第5.5話 将軍たち
秋貴が立ち去ってからしばらくして、
と思ったのもつかの間、一人が肩を回して愚痴を
「いやー、やっぱこういう堅苦しい挨拶は肩が凝るよねー」
「これ、ウズメ。いい加減挨拶の後にそういうのはよさんか」
巫女服の上に日本鎧のようなものを着た、女武将ともいうような恰好をしているアメノウズメ。周りからはウズメとも呼ばれる女は後ろで一つに束ねている短い黒髪を揺らす。額には真ん中ではなく片方に寄った一本角が長く突き出ており、瞳はガーネットのように美しい
「はいはーい、ちゃんと分かってるよ。でも、ボクがそれに対してどう返すのかも分かってるでしょ?」
そんな女武将の鬼人は、エンテイにそう告げて手を振る。それは話半分にしか聞いていない事を示しているのが明らかな態度だ。
そんな状態で、短い後ろ髪をゆらゆら揺らしながらウズメは去っていった。
「全く、
やれやれと首を振って溜息を付くエンテイ。
巨大な猿という容姿で、頭に鉄兜を被り、分厚い鉄板で作られた手甲と
「まあまあ、エンテイ殿。ウズメ殿はやるときはしっかりとしていますから大丈夫ですよ」
「兄様の言う通りです。ウズメ様はあのままが素敵だと思いますわ」
肩を落とす巨大猿エンテイの足を軽く叩いて慰めるのは、エルフ兄妹の二人であるカーライルとカロラインだ。
カーライルとカロラインは、エルフ特有の金髪碧眼の美形を表している。
カーライルは細身ながらも筋肉がついた身体で、金髪をオールバックした優男の容姿をしているが、左目に傷跡が縦に走っているのが良く目立つ。服装は、動きやすいという理由で軽装鎧を付けている事が多く、今この時も部分的に鉄を仕込んだ皮鎧姿となっている。
一方カロラインはスラリとした体型に、腰まで下ろした金髪が映えて、頭にはエルフ民族の象徴を表している布を巻いており、見る者がいればその姿は神秘的にすら見えてしまうだろう。
服装は白と緑を基調としたエルフの民族衣装を着ており、その上に白のローブを羽織っている。
そんなエルフ兄妹に慰められたエンテイは、致し方ないと思うように頷く。
どの道、エンテイ自身もウズメの性格は嫌という程分かっているのだ。こんな小言を一つ二つ言ったとしても聞くわけがない。
と、そこでまだ何もしゃべっていない人物がいることに猿人は気づいた。
「そういえば、キヨヒメは大丈夫かのう?」
そう、アラクネという蜘蛛のモンスターのキヨヒメが全く会話に入ってこないのだ。
いや、その原因は良く分かっているのだからそう声を掛けたのだが。
キヨヒメがいたであろう場所に振り返って見てみると、そこには物陰から隠れているアラクネが見えた。
隠れているのに人より多少大きい身体の一部がはみ出ているので丸分かりだ。
そんなキヨヒメは視線を向けられ、ビクビクと怯えて震えている。
上半身が人で下半身が蜘蛛のその女は、腰まである長く綺麗な黒い髪に褐色の肌、赤よりも深い真紅の瞳をしており、その外見から惑わされてしまいそうな魅力があふれている。服は肩を出した
「わ、わたくしの事はお構いなく……」
「はぁ……キヨヒメ、お前さんは皇帝であるアキタカ陛下の配下であり将軍の一人。それがそんなに怯えていては示しがつかんのだがのう?」
キヨヒメはそう言われても、申し訳ありませんと言いつつ物陰からは案の定出てこない。
どうしてこうも癖のある奴しかいないのかと嘆きたくなるエンテイではあるが、その実力は認めているので言いすぎる事はしない。
とにかく、今は時間をかけることなどしてはならないのは明らかだ。
不可解な異世界転移をしてからの初めての戦闘なのだ。まだまだ分からないことだらけのこの場所で、準備を万全にしておくのは当然でもある。
それが分かっているからこそ、ウズメは早々に自分の軍団のへと戻っていったのだろう。エンテイからしたら、ウズメは逆に戦が好きすぎるきらいがあるので抑えてほしい所ではあるが。
「キヨヒメ殿は純粋な方ですからね。争いごとが嫌いなんですよ。だからあまり責めてはいけませんよエンテイ殿」
「むぅ、そうは言うがのう。ウズメとは違う意味で心配なのだ」
方や戦好き、方や戦嫌い。なんとも両極端な二人。
将軍の中でも特に心配してしまうのはエンテイとしても仕方がないことだ。
そんな気苦労をカーライルは良く知っているので、苦笑しつつも同意している。
そこに、カロラインがクスクスと笑う。
「エンテイ様は、なんだかお二人の父様みたいですわね」
「それはやめてくれカロライン。考えただけで頭痛がしてくるわい」
嫌そうに顔を歪めるエンテイ。
カーライルはエンテイが父親としてウズメとキヨヒメに接している姿を想像してしまったのか、口元を抑えて笑っている。
エンテイが情けない顔をしている中でひときしり兄妹が笑った後、二人もそろそろ戦の準備をするという事でエンテイに対して礼をする。
「それではエンテイ殿、そろそろ僕たちも戦のための準備をしてくるよ」
「何が起きようとも私達がすることは変わりありませんが、エンテイ様たちも十分お気をつけてくださいね」
「うむ、では戦場にて活躍することを祈るとしようかのう」
エンテイもそんな二人に対して笑顔で答え、自分の配下のところへと戻るのを見送る。
「さて、キヨヒメ。お前さんも
そして、キヨヒメに対しても戻るように言おうと向き直ったのだが、そこにはすでに物陰に隠れていたキヨヒメの姿はなかった。
いつの間にやらキヨヒメも戻っていってしまっていたらしい事に気づいて、再度ため息が漏れる。
「ゴットハルトがいればもう少し纏まりがあるのだがなぁ」
そう呟きつつ、エンテイも皇帝の出陣に遅れないようにと戦の準備のため、自分の率いる軍団へと向かっていった。
目指すはグランディア帝国の救出。
刻一刻と、その時は近づいてきていた。
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