間の元を歩きつつ考える。
敵は自分達より兵が多く、疲労具合に違いが出ている。装備に関して敵は重装備であり、中々攻撃が通らない。魔法では相手に相当な部隊が存在しており、それによってかなり削られている。更にアングリフ達の兵で動けるのは軽傷を含めて約500人。魔法を使えそうな人材もかなり戦死してほぼいない。加えて、いまだに収まらないであろうヒオウ陛下の
あまりにも絶望感さえ漂いそうなこの時にアングリフは、
(選べる手段は少なくなった。ならばどれを選択するか……)
だからこそ冷静になり思考を巡らせる。
兵たちの疲労の具合やヒオウ陛下の状態に関して気になるところではあるが、それでもこれはアングリフにとって悪いとはいっても最悪とはいえない。
ここまで追い詰められたからこそ、アングリフは相手が次に攻めてくる時何をするのか推測することができていた。
敵が退却した時は疲労で働かなかった頭も、一旦休めた事で先ほどよりも廻っている。
暫く佇んだままで思考を巡らせたアングリフだったが、覚悟を決めたような表情になると周りに叫んだ。
「警戒に当たっている兵以外で主な者を集めてこい! これからの事で伝えたいことがある!」
そのあまりの大声に吃驚して近くの者が尻餅をついてしまったのだが、その言葉の意味を理解するや否や立ち上がるとガルドをはじめとした指揮している者を急いで呼びに行く。
そしてアングリフは、ようやく腰を地面に下ろす。普通なら天幕などを張った中で行うのだが、この状況ではそれは用意できない。
いや、むしろない方が都合が良い。周りの配下たちにも聞かせなくてはいけない話なのだ。
動揺するかもしれないが、自分と共にここまで来た兵たちならばついてきてくれるだろうという確信がある。
(問題は、誰をどの配置につかせるか、だ)
なるべくならガルドたちには生きてほしい。それが難しいとは分かっていても、多くの者に生き抜いてほしい。そういう想いもあってか、アングリフが考える配置は自ずと決まった。
(まぁ、別にいつもの事をするだけだ)
アングリフは小さく笑い、最後の夜を楽しむように空を見上げた。
それから数十分後、アングリフの下にはガルドの他数名の将兵が集まっていた。
皆鎧や服、身体などに血や泥などがついており、誰一人として無傷の者はいない。
それでも、瞳には折れることのない闘志のようなものを
誰もがこの窮地を切り抜けようという高い士気をアングリフは感じる。
心が折れていないのを確認した白獅子は頷くと、周りを見渡しつつ口を開いた。
「今からこの後に起こるであろう戦について策を考えた」
「それはどんな策なんだ?」
真っ先にガルドが聞いてくる。
いつも気さくな感じで喋る彼の普段とは違う表情に、このままやられっぱなしで終わってたまるかという気概を感じるアングリフは、周りにもはっきりと告げるように言葉を発した。
「流石にもうここに留まる余裕はない。陛下の状態によっては円滑に事が運ぶかもしれんが、そうでない場合は無理矢理にでもお連れして逃げ延びるしかしない。さて、その撤退についてだが……部隊を3つに分ける」
「3つ?」
いまいちピンとこないのか、ガルドは首を傾げる。
他の将兵も、兵の数が少ないこの状況で更に3つに分けるという策に疑問を持っている様子だ。
だが、
「一つは、ヒオウ陛下を守りつつ撤退する言わば本命。一つは、ヒオウ陛下に扮して敵を引き付ける囮役」
そこまでアングリフが話した時には、首を傾げていたガルドらまでもが理解していた。
いや、正確にはアングリフがやろうとしている事について驚愕したという方が正しい。
「最後に、敵正面の中へと突撃して相手を混乱させ、撤退する者たちを支援する部隊だ」
「まさか……」
無意識に声に出してしまった将兵の一人。
だが、信じられないと思いつつも、もしかしたらという思いが浮かぶ。
どこぞとも知らぬ相手といきなり交戦してきた中、アングリフたちは彼らの王であるヒオウ陛下の恐慌状態や命令が無いことで、ただただ下がる事しかできなかった。
そして一度も攻勢に出ることもなかったアングリフたちに敵は
その可能性はある、とアングリフは少なからずそう思っている。
「今のこの状況だからこそ、相手の油断を誘うことができる。策を弄するならばここが好機だ」
「もしかしてアングリフ軍団長……」
まさかと思いつつも、ガルドは目の前にいる白獅子を見る。その表情からアングリフのしようとしている事を理解した途端、ガルドは慌てたように叫んだ。
「あんたは敵に突撃する部隊の指揮をするって事か!?」
「そうだ」
「何言ってんだよ! 駄目に決まってんだろ!?」
ガルドは、周りが慌てて抑え込まなければ今にもアングリフに向かっていきそうな勢いで詰め寄った。
だがアングリフはヒオウ陛下と、慕ってくれているガルドらに生き抜いてほしいと思っている気持ちでいる。だからこそ、敵の
そうすれば、少ないながらも生還できる者が出てくる可能性がある。
アングリフとしてもここは譲れないのか、ガルドとは反対に落ち着いたまま説得する。
「俺が指揮すれば敵の中を進んだとしても、少なくとも生存できる可能性がある」
「そりゃあ可能だろうさ!」
即座にガルドはそう言った。そこはガルドも他の将兵もアングリフであれば可能だと疑わない。
しかし、アングリフは分かっているようで分かっていない。
内心、そんな憤りを感じながらガルドは叫んだ。
「だけどな、別にそれで生き残る可能性があるのはあんただけじゃねえ!」
「何……?」
そこで初めてアングリフの眉が怪訝そうに歪んだ。
その表情に多少の留飲が下がったのか、
「俺様はいつもあんたの背中を追い続け、そして今の今まで生き残ってきた。だが、そろそろあんたの背中を見るのは飽きていたところだぜ」
「ガルド……」
「だから、俺様があんたの代わりに暴れてきてやるよ」
その役目は俺にやらせろ、とでもいうようにガルドは言い切った。
明らかに生き残る可能性が低いと分かっている筈なのに、ガルドには悲壮感はない。
それでもアングリフは首を横に振る。
「……駄目だ。お前には生きてヒオウ陛下についてもらわねばならん」
それでも否定するアングリフに対して、ガルドは拳を強く握る。
「アングリフ。アングリフ・ジーク軍団長! こんな時は普通あんたが陛下につかなくちゃいけないんじゃないのか? それはいままでもそうだっただろ。なんでこの時になって俺様に任せようとする?」
「…………」
そんな疑問を、アングリフはしかし無言でもって答える。
周りの者たちも理由を知りたいが為に静かに二人のやり取りを見つめていた。
そしてしばらく沈黙が続いていると、不意にぽつりと白獅子は呟いた。
「連れてきた兵が少なかったのもあるが、ここまで追い詰められたのは今までで初めてだ。正直、生き残る確信も持てないこの状況だからな。そんな状況なら若い奴を優先するのも当然の考えだろう?」
瞬間、ガルドは我慢の限界とでもいうように地面に拳を叩きつけた。
かなりの威力を込めていたのか、地面が砕けて辺りに土などが弾け飛ぶ。
そして、灰色狼の獰猛な顔をアングリフに向けて言った。
「良く分かったぜ。ああ、良く分かった!」
まるで悲痛な思いを叫ぶようにガルフは怒鳴る。
「あんたが俺様を信じてないのが良く分かった!」
「何!?」
「そう思われても仕方ないってことだよ!」
背中を任せられるほど信頼もしているガルドにそんな事を言われて、アングリフはいきり立った。
だが負けじとガルドは睨み返して言う。
「なんで俺様が生き残ると思ってくれない? なんでヒオウ陛下に付かずに前線での指揮をしようとする?
綺麗ごとを言ったって、結局それは信じてないってことと一緒だろうが!」
「…………」
目を見開いて固まったようにアングリフはガルドを見つめている。
まさか、自分が部下たちをなるべく生き延びさせてやりたいと思っていたことが、そんな風にとられているとは思わなかった。
尚も、吠えるようにガルドは続けた。
「いいか!? 陛下にはあんたが必要だ! 陛下は今混乱しているだろうが、落ち着いた時に力になれるのはいつも傍にいたあんただけなんだ!」
グランディア帝国では、最古参の者は既にアングリフしかいない。他の者はこれまでの様々な国との戦争で戦死している。
長い間共にいて王を理解しているアングリフがここで離れてしまえば、どうなるか分からない。
それが分かっているからこそ認めるわけにはいかなかった。
「だから、俺様が代わりに指揮をとる。なに、あんたが驚くような戦果をあげてやるからそこも安心してくれ」
ガルドは自信に溢れた言葉と表情で、背中を追い続けた男を見る。またガルドに付き従っている部下も、口々に一泡吹かせてやろうなどと言ったりもしている。
最早、ここで否と言っても聞く耳を持たないだろう。アングリフ自身も、これ以上言う言葉はなかった。
白獅子は頼もしい彼らに頷く。
「頼む」
その言葉で、作戦が決まった。
―――――――――――――――――
「まず部隊を三つにするにあたって、分ける兵はガルド隊に300。本命である俺の隊と囮役に100ずつだ。反撃する部隊の人選はガルド、お前に任せる」
「ああ、任せときな!」
集まった将兵たちの間で、アングリフたちは次の戦闘に備えての作戦を綿密に行うため話し合う。
それには彼らの王であるヒオウ陛下も一緒にする必要があったのだが、未だに人種族以外では近寄ることさえできないので無理と判断したためこの場にはいない。
「ヒオウ陛下に関しては、最早話し合って理解してもらうという時間がないため、無理にでも連れていくしかない。まぁ、連れて行くにしても俺が近くにいて大丈夫なのか心配ではあるが……」
懸念するようにつぶやくアングリフ。
しかし、もうそれを心配しても仕方がないのか、直ぐに切り替えて相手がどう出てくるか先ほどまで推測していたことを周りに話していく。
「とりあえず、敵は次の攻勢で
それを聞いて悔しそうに
アングリフは続けて言う。
「相手もそう思っているだろう。今回撤退したのも、最後には敵の魔法兵の魔力がなくなったからだろうな」
「凌いだというよりは、相手の魔力が無くなったタイミングに助けられたという事か?」
「そういう事だ。実際、最後の方は魔法で攻撃される事が無くなって、そのすぐ後に退却したからな。なら、自ずと相手のやろうとしてる事は予想できる」
ガルドや他の将兵たちの表情を見ると、大体予想出来たのがアングリフは分かった。
「開戦と同時に、奴ら魔法を使うという事か?」
「その可能性は高い」
ガルドが確認するように尋ねると、アングリフは同意して頷く。
「まぁ、可能性が高いというだけで確実にそれで来るという訳ではないだろうが、やる事は変わらん。むしろ、魔法を撃ってこないのなら好都合だ。そのまま反撃していくだけだからな」
「確かに俺様にとっても魔法がなければ攻めやすい。逆に魔法を撃ってきたのならちと厄介だろが……」
考え込むガルドに、将兵たちもあちこちでどうするか話し合う。
魔法を撃たれた場合の対処などを話し、様々な意見が出てくる。
撃たれる前に相手の懐に入り込む。相手の魔法に合わせて撃ち込み、相殺はできないが逸らすなりして突っ込む。一度散開してから凌ぎ、再び集結してから反撃する。
そのどれもがメリットとデメリットを孕んでいるが、共通しているのはいかに短い時間をかけて相手にたどり着けるかだった。
時間を掛ければそれだけ押し込まれ、本命であるヒオウ陛下の逃げる隙も時間も無くなってしまう。
また、本命を逃がすにしても相手が混乱していなければ直ぐに追いつかれてしまうのも問題だ。
だからこそ、反撃する一手で素早く相手に打撃を与えなければだめなのだ。
「簡単ではないだろうな」
「今までからしても奴らが中々崩れないことから俺様もそう思う。だが、それは奴らが攻められていないからだ。俺様たちが突撃したら奴らなんぞ
「「おうっ!!」」
「それは頼もしいな」
かなり意気込むガルドや、それに呼応する他の将兵たちにアングリフは笑った。
気後れも何もないその態度が彼らの精神の強さを表しているのが分かる。流石はグランディア帝国の兵士たちだと思いつつ、敵中に突撃を敢行するガルド隊の最後になるであろう今後の戦いについて、白獅子は将兵たちへ告げた。
「次の戦いが厳しいものになるという事は先にも言った通りだ。無傷の者は一人もおらず、ここにくるまでに多くの仲間を失った奴も多いだろう。このままでは勝てはしない。だが、これは勝つための戦いではなく、生き延びるための戦いだ。その事は皆よく分かっていると思っている。だからこそここまで耐えてきた」
アングリフの静かな声に、いつの間にかガルドら将兵たちは耳を傾けている。
「俺たちはグランディア帝国のただ唯一にして崇高なるヒオウ陛下の兵士だ。そしてその陛下の為にと、どんなに苦しい戦いでも俺たちは前進してきた。なら、足を止めるな。例え隣にいた仲間が倒れようと、それを乗り越えて進め。そして奴らに、どんなに劣勢となろうが俺たちは決して屈しないと思い知らせてやろうじゃないか」
その言葉に、まるで胸の中の熱い感情を吐き出すように将兵たちは声を上げる。
「ガルド副団長と我々にかかれば奴らなんぞ怖くもありません!」
「精強なるグランディアの兵士がどれ程のものか、まだ知らないあいつらに見せてやりましょう!」
「ヒオウ陛下の
口々にそう言う将兵たちは、覚悟が決まったかのように晴れやかな表情だ。
例え自分が倒れても仲間が後を引き継いでくれる。そんな信頼が皆の内にあった。
アングリフやガルドは互いに頷きあう。
「行こう。俺たちの本当の力がどんなものか、奴らに見せてやろうじゃないか」
「「おうっ!」」
アングリフの言葉に、集まっていたガルドら将兵たちは万感の思いで呼応する。
最後の戦いまで、あと数時間を切っていた。
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