1-4
三〇二号室を飛び出したカルディアは、直ぐ様近くの地下避難区画入り口へと入り込んだ。
市街地に開いた地下施設への入り口、色とりどりの町並みから灰一色の世界へと入っていく階段。
それを、カルディアはあっと言う間に駆け下りていく。まるで疾風のような、人ならぬ速度だった。
その階段の途中で、カルディアは走りながら壁に右手を触れる。一見すると、何の変哲も無い壁だったが、カルディアが触れた瞬間、その壁はがたりと倒れて大穴を開ける。
それは、第一〇六八コロニー内に張り巡らされている特殊連絡通路網への入り口だった。開けた連絡通路網への穴へと、カルディアはその身を躍らせた。
特殊連絡通路網は、第一〇六八コロニー内のとある場所へと直通の高速移動システムが働いている。それは滑り台やスライダーのようなものだった。
滑り落ちていくようにして、カルディアはとある場所へと辿り着く。
そこは、あまりに広く、あまりに天井が高い空間だった。地下空間に存在する、巨大な箱のような空間。
カルディアはそこに着地すると、空間の中央に存在するものに目を向けた。
それは巨大な――あまりにも巨大な、人型の機械だった。
広大な空間にあって、その人型はなおも巨大だった。まるで、天へとそびえ立つ柱で有るかのように。
人型と言っても、その姿は完全に人体を完全に模したものというわけではない。
両肩は大きく張り出しており、両腕両足は太い。まるで、巨人が白い装甲か甲冑を纏っているかのような姿をしている。
白い柱。巨大な守護像。
否――そこに有るのは、白い
その胴体部中央には、翡翠色をした、宝玉のようなパーツが存在する。
カルディアは見上げてそこに視線をやると、地を蹴って跳躍した。白い
カルディアが翡翠の宝玉へと触れる。その瞬間、宝玉が波打ち、カルディアの右手が――そしてその全身が、宝玉の内側へと飲み込まれていく。
翡翠の宝玉と見える物体は、当然の事ながら宝玉ではない。
もっともデリケートな部品――それは当然、主にタンパク質と水分で構成された、対人インターフェイス部に他ならない。
カルディアの身体を完全にその内へと収めると同時に、
それは巨神像が、意思を受け入れた証左だった。
同時に、
「
パラディオンはカルディアをそのパーツとして取り込むことにより、機体として完成するのだ。
パラディオンは都市防衛機構パラディオン・システィマから送られてきた情報を精査。砲撃による都市の損傷と、撃ち出された砲弾が、都市に居座っている事実を認識する。
パラディオンは推論する。
撃ち込まれたものがただの砲弾なら、あのような形状を保ったままで居るのはおかしい。ならば、あれは砲撃ではない――正確には、砲弾によるダメージを目的とした攻撃ではないのではないか。
では、あの砲撃は何が目的か。攻撃の意図は当然存在したはずだ。
あの球体がそのまま残っている意味はつまり――
「輸送、か」
そう考えるのが、妥当であろう。
砲撃は、あの球体を送り込むために行われた。あの球体こそが、敵である。
で、有るならば――
この都市を脅かす存在は、全て排除する。
「パラディオン――出撃」
パラディオンの足元が、がたんと音を立てて揺れる。
それは、この施設内部に取り付けられた昇降機だ。その用途は、当然、パラディオンを地上へと輸送すること。
大地が競り上がり、パラディオンは地下から地上へと持ち上げられる。
機械仕掛けの箱庭から、現実世界へと。パラディオンがレイヤーを越えていく。
パラディオンが天蓋に近づくと、天蓋が中央部から二つに割れるようにスライドする。パラディオンを、外へと出すために。
外へ、地上へ。パラディオンが頭を、その身体を表していく。
パラディオンが立つのは、第一〇六八コロニーの道路の一つ。
割れた空の下、ビルの谷間に白亜の巨人が立つ。
その視線の先に存在するのは、当然の事ながら、件の球体である。
大きさは、パラディオンと大差ない。なんとも巨大な球体だ。
パラディオンの翡翠の双眼が球体を認識する。排除すべき敵として。
だが、それは球体も同様だった。パラディオンが地上に立った瞬間、その身の変容が激しくなる。
まるで巨大な見えざる手によって、捏ね繰り回されて形を弄くられているかのようですら有る。
――実際、それは間違っているわけではない。
「――構成材質の状態変容を確認」
球体の状態を確認して、パラディオンは言う。そして、球体が姿を変えようとしていることを確認する。
球体の構成材質――ナノマシン・ケイオスが、その状態を変異させている。球体は、別の何かになろうとしているのだ。
それはつまり球体もまた、戦闘態勢に入ろうとしているのだろう。ならば――
「――仕る!」
パラディオンは拳を振り上げ、道路を蹴った。同時に、各部――特に、脚部背面のスラスターに点火。
パラディオンの巨体――その大質量が、スラスターの噴射炎に押し出されて、急激に速度を上げる。巨体の加速に、大気がついて行けずに悲鳴を上げた。
金属製の巨体が唸りを上げて、ドームの中を疾駆する――
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